本当は目立ちたがり? フリーメイソンを共産党と比べてみた

8月19日(土)16時0分 NEWSポストセブン

儀式を執り行う「ブルーロッジ」と呼ばれる場所

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 ベストセラー『ふしぎなキリスト教』を世に送り出した社会学者・橋爪大三郎氏が、このたび挑んだのは“秘密結社”フリーメイソンである。そもそも彼らはなぜ「秘密」を持つのか。『フリーメイソン 秘密結社の社会学』を上梓した橋爪氏が答える。


 * * *

 フリーメイソンは、たしかに秘密をもっている。仲間を識別する、秘密の握手のやり方や合い言葉がある。儀式の内容も秘密で、口外してはいけないことになっている。「秘密をもった」友愛組織、だと言えるだろう。


 ではこれが、「秘密結社」なのかどうか。


 ほんとうに秘密の組織は、その存在そのものが伏せられている。秘密警察や、諜報機関がそうである。政府の組織であるのに、本部の所在地も秘密だし、職員録にも載らない。予算や組織や活動内容も明らかにされない。


 フリーメイソンがこういうふうに「秘密」かというと、そうではない。ロッジ(フリーメイソンの拠点。それを統括するロッジをグランド・ロッジという)は、人目につく場所にあって、フリーメイソンの印がついている。


 グランド・マスター(グランド・ロッジの代表者)は、名前がわかっている。目立つ服装をして、行事に参加したり行進したりする。フリーメイソンはむしろ、目立ちたがり屋なのだ。


 わたしたちは秘密をもっていますよ、と明らかにする。この逆説が、フリーメイソンである。

 

 フリーメイソンが、未知のロッジを訪れる場合は、文書の身分証明書を持っている場合でも、知り合いのメイソンが立ち会って身元を保証するか、あるいは、合い言葉や儀礼の秘密の内容についての試問をパスするかして、やっと訪問が許されることになっていた。

 

 このやり方が機能するためには、グランド・ロッジ傘下のロッジで、合い言葉や儀礼が共通で、しかもその秘密がメイソンたちの間だけに守られていなければならない。


◆秘密のための秘密


 さて、政府機関でも、どんな組織でも、職務上知りえた事柄はむやみに第三者に口外してはならないのが原則である。こうした職務上の秘密は、わざわざ考案するのではなくて、自然に生まれるものだ。こういう秘密をもっているからといって、その組織を「秘密結社」とはいわない。


 これは、フリーメイソンのルーツである石工組合の時代のやり方が踏襲されている。


【近代フリーメイソンは1717年に、英・ロンドンで誕生した。その起源は中世ヨーロッパの石工組合まで遡る。石工組合とは、ゴシック建築の職人集団である。ゴシック建築には、高度な技術と数学的な知識が必要とする。石工組合は、こうした技術の伝承や、ヨーロッパをまたがる職人ネットワークとしての役割を担っていた】


 いっぽう、フリーメイソンの秘密は、誰がメイソンで誰がメイソンでないか、識別するために、わざわざ考案されたものである。


 その秘密は、おおきく分けて、二種類ある。ひとつは、握手の方法や合い言葉などの、識別の方法。もうひとつは、参入儀礼や昇進儀礼などの、儀式のやり方そのもの。


 それらの儀礼には、さまざまなシンボルを使うので、そのシンボルの意味解釈も秘密に含まれる。どちらも、「職務上知りえた秘密」ではなく、「秘密のための秘密」である。


 石工でもない一般人たちが、こうした「秘密のための秘密」を守っている。それが奇妙だというので、フリーメイソン=秘密結社、というイメージがひとり歩きするようになった。


◆身分やカテゴリーを横断


 こうした秘密をもった組織、フリーメイソンが、18世紀に現れて社会に大きなインパクトを及ぼした理由は、なんだろうか。


 フリーメイソンの特徴は、まず、個々人が自発的に参加する組織であること。身分や職業などの資格は問われない。


 第二に、加入したあとでは、メイソンのあいだでの対等な交流(友愛の関係)が可能になる。第三に、メイソンたちは、メイソンでない一般人に対して、優位を誇ることができる。

 

 自分たちは秘密を共有し、はるかな過去(十字軍や、ソロモン王!)にさかのぼる伝統に連なり、学習や儀式を通じて人間としての向上をはかることができるのだぞ。この誇りは、メイソンでない人びとを貶めることをただちに意味しないとしても、メイソンになりたいと望む人びとを増やす結果になる。


 メイソン/一般人、の線引きは、恣意的にこれまでの身分やカテゴリーを横断する。貴族や有力者、富裕な市民、ジェントリー、商人、職人、農民、軍人、…のあいだに、メイソン/一般人、の線をひく。


 メイソンであれば、仲間である。場合によっては、牧師やカトリックの聖職者のあいだにも、こうした線引きは及ぶのである。


 近世の初頭、流動化しつつある社会のなかで、実力を増しつつあった市民階層の自信と積極性に、ふさわしい組織だったのではないだろうか。


◆共産党と比べれば

 

 フリーメイソンは、本気で秘密を守ろうとするつもりがあるのか、怪しいものだ。その証拠にいつも、暴露本で内情を暴かれ続けている。興味本位で内部に入り込み、秘密の儀礼に出席する人びとが大勢いる、ということだ。


 本格的な秘密結社である、共産党と比べてみよう。立花隆『日本共産党の研究(上)(下)』(一九七八、講談社)が参考になると思う。


 共産党の組織原則は、「民主集中制」だ。「集中」は集権的な独裁という意味で、これが実質。「民主」のほうは付けたしである。ロシアの秘密警察と戦うなかで、革命に献身する鉄の規律を編み出した。


 司令塔の役割を果たすのは、中央委員会である。ひと握りの中央委員たちが、党を指導する。その下に、地区委員会があり、細胞がある。下部の組織や党員は、上部の組織に絶対服従する。完全なピラミッド組織だ。


 党員は原則として、偽名を用いる。家族と連絡を絶ち、住所や履歴も消してしまって、身元がばれないようにする。ほかの党員のことは、必要以上に知ってはいけない。ある党員のことを、別の党員に話してはいけない。党員の名簿はこしらえず、すべて記憶する。メモは、すぐ処分する。


 連絡するときは、「何日の何時何分、日本橋を東から紙袋を抱えた男が歩いてきて、名前を聞かれるからタチバナと答えろ。メモを渡されるから、受け取れ」のようにする。誰かが当局に逮捕され拷問されても、組織の打撃が最小限にとどまるようにできている。「友愛」や「交流」の余地は、まったくない。

 

 これに比べると、フリーメイソンの秘密など、のんびりしたものだ。世界中のフリーメイソンが、同じ仕方で握手し、同じ合い言葉を使って、しかも何年たっても変更しない、というのだから。


※小学館新書『フリーメイソン 秘密結社の社会学』より


●はしづめ・だいさぶろう/1948年生まれ。社会学者。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。主な著書に『はじめての構造主義』、『はじめての言語ゲーム』、『ふしぎなキリスト教』(大澤真幸氏との共著)、『世界がわかる宗教社会学入門』『あぶない一神教』(佐藤優氏との共著)、『日本逆植民地計画』、『だめだし日本語論』(橋本治氏との共著)など多数。近刊に、『丸山眞男の憂鬱』など。

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