外国人家政婦解禁 日本人の「後ろめたさ」が透けて見える

8月29日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 外国人労働者による家事代行サービス、いわゆる外国人家政婦が年内にも一部地域で解禁される。なぜ日本人家政婦ではなく外国人にニーズがあるのか。コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。


 * * *

 私は株をやらないが、株のニュースならたまに見る。世の中の流れのちょっとした変化を、そこから覗けることがあるからだ。


 8月27日の夕刻に気づいたのは、「株探」という株式情報サイトが同日昼過ぎに報じていたこんな市場ニュースだ。


〈ダスキン<4665>やパソナグループ<2168>が高い。27日付の日本経済新聞は、「政府が国家戦略特区の大阪府と神奈川県で外国人を使った家事代行サービスを年内に解禁するのに応じ、ダスキンやパソナが同サービスに乗り出す」と報じた。この日は両社の事業拡大に期待する買いが流入した。また、ダスキンの代理店を行っているナック<9788>も買われた〉


 上記3社の株価チャートをチェックすると、午後になっても下がることなく、いわゆる急伸。その要因となった日本経済新聞のニュースは、ネットで同日午前2時に配信されていたのだが、記事中にはこうあった。


〈これまで日本で家事代行サービスに就けた外国人は日本人と結婚するなど在留資格を持っている人に限られていた。今回、対象が大幅に広がることで外国人によるサービスが定着すれば、より需要が大きい東京都などにも広がる可能性が高い。政府は全国に広げることも視野に入れている〉


 これまでの日本の法律では、外国人を家事使用人として雇うことができるのは、外交官や年収1500万円の企業幹部など「高度人材」として認められた外国人のみだった。つまり、金持ち在日外国人なら出稼ぎ外国人を家政婦にしてもいい、という特殊な世界のお話だったのである。実際には、金持ち同士のコネなどで紹介してもらった外国人家政婦を使っている日本人もいるそうだが、法律的には一応ペケだ。


 それが安倍政権の経済活性化政策の一つとして、実験的に大阪府と神奈川県で解禁されることになった。まだその段階なのだが、関連株がワッと上がるなど、〈需要が大きい〉ようだ。また、日経新聞の記事はこんな情報も載せていた。


〈家事代行大手のベアーズ(東京・中央)は第1弾としてフィリピン人など10人弱を受け入れ、神奈川県と大阪府で事業を展開する。年内に立ち上げるフィリピンの現地法人で採用や研修事業を手がけ、先手を打つ。パソナグループ子会社のパソナライフケア(東京・千代田)はフィリピンの人材大手マグサイサイグローバルの研修を受けた人材を約50人採用する〉


 そう、家政婦と言ったらフィリピン人なのだ。中国の富裕層の間では大卒で英語を話すフィリピン人家政婦を雇うことがステイタスらしいし、遠くヨーロッパにもフィリピン人家政婦が多く、彼女らはみんな「エリザベス」と呼ばれているという都市伝説みたいな話もある。日本でもすでに、永住権のあるフィリピン人女性を家事代行サービス要員として雇っている家事代行会社がいくつかある。


 なぜフィリピン人なのか? 母国が家政婦大国であり、家事代行の技術水準が高いからだとよく説明される。母国が国策として出稼ぎ家政婦を育成しているとも聞く。フィリピン人は英語ができる人が多いので、グローバルエリートの世界では重宝されるという声もある。フィリピンは植民地時代が長かった国だからメイドシステムが発達したのであろうと私は想像するのだが、イメージが悪くなるからか、家事代行業界付近でそういう説は拾えない。ま、家政婦やメイドは奴隷とは違う、一つの立派な職業であるとは思うけれど。


 けれど、私はこの手の話にもやもやとしたものを感じるのだ。家政婦というとなぜすぐフィリピン人なのか。フィリピン人でなくても、なぜ先進国入りしていない東南アジア諸国の労働力をすぐ期待するのか。


 自分のうち(国)の家事ぐらい、自分(自国民)でどうにかしろよ、と私は思うのだが、それってグローバル化した社会では時代遅れの考え方なのだろうか。


 先の日経新聞には一応こうある。


〈積極姿勢の背景にあるのは人手不足だ。経済産業省は家事代行サービスの将来の市場規模は2012年度比6倍の6000億円に成長すると試算している。これに対し各社の従業員はパートの高齢者層が中心。担い手の確保が課題だった〉


 人手不足。本当?


 これといった高度なスキルなどを持たない日本の中高年女性の仕事探しは、めちゃくちゃ大変だ。その辺はなぜスルーされるのだろう。家事代行サービスで外国人を使う場合、日本人の場合と同水準以上の賃金を払わなければならないと定められるそうだが、だったらわざわざ外国人じゃなくて日本人を雇えばいいではないか。家事代行サービス会社がきちんとプロとしての教育を、仕事のない日本人女性に施せばいいじゃないか。


 ある家事代行会社の社長が、インタビューでこう答えていた。


〈お客様側でも日本人同士だと気を遣うので、プライバシーの問題などから若いフィリピン人を敢えて希望される人もいます〉


 プライバシーの問題と若いフィリピン人がどう結びつくのか、私にはちっとも分からないのだが、〈日本人同士だと気を遣う〉というのはなるほどだ。同朋に頼むのは気が引けるが、フィリピン人とかだと気が楽。家事代行というのはそういう種類の仕事だと思っている日本人が多いのだろう。


 別の家事代行会社の公式HPには、〈日本人家政婦のデメリット〉を2つ挙げている。


〈他人に自分の日常を覗かれている感覚がある〉


〈年配の方が多く、仕事を頼みづらい雰囲気がある〉


 えっ、フィリピン人なら自分の日常を覗けない、というわけ? だとしたら、それはかなり低レベルな差別感覚だ。年輩に頼みづらいのは、やはり家事代行は「下っ端」にやらせるものだからか?


 はっきり言わせてもらおう。


 職業に貴賤はなくても、上下はある。家政婦なり家事代行なりという仕事を下々のやることだと捉える人はたくさんいる。日本は階級社会の歴史をあまり持たない。だから、自分の日常の世話を下々にやらせる文化があまり発達していない。ゆえに、家政婦を雇うにもどこか後ろめたいものを覚える。


 その点、外国人なら気が楽だ。だって、大きな声じゃ言えないけど出稼ぎをしないと困る国の人たちなんでしょ、雇ってあげるのも彼女たちのためだわ、外国人の家事代行サービスを早く全国解禁していただけないかしら、オホホホ的な人間心理が透けて見えて気持ち悪いのだ、このニュースは!


 ここから先はオマケだが、日本にはフィリピン人女性を性風俗の世界でこきつかった「ジャパゆきさん」の黒い歴史がある。そんなこともちょっと思い出す。性風俗と家事代行が違う仕事であることは分かっているが、雇う側の心理としては重なる部分もあるのではないか。


 あるいは、こんなことを考えてみる。業務命令となれば「承知しました」と何でもこなす『家政婦のミタ』という人気ドラマがあった。筒井康隆の「七瀬三部作」の主人公も家政婦として様々な家庭を渡り歩く人。火田七瀬は人の心を読む力を持つ超能力者、テレパスだった。彼女たちは日本人の中に潜在している家政婦に対する後ろめたさが生んだキャラクターだと思う。


 これからどんどんフィリピン人の飛びきり優秀な家政婦たちが入国してくることで、ミタや七瀬を超えるどんな驚愕キャラが生れるのか。創作者はヒントにしない理由がない。

NEWSポストセブン

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