小説家・津村記久子の日常「渋めの探偵ドラマをずっとつけっぱなしで本読んでます」

8月19日(日)11時0分 文春オンライン

 かつて「女の人とは海外ドラマ、男の人とは海外サッカーの話をすれば良い」と書いた作家・津村記久子さん。忙しい執筆の合間に膨大な量のドラマとサッカーを観ているようです。中編では津村さんが大好きだという『コールドケース』や『LAW&ORDER』から、サッカーを観るのに欠かせない「DAZN」の話までてれびのスキマさんが伺います。(全3回の2回目/ #1 、 #3 はこちら)






“観なくなる”くらい『コールドケース』好き


—— 会社員を経て専業作家になられた後、海外ドラマを観るようになったそうですが、どんなものを観てきましたか。


津村 突然ものすごく時間が手に入ったような気がして戸惑いがあって、なんか趣味を増やそうと思って、当時開局したばっかりの「Dlife」でやってる刑事ドラマを突然全部観始めたんです。好きやったのは『クローザー』、その後の『Major Crimes 重大犯罪課』も観てる。あと『コールドケース』がすごい好きで。なんかもう“観なくなる”くらい好きだったんです。うまく言えないですけどわかります?


—— なんとなく(笑)。


津村 シーズン7だけはツラい時のために置いとこうみたいな。それくらい『コールドケース』は好きですね。


—— 日本のドラマはあんまり観ない?


津村 観ないですね。でも『相棒』とか水曜のあの枠のドラマは好きなんです。連続ドラマは一回見落としちゃうとわからなくなる。だから1話完結の刑事ドラマが好きで。ただ1話完結のドラマってなるとどうしても海外ドラマが多くなるんです。


ミステリー専門チャンネルのドラマは観尽くした(笑)


—— 短編の「地獄」(『浮遊霊ブラジル』所収)では、1日ドラマを最低3本観て、ドキュメンタリー1本観て、映画を週3本観て……という主人公が「飽・物語の罪」で「物語消費しすぎ地獄」に落ちるという話がありますね。


津村 私もあんな感じですよ。今は1日3本までは観られないですけど。だいたい観つくしたので(笑)。「AXNミステリー」(ミステリー専門チャンネル)に入ってるんですけど、もうほとんど観たみたいな感じ。新しい番組があると食いついて、一生懸命録画して観るんですけど、何してるんやろうなって思うときがありますね。


「Hulu」とかならもっと手軽に選んで観られるんやろうなって思うんですけど、選ぶのが面倒で、やっぱりテレビで流れてくるものを録画してる。でもテレビを受動的に観てたら自分の好きな話が観れないかもしれないって、最近気づきましたね。2週間前くらいに。


—— 最近!


津村 めっちゃ最近(笑)。それで最近はもう読書に戻ってます。本ならあらすじから選べる。だから本は早いなって気づいて。でも「AXNミステリー」は、入った時はものすごい興奮でしたよ。知り合いの女の人たちの間で『SHERLOCK』がすっごい流行ったんです。あと女の人はだいたい『LAW&ORDER』か『クリミナル・マインド』を観てるから、社交の一環として話します。



女の人とは海外ドラマ、男の人とは海外サッカーの話をすれば良い


—— 社交の一環(笑)。以前にエッセイで「女の人とは海外ドラマ、男の人とは海外サッカーの話をすれば良い」と書かれてましたね。


津村 そうそう。20代後半になって海外ドラマとサッカーのおかげで、喋れる人の種類がものすごい増えてよかったです。社交として喋るようになった。ほんとに驚くほどみんな『LAW&ORDER』観てますよね。サブカル小僧みたいな感じだった時よりすごく楽に人とのコミュニケーションができるようになりました。テーブルトークRPGの資料集と洋楽やったら喋れる人誰もいない(笑)。



—— 確かに。


津村 これまでで見られる範囲のドラマを観つくした感があるので「スーパー!ドラマTV」とか新しいチャンネルに入らないといけないかなって思ってるんですけど「アメリカのドラマって刺激が強いからな」と躊躇している状態ですね(笑)。


—— そういうドラマから実際に小説に生かせるものってあるんですか。


津村 なんですかね、やっぱり『コールドケース』じゃないですか(笑)。『コールドケース』のずっと同じ文体で進んでいく感じがすごい好きですね。関係者を1人ずつ当たっていって、また最初の関係者に戻るいみたいなふうに探っていく感じが。


『この世にたやすい仕事はない』のドラマはゲラゲラ笑えた


—— 津村さんの作品でも『この世にたやすい仕事はない』が昨年、真野恵里菜さん主演でドラマ化されました。ご自身の作品のドラマを実際に観てみてどう思われました?


津村 ものすごくおもしろかったですよ。ゲラゲラ笑いながら観てました、毎週。『この世にたやすい仕事はない』は、主人公が5つの仕事を経験していくという話なんですけど、一番最初に書いた監視の仕事(「みはりのしごと」)がドラマではだいぶ端折られたんです。


—— そういえば第1話の冒頭で一瞬出てくるだけでしたね。


津村 それがポスターを貼っていく仕事(第5話「路地を訪ねる仕事」)に主人公が就いている時に、その監視の仕事のときの上司が、別のものを監視しているという設定で出てくるんです。それにびっくりしました。すごい! こういう使い方があるんやって……。


—— それは脚本の段階で、津村さんに相談はあったんですか。


津村 「見てください」とは言われましたが、特に私は口出しせずです。


—— 最新作の『 ディス・イズ・ザ・デイ 』もドラマ化してほしいなと思います。


津村 してほしいですけどね。でも登場人物を演じてくれる方を最低でも22人集めんとあかんっていうのがね(笑)。さらに周りにも人おるから、すごい膨大になるんですけど。


—— 登場人物一人ひとりが「好き」の濃度がみんな違うじゃないですか。そこを全部肯定している感じがすごくいいなって思いました。


津村 ありがとうございます。私が初心者みたいなもんで、サッカーを観る才能自体がそんなにないので。“ない”方の人の話のが実感を持って書いてたりしますけどね。スタジアムで(応援用の)タオル広げて楽しんでいる男の人の話とか。



逆算して描いたサッカーの試合


—— サッカーの試合の描写って難しいんじゃないでしょうか。


津村 難しい、難しい。実際の試合を観ながら書いた話が1つだけあって。それが高知の回(第8話)なんですけど。それ以外は全部自分で作りました。登場人物の気持ちをどこに置くかを最初に考えて。そこから逆算して試合の内容を作るみたいなことをしましたね。


—— サッカーをほとんど観たことがない登場人物が主人公の時と、詳しい人が主人公の時の試合の描写の緻密さが書き分けられてておもしろかったです。


津村 ひとつひとつのプレーが何のためかわかれへんっていうのを、7話で書いてますね。主人公が何も知らない状態で観た時と、ある程度サッカーを知ってる状態で観た時に見えるものが違うという書き方にしてます。



「DAZN」の登場でいろいろ変わりました


—— 津村さんは元々スペインリーグがお好きだと伺っていますけど、Jリーグとは見方は違うものですか。


津村 リーガはもうぜんぜん観れてないですけど、違いますね。Jリーグはその場に行って観られるけど、海外サッカーのチームを見られることはほとんどないので。


—— 海外サッカーはテレビ中継ですよね。


津村 テレビで観ます。テレビで観てない頃はネットで記事読んで監督同士の言い合いとかでゲラゲラ笑ってたんです。単純な楽しさの話ならそういう時の方が楽しかった気もします。想像力がかき立てられて。中学の時に、映画観てないくせに観た気になって。あらすじを文字で読んだ方がおもしろそうな時あるじゃないですか。こんな話やろうなって。映像で観るのはもちろんおもしろいんですけど。


—— 今はどんなチャンネルでサッカーを観てるんですか。


津村 今は「J SPORTS」と「DAZN」(スポーツ専門の動画配信サービス)。「DAZN」の登場でいろいろ変わりました。「DAZN」は録画できないのが困りますね。Jリーグが「DAZN」になったので天皇杯とか以外は「DAZN」でいいんですけど、自転車のロードレースはバラバラになってしまって。大きい大会で言うとジロ・デ・イタリアは「DAZN」なんですけど、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャは「J SPORTS」なので両方入ってますね。


渋めの探偵ドラマをつけっぱなしにして読書


—— テレビをつけっぱなしにしてる時とかってあるんですか?


津村 今いちばん録画をつけっぱなしにしているのが「AXNミステリー」で録画した『ブラウン神父』です。主演のマーク・ウィリアムズさんって、「ハリー・ポッター」ではロン(・ウィーズリー)のお父さん役やったらしいんですけど、表情とかが仕草が静かにおもしろくてテレビに映ってるとすごい和むし何回見ても発見があって飽きない。そういう画面が静的なもの、年いってる探偵のドラマとかをずっとつけっぱなしにして、本を読んだりしてますね。


—— テレビつけながら本読めるタイプなんですね。


津村 音をすごい絞ってやってますね。テレビがついてないと、寂しいんですよね……。やっぱ「テレビっ子」なんですかね(笑)。



つむら・きくこ/1978年大阪府生まれ。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、16年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、17年『浮遊霊ブラジル』で紫式部文学賞を受賞。最新作にサッカー2部リーグのサポーターたちの群像を描いた『 ディス・イズ・ザ・デイ 』。



写真=深野未季/文藝春秋



(てれびのスキマ)

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