“寸止めのお色気”で聴き手の想像力をくすぐる田川寿美の力量——近田春夫の考えるヒット

8月30日(水)11時0分 文春オンライン

心化粧(田川寿美)/涙の流星(パク・ジュニョン)



絵=安斎肇

 一口に演歌といってもその間口は案外広い。また歴史的推移もある。今この時代における“演歌ならではの魅力”とは果たして何なのか?


 当欄はここのところ二週にわたりjpopとは歌謡曲に他ならないことを述べてきた。その関係上、演歌の——流行歌としての——現在の立ち位置についても触れられることなら触れてみたい。とかもっともらしいことをいいつつ今週の一曲目『心化粧』です。


 映像付き音源があったので、とりあえずチェックを試みたところ、イントロからしっかりと、まさに“演歌を絵に描いたような音”に徹したつくりで、なるほどたしかに、これは新しさなどというものを一切誰も求めぬ世界なのだなぁと、あらためてその哲学に感心もさせられた格好の俺だったが、一つ気付いたことがあった。映像のことである。


“音を引き立てる絵”という文脈で申せば、本質はjpopなどにおけるのと同じ意味合いを持つのだろう。がしかし、音と映像の関係から受ける印象は随分と異なる。表現分野として二者は別ものと捉えてもよいのでは、と思ったのだ。


 比べれば西洋絵画と日本画の違いのようなことなのだろうか。いずれにせよ、その映像手法を、まんまど真ん中のjpopの(男女問わず)アイドルとかでやってみたら、かなり新鮮なものになるのではという気はしたものである。


 おっとその辺りに関しては専門でもないのでこれ以上の生意気をいうのは差し控えよう。ここからは楽曲を聴いての感想に絞って話を進めたい。


心化粧/田川寿美 (日本コロムビア) 90年代から活躍するベテラン。昨年25周年を迎え、15年ぶりの紅白再出場を狙う。

 一番に感じたのが、田川寿美の“その筋の人”としての力量のことだろうか。実に演歌の専門に相応しい歌いっぷりを披露してくれているのだ。この曲、歌詞だけを読めば、単に“今は独り身なので寂しい”ぐらいのライトな内容なのである。そんな世界を、何か思わせぶりではあるが、かといってことさらにいやらしくもない、いってみれば寸止めのエロ/お色気でもってサラリとあらわしては、聴き手の想像力をくすぐってみせる。


 それをスキルと呼んで構わぬかはさておき、そうした表現の技術が評価の対象にされたりすることは、jpopやロックではまずあり得まい。


 逆にいえば、彼女のような歌の上手さを、洋楽における“歌唱力”でくくって語ってしまうのも何かが違う気もして、それは例えば小唄端唄の名人に対しそのようなコトバでもって褒めるのはしっくりと来ないのと似ている。


 なんにせよ客側からみた演歌歌手ならではの魅力といったとき、所作表情のつけ方から何から、いかに“演歌らしさ”を歌い手が極めているかは大きなポイントだろう。


 いってみれば演歌鑑賞の楽しみとは、ご贔屓の“芸事”の精進に励んでいる姿を愛でたりすることなのかもしれないなぁと。web上に無数にある彼女の顔写真など眺めながら、私はそう思ったのだった。


涙の流星/パク・ジュニョン(キングレコード)もとK-POPユニットメンバー。山本譲二に見出され演歌の世界に。

 パク・ジュニョン。


 このイントロには何か惹きつけられるものがありますね。



(近田 春夫)

文春オンライン

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