【ロッテ】松永昂大がスタジアムの“珍客”にとった優しさ溢れる行動

8月21日(月)11時0分 文春オンライン

忘れられないスタジアムの“珍客”


 スタジアムに珍客が訪れることは珍しくない。バッタはよく来るし、夜になるとコウモリが舞っていることもある。トンボが選手の帽子から離れなかったこともあった。ちなみにシーズン終盤にトンボが選手の肩に止まるとその選手はクビになるというジンクスが古い時代のマリーンズにはあった。私が、てんとう虫を試合前、見つけて当時、マリーンズに在籍をしていたベニー・アグバヤニ外野手に見せると「てんとう虫は幸せを運ぶんだ。だから、きょうはラッキーだ。勝つよ」とニヤリと笑い、試合に勝利したことも、いい思い出だ。


 そんな様々な珍客が来た中で忘れられない光景がある。あれは2013年8月16日のバファローズ戦の八回。マウンドにいた当時、ルーキーの松永昂大投手が1アウトを取った後、一塁側ベンチに戻ってきた。誰もがアクシデント発生かと、心配した。よく見ると左手の指を押さえているように見えた。爪でも割れたか。最悪の事態すら想定したが、実はまったく違った。


「小さなクワガタムシがいた。マウンドのプレートの辺りにね。危ないから、移動させないといけないなあと思って、1アウトを取ったタイミングで捕まえました」


安定感抜群のセットアッパーとしてチームに欠かせない存在となっている松永昂大 ©梶原紀章

 3番手として八回からマウンドに登った瞬間から、クワガタムシの存在を発見していた。全長3センチ程度の小さな小さなクワガタムシ。プレート付近にいたのでとりあえず、その場でそっと移動させた。投球練習をして、打者相手に1球目を投げ終わった。マウンドに戻ると、またマウンド付近にどかしたはずのクワガタムシの姿が見えた。


「ああ、これはまいったなあと思いましたね。野球が好きだったのかなあ。危ないけど、とりあえず1アウトを取って、プレーが止まったタイミングでどこかに戻してあげようと思いました。それまでは大人しくしておいてくれよって願いました」


 また、ちょっとだけ横にそっと場所を移動させて、ピッチングに集中した。クワガタムシを踏まないように気を付けながら1アウトを取ると慣れた手つきでひょいと掴むと、一塁側ベンチにいたボールボーイに渡した。


「何度も何度もプレートの方へと戻ってきましたね」



「やっぱり自然にいるのが一番いいだろうな」


 僅差のリードを保って迎えた緊迫した八回の場面である。ピリピリした状態の中で迎えたその状況。一般論でいうとピッチャーの多くはリズムが崩れるのを嫌がり小さなクワガタムシを意識することはない。というより気が付く事すらないと私は思う。しかし、まだ一年目だった松永はクワガタムシが目に入り、どうしても気になった。なんとか助けてあげたいと思った。だから、まずは自分がピッチングで踏むことはないような安全な場所に移動させてその後、速やかに1アウトを取った。そしてタイムを取り、グラウンド外に逃がしてあげた。その後もなにもなかったかのようにまたマウンドに戻り、飄々と打者を抑え、この回を無失点で終えた。そのなんとも言えない小さな優しさを私は今も忘れない。


 あれから4年が経った。この日のマリンでのナイターは夜空にコウモリが飛んでいた。緊迫した試合の中、たった一羽、自由に飛び回っていた。それを見て、あの日の記憶がふと沸き上がった。そして、どうしても紹介したくなった。


「子供のころを思い出しましたね。香川の実家の近くにはカブトムシとかクワガタムシが沢山いた。小学生の時はよくピンセットとライトを持って取りに行きましたよ。ゼリーをあげて、飼っていた時期もありました。でも、その時も最後は逃がしていたかな。なんとなく可哀想だから。やっぱり自然にいるのが一番いいだろうなって思ってしまう」


 虫を労わる優しい心を持つ左腕は今年も安定感抜群のセットアッパーとしてチームには欠かせない存在である。ちなみに当時、松永に救われたクワガタムシはコクワガタムシという種類だった。数日、球場で飼われ、近くの雑木林に逃がされた。その後はどうなったかは知らない。だが、松永のやさしさに包まれて、とても幸せな日々を過ごしたのではないかと思っている。


梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)


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(梶原 紀章)

文春オンライン

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