“既に手元にある戦力”で勝負しなければいけないのは、卒業論文も野球も同じだ

9月3日(火)11時0分 文春オンライン

 季節はもう秋。今年は例年より早く涼しさも増し、快適な日々が続いている。小学生や中学生がランドセルや鞄を持って学校に向かい、高校生が満員電車に揺られる中、大学生の夏休みはもう少し続く。とりわけ最終学年にとっては学生生活最後の長い夏休み。サークル活動やアルバイトで、さらには彼氏や彼女と楽しい時間を過ごせるのも、後少しの間だけだ。


 とはいえ、同時にそれは彼らにとって、大学生最後の学期が目の前に迫っていることをも意味している。そしてその最終学期で彼らを待っているのは、大学生活最大の関門、学部生なら卒業論文や卒業研究、大学院生にとっては修士論文や博士論文だ。これまでの4年間あるいはそれよりも遥かに長い間、どんなに頑張って単位をたくさん取っても、また、長い就職活動を経て目指す就職先から内定を貰っていても、この最後のハードルが超えられなければ、全ては水の泡になってしまう。


卒業まで残り少ない時間をどう管理していくか


 そしてこのハードルにはこれまでとは異なる特徴が二つある。一つは締め切りが厳密に決まっていることだ。例えば、これまでの講義や演習なら単位を落としても、また翌年に取って巻き返す事ができただろう。しかし、大学生活最後の研究や論文は、それが締め切りまでに間に合わなければ、少なくとも今年度の卒業は無くなってしまう。


 もう一つの特徴は「一定数の文字数」を書いてまとめないといけないことだ。例えば、人文科学や社会科学の卒業論文や修士論文なら、時に期待される文字数は2万字以上、時には4万字をも大きく超える。つまり、これまで講義や演習のレポートで求められたものより遥かに長い文章を書かなければならないわけだ。更に言えば、将来、書籍等の形で学術書として出版される事が期待される博士論文なら、その文字数は10万字をも遥かに超える。図表や注釈もきちんと正確につけなければならないから、その手間は今までとは段違いだ。


 しかも厄介な事に多くの大学生にとって、これらの学位論文や研究は「自分の人生で初めて書く学術的な論文・研究」だから、彼らはそれをどうやってまとめればいいか必ずしもよくわかっているわけではない。実際、何万字にも及ぶ文章の全てを自分の頭できちんと理解して要領よく書くのは大変だから、そこには一定の試行錯誤が必要になる。当然、その作業には時間がかかるから、卒業まで残り少ない時間をどう管理していくかが大事になる。


 では時間はどう管理すれば良いのだろうか。例えば、自分のゼミでは次のように説明する事になっている。うちの大学院の修士論文の締め切りは1月末。だからと言って、この日ギリギリに論文を仕上げれば良い、と思ったら大間違いだ。論文には一定の形式と何よりも内容が必要だから、要件を満たさずに論文を出し審査にかけても、ただ落ちるだけになる。だから、多くの場合、学生が路頭に迷うのを見たくない指導教員は、学生に早めに原稿を出させて、これを自らチェックする事になる。


論文を書き始めるべきタイミングは?


 それでは原稿はどれくらい前に出さないといけないのだろうか。多くの場合教員は、同時に多くの学生を抱えており、また、他にもたくさんの仕事を持っているから一人の学生の論文や研究にだけかかりきりになるわけには行かない。だから、学生が論文や研究成果を提出して、教員がそれを丹念に読んでコメントを返すまでには1週間程度はかかる事になる。そして、学生の側が教員のコメントを理解して、必要ならデータ等を加えて論文を直して再提出するには、また1週間程度かかるだろうから、教員と学生の間で原稿が1往復するには、2週間程度かかる事になる。


 とはいえ、一回のチェックだけで直せるのはせいぜい論文の形式だけであり、内容にまで踏み込んで大幅な修正をするのは難しい。なぜならコメントが誤解されて、全く異なる方向へと修正されたら大変だからだ。だから内容の修正までを含めて論文を改善するために、最低限、学生と教員との間では原稿が2往復以上する事が望ましい。これだけで最低、4週間の時間が必要だから、学生は1ヶ月程度前には原稿を完成させて教員に提出する事が望ましい。つまり、1月末に締め切りがあるうちの大学院の場合なら、年末辺りが事実上の原稿提出のデッドラインという事になる。



 そして、もちろんその原稿を書くにも一定の時間がかかる。我々ベテランの教員でも本格的な論文の執筆には1ヶ月以上かかる事が通常であり、初めて論文を書く学生なら余裕を持ってその2倍、つまり2ヶ月程度は見ておいた方がいい。だとすれば、単純計算で論文は年末の2か月前、つまり10月末には書き始めた方がいい事になる。更にいえば、そもそも研究の内容が最初から箸にも棒にもかからないものであっては困るので、書き始める前に、つまり、10月末より前の段階で、一度ゼミ等で報告して教員に確認をとっておいた方が良い。だとすれば、後期が始まってすぐの10月の早い段階で概要を報告して、論文の大枠にOKをもらっておかなければならない事になる。


 加えて更にここで考えておかなければならない事がある。それは論文を書きながら資料収集や実験を行うのはナンセンスだ、と言う事だ。なぜなら期待したものと異なるデータが出てくれば、論文はその都度書き直しになるから、時間がいくらあっても足りないし、そもそも本当に締め切りまでに研究の完成にこぎつけられるかすら、怪しくなるからだ。だから、後期がはじまった早い段階で、卒業論文や研究、修士論文や博士論文のためのデータ収集や実験は終わっていなければならず、それはおおよその作業がこの夏休みの間に終わっている事が望ましい事を意味している。そう、学部卒業や大学院修了に向けての最後の勝負は、彼らがここまでどれだけ勉学を積み、研究を続けて来たかに「ほぼ」かかっているのである。さて、皆さん、大丈夫でしょうか。


「既に手元にある戦力」をどうやって活用するか


 明らかなのは、この夏休みを終えたら、卒業を控えた学生には、もう追加の本格的な資料収集や実験を行う時間はほとんどなく、「手元にある戦力」で勝負しなければならない、という事だ。そして、言うまでもなく、終盤に差し掛かったペナントレースも同様である。春先とは異なり、この段階ではもはやファームで若手を育成し、新たな戦力が育ってくるのを待つ事は出来ない。他方、苦しい夏の連戦を経て、疲労が溜まっており、調子を落としたり故障したりして、戦列を離れていく選手たちも増えていく。トレード期限もすでに過ぎており、新たな戦力を補強することも不可能だ。


 だとすると、今後のペナントレースの行方は、各チームがファームにどれだけの予備戦力を抱えており、またそれをどうやって活用するかにかかっている。ペナントレース後半に入り、ロメロが復帰し、中日から金銭トレードで獲得したモヤがクリーンナップに入ったことで、急速に成績をあげつつあるオリックスであるが、この点でもチームの今後の伸びしろは依然、大きい。重要なのは、同じくクライマックスシリーズ進出を争う他球団が、早い段階から中継ぎや抑えを酷使し、その疲労が溜まっているのに対し、シーズン後半で抑えを増井からディクソンに変えたオリックスの中継ぎ、抑えにはまだ登板数の余裕が残っていることである。


 加えて更に重要なのは、今シーズン序盤のローテーションを支えた山本由伸と榊原翼が休養十分の状態で、間も無く一軍に復帰する事である。先発のコマが新たに二枚増えれば、当然、それだけローテーションに余裕ができ、余った戦力を中継ぎに回すこともできる。どのチームも戦力のやりくりに困るシーズン終盤、この二人の復帰は限りなく大きい。


 そして、オリックスにはもう一枚、大きなカードが残っている。言うまでもなく、それはシーズン序盤で戦列を離れた「浪速の轟砲」T-岡田である。複数年契約の最終年にあたる今年、既に来シーズンの去就が囁かれている岡田であるが、自らの今後の為にも、シーズン終盤での巻き返しを望んでいるのは、彼自身であるに違いない。母校履正社の甲子園優勝の余韻の残る中、彼の勇姿をもう一度スタンドで見たいファンは多いはずだ。復活したT-岡田が、オリックスをクライマックスシリーズに導いていく。そんなドラマを見てみたいのは、筆者だけではないに違いない。



シーズン序盤で戦列を離れたT-岡田 ©文藝春秋


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(木村 幹)

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