佐藤愛子氏 父が新聞社で机が隣だった正岡子規との縁語る

8月22日(火)7時0分 NEWSポストセブン

ひとりの日々を語る佐藤愛子さんと冨士眞奈美さん

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『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)で演じたアメリカ帰りの元女優役が話題を呼んだ冨士眞奈美さんと、『九十歳。何がめでたい』が90万部を突破し、ベストセラーランキングを席巻中の佐藤愛子さん。とにかく元気なおふたり。冨士さんが人生の先輩で「憧れの人」佐藤さんと対談。佐藤さんの父・佐藤紅緑さんと正岡子規について語った。


◆子規と紅緑と俳句


冨士:先生、この本が面白かったんです。森まゆみさんの『子規の音』。お父様の佐藤紅緑さんのことがいっぱい出てきます。正岡子規にとても褒められていて。松山に戻った高浜虚子に、わざわざはがきを書いて紅緑を褒めている。読んだ虚子はカチンときただろう、っていうぐらい紅緑さんを気に入ってね。


佐藤:へえ、そう? いつも叱られていた、という話しか知らなかった。


冨士:もしよろしかったらお読みください。


佐藤:子規の俳句がお好き?


冨士:好きですね。好きじゃないものもありますけど、生き方がすごい人です。34才で亡くなってしまうんですが、その間の自分のことを『病床六尺』などに書いて。俳句が好きで、短歌が好きで、本当に書くことが好きで。


佐藤:父は、よく子規の話をしてましたよ。日本新聞社で机が隣同士になったの。俳句を作れって。1日50句作らなきゃいかん、と言って無理やり作らされた。それが俳句を作るようになった始まりです。すごく強引な人らしいんですよ。


冨士:子規の周りには、高浜虚子や河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)、内藤鳴雪、夏目漱石なんかもいるんですよね。


佐藤:漱石の俳句は私も好き。子規はユーモア感覚のある人で、父の俳句には割と諧謔(かいぎゃく)が多いので面白いって褒められたみたいですけどね。


 不良少年で親不孝の限りを尽くした2番目の兄は、父が少し老耄(ろうもう)した時、さすがに心が痛んだらしく、親父を励まそうと句会を始めたんです。「紅緑会」といって、兄の友達が5、6人集まり父に添削してもらう。10代の私も無理やり入れられて、2年ぐらいやりました。


冨士:時々、エッセイの終わりに俳句を載せてらっしゃいましたね。


◆だからひとりが好き


 と、ここで佐藤さんの座るソファの後ろにあった電話が鳴った。佐藤さんがササッと立ち上がり、電話にしばらく応答。佐藤さんの素早い姿に驚いた冨士さんのこんな言葉で対談が再開した──。


冨士:なんだか、映画の『アンタッチャブル』に出てきそうなクラシックな電話ですね。先生、いつもご自分で電話にお出になるんですか?


佐藤:そうですよ。


冨士:へえーーっ! 私はさっき、先生がご自分で玄関まで出てらしたのさえ、びっくりしたのに(笑い)。ほんとにお若いですね。


佐藤:なんで? 車いすだと思ったの? 私、せっかちだから。お手伝いさんがいても、お風呂場を掃除してる時なんか、すぐに出られないでしょう。どうせ私に回ってくるんだから、最初から出た方が早い。


冨士:でも、相手も「まさか」って。


佐藤:みんな驚くんですよ(笑い)。


冨士:そんな大家の女性作家はいませんからね。


佐藤:それほど大した作家じゃないですよ。主婦のなれの果てが作家になっただけだから。


冨士:先生もそうですが、ひとりっていいですよね。セリフを覚えるのでも、叫ぼうとも何をしようとも誰にも叱られないし、誰にも何も言われないですから。


佐藤:冨士さんは、結婚は1回?


冨士:もちろんです。あんな野蛮なこと、1回で充分です。


佐藤:そうですか。それは失礼しました(笑い)。


冨士:40半ばで離婚して、そのまんまなんです。男の人がいないと自由でいられるんですよ。心も何もかも全部自由。誰の顔色も見ないで、誰にも遠慮しないで。全部の時間が自分の時間だから、夜中の3時、4時にお風呂に入ろうと、誰にも何にも言われない。自由でシンプル。


佐藤:それは確かに、自由だわね。


冨士:食べるものだって、自分の好きなものだけ買ってきて食べればいいわけですし。つい食べすぎちゃって後悔しますけど(笑い)。


佐藤:何が体にいいとか、何を食べちゃいかんとかって、よく言うでしょう。でも、自分が食べたいと思うものはその時、体が欲してるんだから、食べればいいんですよ。


冨士:それ、信じます。でも、自分が作ったものはかわいいから、全部食べちゃうんです。それがいけないのよ。


佐藤:要するに、冨士さんは健康だから食べられるのよ。90も過ぎたら一汁一菜で充分。やがて、食べられなくなりますからね(笑い)。


◆佐藤愛子(さとう・あいこ)

1923年大阪府生まれ。1969年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、1979年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』の完成により菊池寛賞、2015年『晩鐘』で紫式部文学賞を受賞。エッセイ集『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーに。


◆冨士眞奈美(ふじ・まなみ)

静岡県生まれ。1956年『この瞳』の主役でデビューし、俳優座付属養成所を卒業。翌1957年にNHKのテレビ専属第1号になり、以来、映画や舞台、ドラマやバラエティー番組などで幅広い活躍をしている。句集『瀧の裏』など著作も多い。


●構成/佐久間文子 ●撮影/太田真三


※女性セブン2017年8月24・31日号

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