若者の将来不安につけ込む「クレカ投資」には要注意だ

8月25日(日)16時0分 NEWSポストセブン

 近ごろ、副業への関心が高まっている。政府が「働き方改革」のひとつとして、企業で働く人の副業・兼業を推進する体制づくりに乗り出したこともあり、副業を認める日本企業も増えてきた。働き過ぎない副業として「投資」に関心が集まっているが、果たしてそれは問題ない副業なのか、判断が難しいものも多い。ライターの森鷹久氏が、近年、目立つ空クレジットの仕組みを利用した利殖ビジネスと、「モノなし」投資の広がりについてレポートする。


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 岡山県で観光農園などを運営する「西山ファーム」が募っていたとされる、クレジットカードを使った“副業ビジネス”に騙された、と訴えるのは近畿地方在住の自営業・福田翔平さん(仮名・30代)だ。


「完全に騙されましたね、総額で250万円が戻ってきていない」


 インフルエンサービジネスと称して、副業ビジネスを展開していたことでも知られていた「西山ファーム」の名古屋、岡山両市の事務所など関係先が、7月28日に出資法違反(預かり金の禁止)の疑いで、愛知県警によって一斉に家宅捜索された。約束された入金が滞り、クレジットカードの返済に行き詰まる被害も多数出ており、県警では、売買実態のない架空取引の疑いもあるとみて捜査が進められている。


 騒動を取材している全国紙記者が解説する。


「桃やイチゴを栽培し観光農園を運営していた同社の関係者たちが、同社に投資をすれば、農作物の海外転売によって利益を得られると言って出資者を募っていたのが発端です。しかし、多くの出資者に金が返ってきていないというのです。ただ、複数の出資者に話を聞いていくうちに、これはそもそも"空クレジットまがい"ではないかとの噂が立っています」(全国紙記者)


 投資とうたっているが、西山ファームへの投資の方法は、同社への直接入金ではなく、指定の通販サイトを通じて果物やジャムなどの商品を購入するという方法だった。それを直接海外へ転売するからと説明されていたため、顧客は手元に商品が届かないことに疑問を抱いていなかった。しかし、あらかじめ約束されていた入金が次第に滞り、そもそも転売するための商品が存在しないのではないか、“空クレジット”に加担させられたのではないかという疑念が浮上した。


 空クレジットとは、商品やサービスを購入した実態がないのに、クレジットカードなどを使って代金のやり取りをする偽装売買のことだ。十数年前から、街中でよく見かけるようになった「カードのショッピング枠の現金化」などといった怪しい看板がまさにそれで、クレカのショッピング枠を利用して、現金を生み出す仕組みだ。実際には買い物をしていないのに、そう見せかけるため、クレジットカード会社を“騙している”とも解釈でき、詐欺罪の可能性を指摘する専門家の声もある。しかし、現金を手にしたい購入者が、実際には商品がないのを承知でクレジットカード決済をしているため、見破りにくい。全国紙記者が続ける。


「出資はクレジットカード決済によって募られていました。例えば、クレカ決済で100万円分の桃などを購入する、これが投資に当たるわけですが、その後商品が海外に転売され利益が上がれば、出資額の100万円はまるまる戻ってくるし、カード決済で発生したポイントが出資者の利益になる、という触れ込みでした」


 このポイント分が「利益」になる「投資」だとして、筆者の取材によれば全国で数百名もの人々が、数万円から五百万以上の出資を行ったのだという。しかし、出資額が戻ってこないことが常態化し、出資者はカードのポイントを発生させるための支払いだけを続けねばならなくなった。


 クレジットカードで支払えばポイントもついてお得、というのはカード加入への誘い文句としてよく使われるが、それは投資の世界でも同じだ。まとまった現金を用意しづらい学生でも、クレジットカードを持っていれば投資できるうえにポイントがたまると、意外なほど若者の間で広まっているビジネスの形だ。実際に、西山ファームの顧客も若者が中心だった。


 冒頭の福田さんが力説する。


「最初は商品が“ある”という前提で投資をしたんです。しかし、自分が買った商品を見た人は、少なくとも私の周囲では誰一人いない。商品は、西山ファーム関係者から紹介された代理店によって管理されており、私たちは出資をするだけ、ということでしたが、約束されていた返金が滞った。そのうちに、これは“空クレジット”ではないのか、そう疑う声が上がり始めました。すると“あなたが買った商品はこれ”など写真が送られてくるようになりましたが、これがどうも信じられない」(福田さん) 6月、これら副業事案に投資した8人が、保証金の名目で預けたおよそ7800万円の返還を求めて名古屋地裁に提訴した。


 筆者は、事業を実質的に統括していたという"副社長"を名乗る人物になんども電話取材を試みたが、最後まで応じることはなかった。被害者の救済に関わる法律関係者によれば、西山ファームだけでなく、カード決済会社の関与も含めて、法廷で明らかにしていくというから、全体像は思ったよりも壮大で複雑だ。


 奇しくも7月末に、国民生活センターから実際の商品が確認できない、または投資商品や副業などの「役務」をめぐる「モノなし」マルチ商法が20歳代や20歳未満の若者の間で広がっていると注意喚起が出されたばかりだ。実態や仕組みが把握できないのに、儲かる副業としてすすめられ、クレジットカードでの決済や借金によって投資をした結果、利益が得られず支払いや借金だけが残される。大学生が自分のクレジットカードで投資をして、気付けば支払いに追われ、青くなって親に泣きついて発覚するというようなことも起きている。


 また、モノなしマルチは、様々な“商品”を用いて展開されることも知っておくべきだろう。例えば「(取引所に)上場予定の仮想通貨の購入権」をクレジットカード決済で購入させる、などといった事例も確認されている。そもそも「モノなし」なのだから、上場予定というスケジュールも、仮想通貨のプログラムさえ用意されてなく、徹頭徹尾、全てがでっち上げなのだ。


 誰も知らない裏技で利益が出る…こう言われて興味を持ってしまうのは仕方ない。だが、そうした話を囁いてくるような人々が、果たしてまともなのか、考えて欲しい。そんな人たちに、大切な金を預けることに危険を感じないか、今一度立ち止まって考えるべきなのだ。


 老後資金は年金以外に2000万円が必要だと政府が試算を出した影響もあり、自己資金を少しでも増やそうと誰もが思う時代だ。とくに、景気がよい時代を知らずに育った現代の若者は、少しでもお金を増やして貯めておきたいという意識が強い。不安につけこむビジネスは、これから先、もっと増えてくるだろう。少しでも不自然さを感じたら、恥ずかしがらずに相談をしてほしい。

NEWSポストセブン

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