Nスペの「半グレ特集」が組織の宣伝拡散に利用されている皮肉

8月17日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 新聞やテレビ、雑誌などで反社会勢力についてとりあげる場合、事実を報じるだけでなく、その勢力がいかに理不尽な存在であるのかも同時に伝える必要がある。だが、テレビのように視聴者の記憶に強く残る場面が全体の印象を決定づけやすいメディアの場合、制作者側の意図とは正反対の結果を生み出してしまうことがある。NHKスペシャル『半グレ 反社会勢力の実像』の放送後にあらわれた、皮肉な反響についてライターの森鷹久氏がレポートする。


 * * *

「NHK見たですか?よかったですねー。ああいう取材、俺たちにもやってくれんですか?顔出しできる奴も準備しますよ」


 数ヶ月ぶりに筆者に電話をかけてきたのは、福岡県内で飲食店を経営する男性・K(30代)。Kとは数年前に、とあるファッション雑誌の取材で知り合ったが、当時は九州に本部を置く指定暴力団傘下の現役組員だった。その後、組を抜け…というよりは「偽装破門」されて「カタギ(一般人)」として様々な事業を行なっている、と自称する。


 Kがいう「NHK」とは、7月27日に放送されたNHKスペシャル『半グレ 反社会勢力の実像』という番組だ。いわゆる「半グレ」とされる保釈中の男性らへの密着取材、女子大生に酒を飲ませて法外な飲食代を請求した上で脅し、風俗で無理やり働かせたという男性のインタビュー、元祖半グレ集団創設者までが登場し、大きな話題となった。


 特筆すべきは、大阪・ミナミの顔として登場した二人の男性が、顔出し、実名で取材に応じたことだった。一人は大阪で人気の地下格闘技団体のスターだったが、傷害事件などで逮捕された。その後も、診療報酬詐欺に関与したとして逮捕され、取材時は「保釈中」の身。もう一人も過去に傷害事件などを起こしているが、インスタグラムを毎日のように更新し、高級ブランド品で固めた自身のコーデや毎晩飲み歩く派手な姿を投稿し続ける…「今風」で、不良漫画から飛び出してきたようなアウトローといった印象を視聴者はもったはずだ。


 もっとも、大多数の視聴者は、全く悪びれることのない二人について「とんでもない奴だ」「怖い連中だ」と思ったに違いないだろうが、若者の中のごく一部は、件の放送を見て「反グレに対する憧れ」を抱いたのだという。前述のK氏が説明する。


「あげな(あんな)放送したら、半グレはかっこよかってなるに決まっとるでしょう。羨ましかです、彼らの周りには放送を見た若者がたくさん寄ってくるでしょう。確かに普通の人が見たら“怖い連中”かもしれんですけど、若者からみたら、多少、得体の知れんくらいの方が、憧れも抱きやすかわけでしょ。ほとんど宣伝ですよ、彼らの」


 Kが過去に面倒を見ていたという元部下も、SNSを使って自身の派手なライフスタイルをアピールしている。インスタを覗いてみると、高級焼肉店で美女と食事する動画、アウディやBMWなどの高級車を乗り回し、札束の写真には「本気で稼ぎたい奴募集」などと言った文言も載せられていた。「オレオレ詐欺の出し子やら、薬物の売人やら、そうしたところから集められて、実際に駆り出されるわけですよ。よか女ば抱いて、よか車に乗って、毎晩焼肉やらコース料理ば食う生活、そげな(そんな)生活ばしたかなーって言うてくる訳です、若いもんが。じゃあ、お前なんでもできるよな、言うこと聞くよな、っていう流れでカタにハマる。ただ実際には、元部下がその仲間や後輩にやらせたりする訳で、結局足はつかんです。元部下は店を何軒か任されとって、月の利益の15から20%を上げよる(納めている)らしいですけど、彼らは暴力団じゃないけん、みかじめ料とは違うですよ。なんも知らんで済むでしょ」


 半グレが顔出し取材に応じることは、当然リスクだらけだ。当局にマークされることは当たり前、SNSで逐一、自らの生活をひけらかそうものなら、それこそ検挙された際の「証拠」にもなり得る。なぜあえて、自らを「見せる」のか。


「本来、ヤクザもんだって出たがりが多いとですよ。でもまあ、表にバーンって出られるのは、そういう立場の人。自分は上に立って、派手にかっこよくやっとります、って宣伝して、部下やその下、もっと下に悪いことをやらせる。末端がパクられても、下がやったことで知らん訳です。暴力団は法律が厳しくなって、使用者責任とかで下から上までやられる(逮捕される)けどですね。半グレの親分は、暴力団じゃないけんね。派手にしとれば人はいくらでも寄ってくるでしょ」


 筆者もNHKの放送は見ていた。放送後、SNSでは「××さんが出てた」などの書き込みが相次ぎ、当の出演者本人も自らのSNSに「NHKに出演させていただきました」と記すくらいだ。当人らにとっては、ほとんど「宣伝」だった、というのも本当なのかも知れない。


 同じく、番組を見ていた民放関係者が言う。


「さすがNHKという構成で、半グレの実態を本気で探ろうとする姿勢が伺えました。私も同僚も、こんな奴らがいるんだと驚くばかりでしたが、あの放送を見て、彼らと知り合いになりたい、という若者がSNSにいるのを見て驚きました。放送をする側の意図が、そうした若者には全く伝わっていない」(民放関係者)


 NHK側は、意図せずとはいえこうした「負の反響」が出ていることについてどう考えているのか。筆者の問い合わせに、NHK広報局は「実態についてありのままをお伝えしたものであり、特定の人物、団体を宣伝する意図は一切ない」と答えるのみだった。


 改めていうが、渾身の取材であったことは言うまでもない。ほとんどの視聴者に「半グレの実態」をありのままに伝え、その恐ろしさを知らせることはできただろう。しかし、そうした取材や放送までも“利用”してしまう、半グレの若者たちの感覚を見落としてはいなかったか、とも思う。これを「価値観の違い」と片付けてはいられない。


 あえていうなら、彼らのファッショナブルなシーン、若者受けする無鉄砲ぶりが際立つ構成がいけなかったのか。もっとダサく、恥ずかしいようなシーンを挿入していれば印象は変わったのだろうか。半グレの実態を報じる番組が、半グレを増長させ、半グレに憧れを抱く若者を作り出しているのだとしたら、これ以上の皮肉はない。

NEWSポストセブン

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