映像化不可能といわれた『DUNE/デューン』に挑んだドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の軌跡
2021年8月23日(月)13時0分 シネマカフェ
本作はラージフォーマットIMAXを超える“究極の映画体験”が可能な「Filmed For IMAX(R)」に認定された、世界初の作品。「製作者が創り上げた至高の映像&音響を、変換することなく劇場空間で再現する」フォーマットであり、全く新たな映像体験が約束されているといえる。錚々たるキャスト、そして映像が見どころとなる本作でメガホンをとるのが、『メッセージ』でアカデミー賞監督賞にノミネートされ、『ブレードランナー 2049』でも確固たる評価を得たドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。映画ファンが次回作を最も期待する監督のひとりとされるヴィルヌーヴ監督が、自身で「キャリア史上最も重要な作品」と断言する本作までの軌跡をふり返った。
“いつの間にかやみつきになる”作品たち…キャリア前期
監督2作目の『渦』(00)がベルリン国際映画祭で入賞し、カナダのアカデミー賞にあたるジニー賞も5部門を受賞。その後、2010年に発表した『灼熱の魂』が第83回アカデミー外国語映画賞にノミネートされたことで、世界的に注目を集め、ヒュー・ジャックマンを主演にジェイク・ジレンホールやポール・ダノらを迎えたサスペンス・スリラー作品『プリズナーズ』(13)でハリウッドデビュー。自分と瓜二つの人物の存在を知ってしまったことから、アイデンティティーが失われていく男の姿を描いたジェイク主演のミステリー『複製された男』(13)も手掛けた。
デビュー初期は、実話や戯曲をモチーフに、リアリティー溢れる人間ドラマを描いた作品が多いが、この頃からサスペンス・スリラーやアクションを題材とした、緊張感と引き込まれるストーリーで観客を釘付けにしてきた。麻薬戦争の闇をリアルに描きアカデミー賞3部門にノミネートされた『ボーダーライン』(15)なども、怒涛のストーリー展開ののち、観る者へ様々な解釈の余地を残す作品が多く、“いつの間にかやみつきになる”魅力に惹きつけられる映画ファンが続出した。
SF映画監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴ誕生——『メッセージ』
突如、地上に降り立った巨大な宇宙船で地球に来た知的生命体との対話に挑む、女性言語学者の姿を見つめる物語を描き出した『メッセージ』(16)。これまでのSF映画の概念を覆す手法が高く評価され、アカデミー賞では作品賞、監督賞をはじめ8部門ノミネートしたほか映画賞を席巻。一躍、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督をSF映画監督して世に知らしめる代表作となった。
はじめてみるような壮大な宇宙船の登場、時間の認識がアップデートされるような映像体験、映像だけでなく哲学的な言葉や台詞、ヴィルヌーヴ監督のSF作品の土台を築いた本作は、知的なSF作品でありがらも、コミュニケーションや対話、言語といった私たちの日常の延長線上にあるテーマが描かれており、他者と理解しあうことの難しさだけでなく、関係性をもち、互いに耳を傾けることの美しさを訴えかけてくる。実写化不可能と言われていたテッド・チャンによる短編小説「あなたの人生の物語」を見事に映像化させ、ヴィルヌーヴ監督とSF作品の相性の良さを感じることのできる1本となっている。
アカデミー賞2部門で受賞!映画ファンの期待に見事応えた『ブレードランナー 2049』
続いて発表したのが、リドリー・スコット監督作『ブレードランナー』(82)から35年を経て生み出された続編、『ブレードランナー 2049』(17)。前作から30年後の2049年の世界を描いた。主人公“K”(ライアン・ゴズリング)が新たに起こった世界の危機を解決するため、30年前に行方不明となったブレードランナーのリック・デッカード(ハリソン・フォード)を捜す物語だ。
世界中にファンを持ち伝説のSF映画として名高い『ブレードランナー』なだけに、ヴィルヌーヴ監督にかかる期待は相当なもの。しかし、そのイメージを崩さずに第1作の時代から30年後の未来世界を完全に構築し、圧倒的な映像美で観客を魅了。アカデミー賞撮影賞、視覚効果賞を受賞し、高いハードルを乗り越え、世界中の期待に見事応えることに成功した。
多くのカルチャーに影響を与え続ける、伝説のSF小説映像化に挑む『DUNE/デューン 砂の惑星』
圧倒的な世界観と壮大なスケールのSF映画を続けてつくり出したヴィルヌーヴ監督が挑むのは、一説には『スター・ウォーズ』『風の谷のナウシカ』『アバター』などの歴史に名を刻む作品は、この小説なくして生まれなかったと言われているほど、数々のカルチャーに影響を与えてきたフランク・ハーバートによる伝説のSF小説「デューン/砂の惑星」の映画化。
1984年にはデヴィッド・リンチ監督がメガホンをとったが、そのスケール感と設定の複雑さを当時の技術では描ききることができず、リンチ監督自身も完全な失敗だと語っている。また、1975年にはチリの巨匠アレハンドロ・ホドロフスキー監督が企画したものの、中止に追い込まれて幻となり、それがドキュメンタリー映画にもなったほど。
原作の持つ影響力とメッセージ性、映像作品としての難易度の高さ。これを、いままで着実にキャリアを積み上げてきた“映像の魔術師”ヴィルヌーヴ監督が最先端の映像技術を駆使し、監督自身の持ち味である、圧倒的な世界観と壮大な映像、そして感情の機微を細やかにとらえる感性で紡ぎ出す世界観は面白くないはずがない。
『DUNE/デューン 砂の惑星』は10月15日(金)より全国にて公開。