なぜ「事故物件話」が流行るのか……「心霊スポットにドライブ」が流行らない時代の「怖い話学」

8月18日(日)17時0分 文春オンライン

「これは、大学の夏休みに友人たちと、××県にある有名な心霊スポットへドライブに行った時の話です……」


 誰もが一度は聞いたことがある「怖い話の出だし」だろう。



©iStock.com


 心霊スポットへドライブに行った彼らはこの後、


・危うく崖から落ちそうになって後ろからおばけに「死ねば良かったのに……」と言われたり

・廃病院からカルテを持ち出しておばけの看護師さんから電話がかかってきたり

・運転しているやつが下から生えてきた手に足を掴まれて「俺たち、友達だよな?」って言ってみんなに見捨てられたり


 するわけだが、今回考えていきたいのはそうした本編ではなく、この出だしのシチュエーションについてだ。


怪談の導入は「レジャー」から「生活」へ


「最近、テレビの怪談番組で『みんなで心霊スポットに行って怖い目に遭う』話を見ない気がする」


 友人との雑談で、季節柄もあって「怖い話」の話になった時、そんなことを言われた。


 確かにそんな気もする。実際に調べてみることにした。


 毎夏、特番が放送されるフジテレビのオムニバスドラマ『ほんとにあった怖い話』は、公式サイト内で「バックナンバー」として、連続ドラマ時代から昨年の「夏の特別編2018」までの放送内容が紹介されている。



 2003年の連続ドラマ第1期には、「みんなで心霊スポットに行く」出だしの作品は、全11回・42話中5話、発見できた。およそ2回に1回は、そうした話が放送されていたことになる。


 一方で最近の放送回を見ると、「夏の特別編2010」で放送された「叫ぶ廃病院」を最後に、それ以降「みんなで心霊スポットに行く」物語はつくられていないことが分かった。


 それに代わって増えているのが、清掃や解体など「仕事でやむなく心霊スポットに近づくことになる」導入や、「家賃が安いからと住んだ部屋が実は事故物件だった」という筋書きだ。


 登場人物が怪異に近づく理由づけが、「レジャー」から「生活」へシフトしていることがうかがえる。では、その理由背景には何があるのか。



製作陣は不法行為を描きたくない?


 まず想像できるのは、テレビ番組に課せられる制約が年々厳しくなっていることだ。


「子供に悪影響を与える」と言われれば、それがドラマで「不良」と明示されているキャラクターであっても、未成年の喫煙シーンは描けないというご時世だ。


 言うまでもなく、「みんなで心霊スポットに行く」物語の主人公たちは、訪問前に地権者や物件の管理会社に見学の許可を取ったりはしない。


「正しさ」が求められる時代、怪異へ近づくきっかけが「レジャー」から「生活」へシフトした背景には、作中で不法行為を描きたくないという製作陣の意向が読み取れそうだ。


——だが、それだけだろうか。


 筆者には、この変容にはもっと深刻な意味があるように思えるのだ。



「怖い話」にはリアリティが求められる


 上述の『ほん怖』をはじめ、怪談もののテレビ番組や書籍は「一般人から投稿された体験談」という形を取るものが多い。


「怖い話」を「怖がってもらう」ために、「実際に誰かの身に起こったこと」=「自分の身にも降りかかるかもしれないこと」だと思わせるのは有効なテクニックだからだ。


 視聴者・読者の共感が「怖い話」を支えるのだとすれば、「みんなで心霊スポットに行く」物語が語られなくなったもうひとつの理由が見えてくる。


 総務省の「全国消費実態調査」によると、30歳未満単身世帯(ちょうど、こうした怪談の主人公に選ばれる世代だ)の自動車保有率は、1999年には55.3%だったのが2014年は44.0%にまで減少している。都市部を中心に「若者の車離れ」が叫ばれて久しい時代にあって、そもそも「ドライブ」中に起こる「怖い話」が共感に足るだけのリアリティを逸してしまったことは想像に難くない。



 さらに言えば、「仕事でやむなく」型の物語や「事故物件に住む」物語の台頭もまた、若者を取り巻く環境の変化を反映していると言える。


若者の貧困が新たな怪談を生んだ


 世帯主30歳未満の世帯の月平均支出額は、1999年の20万1380円から2014年には18万1727円と、約2万円も下がっている(消費者庁「平成29年版消費者白書」)。家賃などの住居費が累積で4619円上がっていることや、スマートフォン・携帯電話の必需品化で通信費が増えていることを考えると、実際の支出額はさらに落ちていると考えられる。


 ブラック企業による搾取、望まない非正規雇用といった労働環境の劣化が、若者に十分な手取りを与えず、娯楽に費やす時間を奪っていく。不安定な雇用と社会保障への不信感が、退職を思い留まらせ、節約と貯金に意識を向かわせる。


「どんなにキツくても、今の会社を辞めたら行く場所がない」


「生活にかかるお金は1円でも切り詰めないと」



 そうした逼迫感が、多くの視聴者・読者に「仕事でやむなく」型の物語や「事故物件に住む」物語をリアリティあるものとして受け入れさせているのではないだろうか。


 若者の貧困が、「車を買ってみんなでドライブ」という「カネのかかる娯楽」で起こる怪談を時代遅れにさせ、「生活」への強迫観念を背景にした新たな怪談を生んだのだとしたら、それが一番「怖い話」と言えるかもしれない。



(白樺 香澄)

文春オンライン

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