女性の社会進出が強く叫ばれたのはウーマンリブ時代ではない

8月29日(月)16時0分 NEWSポストセブン

評論家の呉智英氏

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 防衛大臣に稲田朋美氏が就任した。女性の防衛大臣は小池百合子氏(現・東京都知事)に続いて2人目である。評論家の呉智英氏が女性の社会進出について解説する。


 * * *

 八月四日付朝日新聞「朝日川柳」欄の第一句にクスッと笑った。


 女性なら戦せぬとは限らない 千葉県 村上健


 前日、安倍第二次改造内閣の防衛大臣に稲田朋美氏が就任したことを諷刺したものである。


 クスッと笑ったのは、この句が割りと出来がよかったからだけではなく、朝日新聞に代表される革新派・リベラル派の従来の論調を諷刺することにもなっているからである。作者がそこまで意図していたかどうかは知らないが。


 この種の革新派・リベラル派が好む女流歌人与謝野晶子に、こんな一首がある。


 女より智慧ありといふ男達

 この戦ひを歇めぬ賢こさ


 ここに詠まれた「戦ひ」とは、作歌時期から見て第一次世界大戦のことだろう。日本も対独宣戦し、支那の青島に軍を進めている。男たちは常日頃、男は女より智慧があると言っているが、戦争を止めることさえ出来ないではないか、という皮肉である。有名な「君死にたまふことなかれ」と同系の反戦歌ということになろうか。


 反戦思想はそれでいいとして、この晶子の歌には、女こそが反戦平和の担い手であるという思考がある。情緒論としてはそれもありうるし、詩歌が情緒論の上に成立するものであれば、それも当然かもしれない。しかし、政治論、社会論として考えれば、この種の思考はたちの悪い迷信のようなものだろう。女が反戦で男が好戦だなんて、何の根拠もなく、こういう迷信が女の社会進出を妨げてさえいる。女性防衛大臣は、一人目が小池百合子氏(現・東京都知事)、稲田氏でやっと二人目なのだ。


 八月十六日付朝日新聞の外報欄には「シリア 増える女性兵」という記事が載っている。内戦下のシリアでは、ここ数年で千人もの女性が政権軍に志願し、戦闘行為に加わっている、という。女性の社会進出が遅れているイスラム圏にも新しい波が生じつつある。


 以前、ある大学で講師を勤めたことがある。その大学は旧女子大で現在も女子学生が九割ほどを占める。講義は自ずと女性啓発の傾向が強くなる。


 私は学生たちに問うた。女性の社会進出が強く叫ばれた時代は、いつだったと思う?


 ぱらぱらと手が挙がる。一人が言う。新憲法が施行された直後ですか。私は首を横に振る。別の一人が言う。一九七〇年前後のウーマンリブの頃ですか。また私は首を横に振る。さらに一人が、ピンと来た顔で言う。戦時中ですね。


 その通りだ。女だからといって家庭に閉じこもっていてはいけないと強く叫ばれたのは戦時中なのだ。戦争こそが女の社会進出を促進したし、これからもそうなのだ。だって、兵器の改良を考えてごらん。槍や刀を扱うには体力が必要だ。しかし銃の発明によって、大砲の出現によって、戦争は女にも容易にできるようになった。ましてボタンを押すだけで……。


 女子学生はリボンをつけた頭で困ったようにうなずいた。


●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。


※週刊ポスト2016年9月9日号

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