『ドラクエ』と『ダンガンロンパ』から“ゲームデザイナーが描くシナリオ”の強みと可能性に迫る【藤澤仁×小高和剛 対談】

9月4日(水)11時36分 電ファミニコゲーマー

 映画、小説、アニメ、漫画、ゲーム──この世の中には様々なメディアがある。そのシナリオを手掛ける作家、あるいはシナリオライターも様々だが、その中でもゲームのシナリオライターとはどのような存在で、どうやってシナリオを作っているのだろうか。

 映画のように、複数人で作り上げていくのだろうか。それとも小説家のように、一人で黙々と作業するのだろうか。あるいはアニメのように、本読みと呼ばれるような会議をするのだろうか。いや、もしかしたら漫画家と編集者のように、プロデューサーとディレクターが二人三脚で作るのかもしれない。

 そういったゲームシナリオライターの実態を、我々はあまり知らないのではないだろうか。そこで今回は、1998年より堀井雄二氏のアシスタントとして『ドラゴンクエスト』シリーズのシナリオ制作に参加した藤澤仁氏と、『ダンガンロンパ』シリーズの企画・シナリオを手がけたことで知られる小高和剛氏による対談をお届けする。

 藤澤氏はシリーズの中心的人物として、『ドラクエX』までディレクターを務めた。現在はスクウェア・エニックスを退職し、ミクシィの次世代エンターテインメント室室長に就任したほか、物語づくりに特化した会社ストーリーノートを設立。
 小説『夏の呼吸』を発売するなど、ゲーム以外の分野にも活動の場を広げている。

(画像は夏の呼吸 (文芸書) | 藤澤仁, 典樹 |本 | 通販 | Amazonより)

 一方の小高氏は、現在は打越鋼太郎氏とともにスパイク・チュンソフトを退社し、新たにトゥーキョーゲームスを設立。

 小学生たちがデスゲームを繰り広げる『デスマーチクラブ』など3本のゲームの開発が続くほか、制作会社ぴえろの新作アニメの原作も務めるなど、幅広い活躍を続けている。

(画像は「Too Kyo Games」設立発表会ライブストリーミングより。公式サイトはこちら)

 そして彼らに共通することは、シナリオ制作に軸足を置きつつも、小説やアニメといったジャンルにも活動の場を広げているゲームクリエイターであるということだ。

 本企画の面白さは、そういった共通点がありつつも、ある意味で対照的な作品を手掛ける2人が、ゲームシナリオライターの強みや可能について対談するところにある。

 なお本稿は、取材で収録したものと、その後に実施されたラジオ番組「居酒屋:でんふぁみにこげーまー」で語られたものを一つに構成したものだ。
 同番組は放送後に書き起こしを公開することになっているが、今回に限っては語られた内容の多くが被っており、その両方を掲載すると6万文字を超える大ボリュームになってしまうため、1本の記事になったことをご了承いただきたい。

聞き手/TAITAI
文・編集/クリモトコウダイ


左から藤澤仁氏、小高和剛氏。

全てを内包しているゲームシナリオライターの強み

──お二人ともゲームディレクターであると同時に、ゲームのシナリオライターでもあるわけですが、お二人が考えるゲームシナリオライターの強みとはなんでしょうか。

小高氏:
 ゲームシナリオライターって、優れていれば何でもできると思うんですよ。文章、映像、遊び……全てを内包しているのがゲームですからね。

 だからゲームって、シナリオライターの力量がダイレクトに反映されるメディアなんですよ。弱い面があると全部中途半端だけど、逆に強くなるんだったら全部強い。

──つまり、ゲームシナリオライターはいろいろできて器用ってことですか?

小高氏:
 そう、器用なんですよ。しかもゲームごとに毎回仕様が変わるのに、わざわざそれに合わせてシナリオを書かなくちゃいけない。器用さの部分は他のシナリオライターと比べると群を抜いていると思いますね。ただそれゆえに……。

藤澤氏:
 器用貧乏だよね。

小高氏:
 そう。そうなんですよ。

藤澤氏:
 器用さで乗り切れてしまうから、本当の意味で研ぎ澄まされた珠玉の1品を作れといわれると、意外とそういう能力は持っていなかったりする。

 小説ならば、自分が最初から最後まで仕上げたものを商品にして、しかも感動してもらうところまで責任を持たなければいけない。でもゲームシナリオライターは、良くも悪くもそれほど切羽詰まってない。それが器用でもあり、器用貧乏でもある理由だと思います。

──他にゲームシナリオライターにはどういう特徴があるんでしょうか。

藤澤氏:
 ゲームシナリオライターの特徴の前に、一般によく言われている“良いシナリオライター”とは、“修正に強い人”なんですよ。

 例えば映画の製作シーンでは、やっと完成したシナリオを、監督はもっとこうしたいと言ってくる。その意見に合わせてシナリオを直すと、今度は主演女優が「私こんなこと言いたくないわ」と言い出す。
 その場にいたスポンサーの偉い人は、「こういうシーンを追加できないかな」とか言い始める。しかも、修正はその場で直ちに行い、かつ面白さを破綻させずに書き直さなくてはいけない。

 だからハリウッドのシナリオライターって、最初の第一稿を書くことも大切ですけど、それ以上にリライティング……つまり修正する能力が大切なんですよ。
 つまり、良いシナリオライターというのは、柔軟性が高く、かつ修正能力が高い存在だということです。

──“修正に強い人”というのはゲームにも通じそうですね。

藤澤氏:
 そうなんです。ゲームシナリオライターの場合、さらにその一歩先を行っていて。ゲームの場合、いろんなことを言ってくる人の数は同じなのに、プラスしてシステムの制約なども発生する。
 書き手の意思とはまったく違うところで、まるっと話を変えなくてはいけない、そんなことが頻繁に起こるんですよ。

小高氏:
 しょっちゅうですね(笑)。

藤澤氏:
 そういう修正や制約に対して高い適応能力を発揮するのがゲームシナリオライターで、それができる人はどこででも戦えると思うんです。特に集団で物を作っていく場合は、より力を発揮できるんじゃないでしょうか。

──修正でいうと、いろんな理由があって仕様を変更するときに、1番効率的に……コスパよく解決しようと思ったらシナリオをいじるじゃないですか。ゲームシステムや3Dモデルに手を入れるのは大変なんで。
 ただそれをしちゃうと、その変更に伴って整合性を取る必要が出てくるわけで。そこには“帳尻を合わせる”という才能が必要だと思うんですよ。そういったことって感じられますか?

小高氏:
 藤澤さんが先ほど言われた“修正に強い人”というのは、“帳尻を合わせるのが上手い人”でもあると思うんですが、それ以前の問題として、“シナリオを読めないディレクター”が弊害だったりするんですよ。

 おっしゃる通り、文字を変えるのは簡単なんですよね。ただ、その簡単な部分がお客さんにとってどれだけ大きいのかが正確に測れず、コストが良いからと切ってしまうと、話がガタガタになってしまうんです。

藤澤氏:
 実際、そういう風にして壊れたんだろうなというのが透けて見えてしまう作品もありますもんね。

小高氏:
 だから一番上に立つ人がシナリオとか物語を読めないんだったら、シナリオのあるゲームなんて作らないほうがいいというか……。その取捨選択がガタガタになっちゃっていると、全部平坦なシナリオになっちゃったりして。

 昔はやっぱりそういうシナリオ読めないディレクターが多いなと思いました。組み立て方が下手というか。

──シナリオを読める読めないとは、具体的にどういうことなんでしょう。

小高氏:
 シナリオを読めるとは、どういうカットシーンで、どこにキャラがいるのかを、ト書きで書かないところまで想像して、これがゲームになった時のことをイメージしながらシナリオが読めるかどうかですね。

 シナリオが読めない人は、そういった想像をせずに字面だけでばっと読んでしまい、誤ってしまうんです。これがアニメだと、監督が絵コンテを頭の中で組み立てながら読んでいる……というか、そこで読めなかったら監督じゃないんですけど(笑)。

 ある一時期、その能力というのが低い人が多いのかなと、一瞬思ったことがありましたね。

藤澤氏:
 実際そうだと思いますよ。結局お話というのは、ここがこうなっているから面白いみたいな定義の存在しない世界じゃないですか。だから、どういうストーリーが人を喜ばせるのか、という考えが自分の中にない人や、ストーリーに対する愛のない人が意思決定をすると、1番肝心なところが削られたりなど不幸なことが起こる。

 そういうことが現実的にしょっちゅうあるので、シナリオを書く仲間の間では、「どんな話を面白いと思うかは“人による”」と言うことを禁止にしています。「全員が面白いと思う物語は必ずある」ということを前提にして議論をします。
 だから、その場にいる人は全員を納得させなくてはならないと。けれど、そこを理解できない人が多い。「いや、俺はこっちの方が感覚的に好きだ」みたいな根拠のない主張をする人は、物語を作る仕事をするための準備すらできていないと思いますね。

──そういう不幸なことが起きないように、シナリオを書くときはどういったことを大切にされているんでしょうか。

小高氏:
 若い書き手にも言うんですけど、アウトプットを全部想像しながら書きなさいと。

藤澤氏:
 同じですね。物語というのは、人に読んでもらって初めて完成なんで、その時にどんな気持ちになってほしいのか、ということを最重視します。なので、積み上げ式で書いてしまうのはダメですね。

 例えば、このキャラクターは本当に自分で殺したくなるくらい憎ませようとか、このキャラクターを失ったら本当に自分の身内が死んだような喪失感を与えられるくらいのキャラクターにしたいとか。

小高氏:
 そうですね。だからシナリオライターの地位が低いゲームはダメだと思っていて。書いたら書きっぱなしで、どこでどうなったか分かんないというのが絶対にダメだというか。

 実際、そういう会社って多いっちゃ多いんですよね。特に自社にライターがいない会社。
 外注先はアウトプットを想像しながら書いているのに、そのアウトプットをやるのが外の人だと、どれだけ伝えられるのかという。

 大体そういうケースって、メールを受け取って「ここ直して」で終わっちゃうんですよ。なんか本当パーツの一個に成り下がってしまうというか……。シナリオじゃなくてただ字を読んでいるみたいな感じになっちゃう。

藤澤氏:
 それは、あらゆるゲームの要素の中で、そもそもシナリオがどれだけ重視されているのかという話になってきますね。ストーリーで売っているゲームもあれば、その程度にしか扱われないゲームもあるし。ゲームの性格にもよると思いますが。

──そういう意味では、ディレクターとライターは兼任した方がいい作品が作れそうですね。例えば『ダンガンロンパ』の場合はどうだったんでしょうか。

画像はゲームソフト | ダンガンロンパ1・2 Reload | プレイステーションより

小高氏:
 『ダンガンロンパ』の場合は、先にシナリオを作ったんですよ。というのも、ゲームシナリオって企画書の段階だと、どういうノリでどういうリアリティがあるのか、SFなのかファンタジーなのかとか、全然わかんないんです。かといって口で説明するのも難しい。だからみんな、イメージが掴めなくて迷っちゃうんです。

 でもシナリオを先に作ってしまえば、そこが1個担保になるというか、『ダンガンロンパ』を作っているときは「俺のシナリオでファミ通の7点はいくから」みたいなことを言っていて。「だから安心して。これに乗っけてやっちゃえば大丈夫だから」「後の8点、9点、10点は君たちで」と。

 だからゲームシナリオって、ゲーム開発をブーストさせる1番わかりやすい要素だと思いますね。だって仕様だけ見てもわからないじゃないですか。
 このゲームが本当に面白いのかって。でもシナリオが面白いと、スタッフのモチベーションを上げる力になり得るんですよ。

藤澤氏:
 わかります。

──ここまでの話を聞いていても、共通する部分がありつつも、小高さんと藤澤さんでまた考え方が違って面白いですね。

藤澤氏:
 小高さんの方が、より高い作家性を持っているシナリオライターだと思うんですよ。

小高氏:
 一人ぼっちだからだと(笑)。

藤澤氏:
 僕はむしろ、なるべく作家性を排除する方向でやってきたので。なので、偉い人に修正しろと言われても、あんまりへこまなくて、むしろ「これが良くなるきっかけになる」という前向きな気持ちで受け止めるんですけど。
 小高さんはどうですか? 結構修正されますか?

小高氏:
 僕はされるのかな……? 減ってきてはいますね。

藤澤氏:
 キャラが立ってきたということですね(笑)。

小高氏:
 それこそ指名買いじゃないですけど。でも、言われたら全然直せます。

藤澤氏:
 そこに対してストレス感じないタイプですか?

小高氏:
 そうですね。藤澤さんが言われたように、むしろそれで面白くなったりするので。もちろん、最初はイヤイヤだったり、イラっとするツッコミもありますけど、咀嚼してやってみたら「案外面白くなったぞ!」みたいな。

藤澤氏:
 それはありますよね。『ドラクエX』の話ですが、あの当時、オンラインゲームってどれくらいの規模のものを作ればいいのか掴めていなくて。そんな状況でシナリオの全体構造を設計したものだから、見積もりを進めていくと「半分も作れません!」という話になってしまって。

 半ばまで作ったものを半分にするというのは、シナリオライターにとってはもうある意味死刑宣告みたいな感じだったんですよ。半分になんかしたら、当初想定していた面白さの半分どころか、30%くらいになっちゃうんじゃないか、みたいな絶望感があって。

 ところが、色々と試行錯誤をしながら削減してみたら、「半分にしたことで、むしろ元よりも面白くなった」という声がスタッフからも出てきた。アウフヘーベンっていうんですかね。
 修正って、最初は意に沿わなくとも、それを受け入れて工夫していくことによって、元よりも良くなることが普通にあるんです。そういうことが起こるのって、ゲームの全セクションの中でもシナリオだけの特殊性だと思っていて。だから、とても面白いんですよ。

小高氏:
 シナリオの修正って、アニメの場合だとめちゃめちゃ多いので、ゲームだけやっていたら抵抗があったかもしれないですね。アニメはほんと、先ほどの藤澤さんの話じゃないですけど、いろんな大人がいろんなことを言ってくるので。それで慣れたんだと思います。

 あとアニメの場合は、尺の影響で面白いけど削らないといけないことも多々あって。そういうことも全然できちゃうので、完璧を目指すところではない部分の修正も抵抗感はないんですよ。

藤澤氏:
 ゲームシナリオライターと小説家や他のシナリオライターとの違いとかを考えると、ゲームシナリオライターって、よりビジネスと密接した話の作り方をしていると思いますね。

──ビジネスもそうですし、ゲームの方ってメディアの構造の違いみたいなものを凄く敏感に捉えている印象がありますね。

藤澤氏:
 そうですね。それでいうと、最近はみんな気が短くなっていて……判断が早いというか。

小高氏:
 1本1本の作品をあんまり大事にやらなくなりましたよね。

藤澤氏:
 昔の文法のまま……つまり、「最後までやれば面白い」という文法で作っちゃうと、まったく通用しなくなってきていると感じますね。

──むしろアドベンチャーゲームで50時間とか遊んでいたのがなんだったんだと(笑)。

藤澤氏:
 最初にフルプライスでゲームを買っていた時代は、そういうゲームでもよかったんですよ。遊ぶ方も、当然最後まで遊ぶつもりで買っているわけですから。だけど、サブスプリクションやF2Pだと、自分が面白くないと感じた瞬間にやめてしまう。

 テレビアニメとか連載漫画と同じで、冒頭から強く興味を惹きつけて、ある程度のところで「これは面白いものだ。最後まで見よう」と思ってもらえないと、最後までやってもらえない。そんな時代になったんだと思いますね。

小高氏:
 『カメラを止めるな!』がテレビだったら絶対チャンネル変えていますからね。

(画像は映画『カメラを止めるな!』公式サイトより)

藤澤氏:
 そうかもしれない(笑)。

──『カメラを止めるな!』を知らない方に説明しますと、この作品は二部構成になっていて、一部は何か微妙なんだけど、二部で「おお!!」ってなる構造なんですよ。映画館で見る映画って、基本的には最後まで見ますよね。この「お客さんは最後まで見る」を前提に作られているのが『カメラを止めるな!』です。

小高氏:
 あれは映画館を上手く利用していましたよね。keyとかの作品もゲームというメディアを上手く利用していましたし、『シュタインズ・ゲート』もそうでしたね。だって『シュタインズ・ゲート』がF2Pだったら前半で「長い!」って言って辞めていますよ(笑)。

(画像はSTEINS;GATE | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

藤澤氏:
 そういうことですよね。

小高氏:
 ただ難しいのが、ゲームシナリオライターって、その瞬間その瞬間の面白さ……言い換えれば、掴みや引きを作るのが苦手だと思っていて。

 ソーシャルゲームとかオンラインゲームは別ですけど、基本ゲームって、プロットの段階で結末を決めて、全部のプロットが書きあがってからシナリオを書き始めるんですよ。つまり映画や小説と同様に、終わりありきなんですよね。

 一方で、漫画とかアニメとかって、ケツなんてどうでもいい。大切なのは1話目、その次は2話目なんですよ。

藤澤氏:
 そこが面白くなかったら、次なんかねえよと(笑)。

小高氏:
 そうなんですよ。打越(打越鋼太郎)とか、やっぱりゲームをずっとやっていたから、最後の最後にでかいカタルシスがあって「うわー、すげー!」というのが得意で。

 打越が脚本を務めた『パンチライン』というテレビアニメがまさにそれで。最後の最後まで観るとめちゃめちゃ面白いけど、途中でだれてしまって脱落しちゃう。
 ゲームはやっぱり後半を大切にしちゃうので、そこら辺はゲームシナリオライターが苦手とする部分ですね。

 そういう視点で見てみると、ゲームって物語としての掴みは弱いんだなと。

(画像はTVアニメ「パンチライン」より)

藤澤氏:
 それは同感ですね。

──アニメは3話の段階で、継続して見るか見ないかを決める、いわゆる“3話切り”というものがありますよね。

小高氏:
 ただ、これは良し悪しじゃなくて、ゲームシナリオライターが違うジャンルに出るときに単に弱点になりがちなものにすぎないので、意識すればいいものが作れると思うんですよ。

 むしろ様々なメディアのシナリオライターがいる中で、他メディアのシナリオを手掛けるのが一番得意なのは、ゲームシナリオライターだと思っていて。逆に、例えばアニメからゲームのライティングってなかなか難しい。でも、ゲームからアニメならばまだ可能性がある。

藤澤氏:
 そうかもしれないですね。

小高氏:
 やっぱりビジネス……先ほども少し出ましたが、ゲームって特にビジネスなんですよね。ビジネスという枠組みをものすごく理解している人がやっぱり多い印象があります。

藤澤氏:
 もっと他のメディア……アニメとかのほうが、もの作りに特化している人が多いかもしれない。

小高氏:
 そこの違いって、“最終的なアウトプットは商品である”という考え方があるかないかだと思っていて、我々はそういう考え方が絶対どこかしらにある。そういう意味では一番適応力があるんじゃないかと。

──適応能力って具体的にどういう部分なんでしょうか。

小高氏:
 例えばアニメのシナリオライターがゲームのライティングをやろうとすると、「アニメではこうなんだけど」みたいな、自分のフィールドに合わせようとしちゃう。
 でもゲームの場合は、むしろアニメ側にずっと合わせちゃう。「そういう商品ですもんね」って感じで。そういうのが得意なんだと思います。

──なるほど。

ゲームシナリオはミーティングで作る

──そういえばゲームのシナリオってどのように作られるんでしょうか。例えば小説の場合は、基本的には自分が最初から最後まで作りますよね。映画の場合は先ほどの例がありましたが。

藤澤氏:
 ゲームによると思いますが、僕の場合は、ミーティングを最重要視してますね。というのも、ゲームシナリオは、みんなで話し合いながら高めていく工程が非常に重要だと思っていて。

小高氏:
 『ダンガンロンパ』をやっていた時は、シナリオ一章分が書き終わるとスタッフのみんなに送って、意見を全部出してもらっていましたね。すると「ひどいと思いました」といった意見が返ってくるので、それを見て「OKだな」と思ったり、逆に「これは予想よりもムカつきすぎているな」と思って微調整したりはしていました。

藤澤氏:
 ミーティングはしないんですね。

小高氏:
 僕の場合はミーティングではないですね。もうちょっと私小説じゃないですけど、個人作業というイメージです。

 でも『ダンガンロンパ』の草案みたいなの出した時は、企画として破綻しているって結構言われて……そういう議論はしましたね。話が進むにしたがってキャラクターが少なくなっていったら話が盛り上がらないと。

藤澤氏:
 そういう無根拠なこと言うやつって、なんなんでしょうね(笑)。

小高氏:
 そうなんですけど、『ダンガンロンパ』の時はむしろ、自分が「確かにそうかもしれない」と納得しちゃって(笑)。

 でも「とりあえず書いてみるわ」って書いたら、結果的に盛り上がったんですよ。

藤澤氏:
 なるほど(笑)。そういえば昔、『サバイバー』っていう番組があったじゃないですか。

小高氏:
 ありましたね。見たことがあります。

藤澤氏:
 当時、ああいうかたちの、集団が身内を切り捨てていく……今で言う『人狼』のような構造って面白いなと、僕らの仲間内でもすごく流行ったんですよ。

 あれの面白いところって、最初のうちは16人もいるから一人ひとりのキャラは薄いんだけど、人が減っていくほど、いなくなった人のぶんまでキャラが濃縮されていき、最後の4、5人になると猛烈な濃さになる。

 その感覚や構造を最初にゲームで実現したのが、『ダンガンロンパ』だったと思います。だから当時、すごく印象的でした。うわ、やられたなと。

小高氏:
 藤澤さんがあのとき(『ダンガンロンパ』の草案を出したとき)いてくれれば(笑)。

──ところで、藤澤さんはなぜミーティングに行きついたんでしょうか。

藤澤氏:
 元々は、「『ドラクエ』のシナリオチームの質を高めよう」ということがスタートだったんですよ。

──『ドラクエ』のシナリオチームというのは、どういうものだったんでしょう。

藤澤氏:
 『ドラクエ』のシナリオは、当然堀井さんが中心にいらっしゃるんですが、昔からアシスタントはいたので、チーム制作だったんですよ。僕はそのチームに『ドラクエVII』から入ったんです。

 それで『ドラクエVIII』が終わった頃ぐらいに、「堀井さんにばっかりに負担を掛けるやり方はダメなんじゃないか」と僕が言い始めて、「堀井さんにシナリオを見てもらう前に、もっと自分たちだけでクオリティの高いシナリオを作れるチームになろう」と働きかけたんです。

──そのクオリティを高めるために用いられたのがミーティングだったと。

藤澤氏:
 はい。『ドラクエ』のシナリオチームには才能豊かなスタッフがいたんですが、当時はそれぞれが個人技でシナリオを作って、堀井さんに1対1で当てる格好でした。
 それでは、堀井さんの負担が大きいし、全体で最高のパフォーマンスが出せる組織になっていなかった。なので、どうすればパフォーマンスを上げられるかを考えた結果、行きついたのが、ひたすらに話し合う時間を設けることだったんですよ。

 日本人って、「物語は一人の力で作らなくてはならない」という、作家主義的、純血主義的な思想が根強い。けど、この考えは作家側の視点にあるものであって、読者側の視点に立てていないと思ったんです。
 読者側の視点に立てば、面白い物語を作るために大勢で知恵を出し合った方がいい結果になるに決まっている。こういう考えをチーム内に浸透させていきました。

 例えばプロットを作るにしても、誰か一人が承認するのではなく、ミーティングに参加していた全員がOKしないと通らないというルールにしました。
 全員がOKしたのなら、「誰が見ても面白い」という基準に確実に近づいたことになる。だから、ひたすら話し合い。ひどい時は、一本のプロットを完成させるのに全員で何日も話し合ったりしていましたね。

小高氏:
 それはアニメに近いかもしれないですね。アニメの本読みに行くと、映画じゃないですけど、みんな喧々諤々でいろんな大人がいろんなことを言いあっているじゃないですか。

藤澤氏:
 そうですね。当時、私が『ドラクエX』のシナリオを作っていた頃は、グループでゲームシナリオを作っているところなんて全然なかったんですね。
 それで、ノウハウを求めて色々と学んでいくうちに、『ピクサー流 創造するちから──小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』という本に出会いました。

(画像はピクサー流 創造するちから——小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法 | エイミー・ワラス エド・キャットムル, 石原 薫 |本 | 通販 | Amazonより)

 この本には、ピクサーがいかに物語の完成度を高めていくかという記述があって、グループで作品のクオリティを高めていくためのヒントがたくさん書かれていたんですよ。

──もともとピクサーについて注目されていたんですか?

藤澤氏:
 はい。今でこそピクサーやディズニーのストーリーメイキングは世界的にクリエイティブの手本になっていますが、当時はまだそれほどではありませんでした。それでも、あれだけのクオリティのシナリオをコンスタントに出し続けられる仕組みが知りたくて、当時から色々と本を漁って読んでいました。

 で、読んで知ったことを実際に『ドラクエ』の現場で試行錯誤して錬磨していく機会を持てたので、グループでゲームシナリオを作るメソッドについては、今も日本で1番知見を持っているという自負があります。機会があれば、後進のためにもどこかにまとめておきたいと思っているくらいです。
 今、自分で会社を立ち上げて、スタッフとともにゲームのシナリオを作っているんですが、そこでも同じやり方を取っています。つまりは、ひたすら話し合う(笑)。

小高氏:
 でもそれってスケジュールとか読めるんですか?

藤澤氏:
 比較的安定はしない方だと思いますけど、ちゃんと責任をもって完成させますよ(笑)。
 ただ、クオリティを重視することに理解のある仕事以外は受けない──ということにさせてもらっています。なので、高コスト体質ではあると思うんです。ミーティングは、大勢の時間を使いますし。

小高氏:
 でもそれって、なかなか信用できるメンバーが集まってないとやりづらくないですか?

藤澤氏:
 まあそうですね。発言が苦手だとか、関係のないことを喋り始めるとか。ブレストが下手な人もいますが、そこは鍛えていくしかない。結局は個人個人考えは違うので、異なる意見が出てくることは前向きなことだと思っています。むしろ、その異なる意見をぶつけ合うためのミーティングなので。

 ただ、さっきも言った「誰が見ても面白い」という基準を正確に理解できるメンバーをそろえる必要があるんですが、これがなかなか難しいです。

小高氏:
 そうすると、ここのパートは誰々が担当というパート分けってないんですか?

藤澤氏:
 いや、パート分けはあります。なので、担当もあるんですが、その担当に対して、皆で意見を言う感じですね。意見というのは、「ここがダメだ」というような否定なものではなく、「こうするともっと面白くなるのでは?」という知恵やアイデアを与えて肉付けしていく感じです。
 なので、僕がよく言うのは、「担当ライターを見殺しにせず、全員で助けよう」ということですね。

小高氏:
 その辺もアニメに近いですね。アニメも基本一人で書くことってそんなになくて。複数ライターでやるので、脚本に変に癖が出過ぎると良くないから、みんなでブレストしてキャラを固める。特に原作がない場合、自分の担当じゃない脚本家に来てもらって、ブレストをすることもありますし。

藤澤氏:
 小高さんの場合、みんなで高めるというよりはメインライターとサブライターに分かれる、という感じですよね。

小高氏:
 ええ。やるとしたらメインルートをやって、サブルートはお願いする感じですかね。それで余裕があったら自分でもサブルートを直すしみたいな。

藤澤氏:
 これは小高さんが作るゲームと僕が作るゲームとの違いで、小高さんの場合は、ギリギリ一人でディレクションが可能な範囲だからでしょうね。『ダンガンロンパV3』とかは、すげーなと思いましたが(笑)。

(画像はニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期 | スパイク・チュンソフトより)

小高氏:
 ありがとうございます(笑)。

藤澤氏:
 僕は、そもそも「一人では絶対に書き切ることができない」という前提でやっているところが、小高さんとの違いかもしれませんね。

小高氏:
 そうですね。まあ、僕は一本道のものが多いので、オープンワールド的な横に広がる話になったら俺のやり方だと、俺自身もテンション上がらないと思います。ちょっと他の人に任せないという気持ちになっちゃうし。

藤澤氏:
 小高さんが作るゲームは、ストーリーベースが多いですもんね。

小高氏:
 そうですね。だからそういう意味では横に広がる、広い話になっていくとダメだと思いますね。

 ……あ、素朴な疑問なんですが、藤澤さんって文章を書くのが好きなんですか?

藤澤氏:
 え? 好きですよ。

小高氏:
 今でも……?

藤澤氏:
 はい。今でも好きですよ。そこは揺るぎないですね。

小高氏:
 じゃあ、結構たとえばシナリオ書き始めると、「ああ、こんな時間になっちゃったよ」みたいな。

藤澤氏:
 ああ、しょっちゅうですね。

小高氏:
 飯を食い忘れたみたいな。

藤澤氏:
 もう全然ある。

小高氏:
 へえ!

藤澤氏:
 小高さんもそうだと思うんですけど、物語を書いている時に本当に没頭すると、向こうの世界に行くじゃないですか。

小高氏:
 いや、行かないです。

藤澤氏:
 行かないかー(笑)。

小高氏:
 はい(笑)。でも行きたい。行きたいんですよね。

──「向こうの世界に行く」ってどんな感覚なんでしょうか?

藤澤氏:
 なんていうか……まさにオンラインゲームをやっているような感覚で、朝起きた瞬間から、「ああ、あっちの世界行きたい」「一刻も早く没入感を得たいな」ってなって、すぐに書き始めるんですよ。

 それで向こうの世界に行って、1日その世界で過ごして、夕方になったらこっちの世界に帰ってくるみたいな。そういう感覚です。

小高氏:
 いや、これは嫉妬ですよ。昔、同人誌を書いている女性に「文章を書くのが好きなの?」って聞くと、やっぱりすごくのめり込んで書いちゃうみたいなことを言っていて。土日もそれで一気に飛んじゃうらしいんですが……もうね、羨ましい。

藤澤氏:
 じゃあ、文章を書くのが嫌で嫌でしょうがないんですか?

小高氏:
 嫌で嫌でしょうがないですよ。もう全然集中できないし、5分に1回ネットサーフィンして、まだこんな時間かよって思っています(笑)。

藤澤氏:
 それで、よくあれだけの長編を書きましたね(笑)。

小高氏:
 だからしんどくてしょうがないから羨ましいと思っていて。なんか……すごく好きになりたいな……集中したいなっていう。

 もうね、ずっとつまんないつまんないと思いながら書いているんですよ。これを世に出すのかと思うと、もうイヤでイヤでしょうがないですね。
 だから特に第一稿がすごくしんどくて。

藤澤氏:
 文章を書くのは好きですけど、第一稿がしんどいのは同じですよ。

小高氏:
 で、それを直すごとに何となく良くなってはくるんですけど、でも集中できないという。

藤澤氏:
 それで言うなら、僕はリライティングが大好きですね。

小高氏:
 それは僕もそうですね。

藤澤氏:
 リライティングがなんで好きかっていうと、基本的には良くなる可能性しかないわけじゃないですか。まれには悪くなることもあるのかもしれないけど、概ね良くなる。
 だから、第一稿が上がってリライティングのフェーズに入れば、あとは全部楽しいっていう。

小高氏:
 でも第一稿でのめり込んだりするんですか?

藤澤氏:
 しますよ。でもオンラインゲームと一緒で、自分が面白いと思っている世界なら早く向こうの世界に行きたいと思うけど、そうならない世界も時々あるわけですよ。そういう時は、多少しんどいなと思いますね。
 だから、なるべくそうならないように、書き始める前に気を付けていますね。

小高氏:
 なるほど。僕は第一稿とかプロットをなぞる感じで、作業っぽくなっちゃって嫌になるんですよね。作業っぽいといっても、結局台詞が乗っかっていたりするからそうでもないんですけど。

藤澤氏:
 プロットを書くことの功罪ですね。プロットを書くのでテンションが上がり切っちゃうから、ライティングで急に作業的になっちゃうみたいな。

小高氏:
 そうなんですよ。でもヨコオタロウさんに話を聞いたときは、好きなシーンから書くって言っていましたね。

藤澤氏:
 僕には、絶対そんなことできない(笑)。

小高氏:
 テンションが上がらないから好きなシーンから書いて、最後になるにつれてどんどん嫌になるみたいな。

藤澤氏:
 僕は逆で、早くあそこのシーンを書きたいからここは頑張ろうみたいな。ショートケーキのイチゴみたいな感じですよ。例え良くないですけど。

──ライターならではの苦労が聞けて新鮮ですね……。ところで素朴な疑問なんですが、自分が書いたシナリオで泣かれたりするんでしょうか?

藤澤氏:
 自分で言うの恥ずかしいんですけど、『予言者育成学園』のシナリオは、書きながら自分で泣けてきたこともありましたね。小高さんはそういうことあります?

小高氏:
 ないですね。

藤澤氏:
 一応聞きましたけど、そうだと思いました(笑)。

小高氏:
 ないなぁ。でも、『ダンガンロンパ』のデバックをしている時にスタッフが泣いているのは見ましたね。でも俺は泣かない。

藤澤氏:
 そもそも物語で泣かない方なんですか?

小高氏:
 映画でもそんなに泣かないですね。ただ、ドキュメンタリーはすぐ泣きます。ドキュメンタリーはもう始まった瞬間から泣きますよ。

藤澤氏:
 曲が鳴ったくらいで。

小高氏:
 そう、もう泣きます(笑)。ドキュメンタリーは弱いけど、フィクションはあんまり泣かないんですよね。

藤澤氏:
 フィクションの面白さとノンフィクションの面白さは、また別物ですからね。

小高氏:
 例えば野球だと、引退勧告あるじゃないですか。

藤澤氏:
 ああ、『プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男達』みたいな。

小高氏:
 ああいうの、すぐ泣いちゃうんですよね。さあ、泣くぞって感じで。

藤澤氏:
 わかるわかる(笑)。


【「居酒屋:でんふぁみにこげーまー」について】

 本稿は、2019年7月12日に放送された第2回「居酒屋:でんふぁみにこげーまー」で語られた内容と、その放送前に実施された取材の内容を再構成したものである。

 「居酒屋:でんふぁみにこげーまー」は電ファミのDiscordサーバーで放送されるラジオ企画で、前半部分は誰でも聞くことができ、後半部分はファンクラブ「世界征服大作戦」の有料会員(980円/月〜)だけが聞けるようになっている。

 また、「世界征服大作戦」のプレミアムプラン(6,980円/月)以上の会員は、テキストチャットの過去ログとアーカイブ音源にもアクセス可能だ。
 詳しくは、こちらのページをご覧いただきたい。

■過去の放送
・第1回:電ファミにいったい何が起こった?
鳥嶋和彦(元・週刊少年ジャンプ編集長)
佐藤辰男(元・カドカワ社長/会長)
鵜之澤伸(元バンダイナムコゲームス)
平信一(電ファミニコゲーマー編集長)

・第2回:ゲームデザイナーが描くシナリオの可能性
藤澤仁(ストーリーノート代表)
小高和剛(トゥーキョーゲームス代表)

・第3回:ぶっちゃけ「ゲームメディア」はこれからどうなる?
西岡美道(電撃ゲームメディアディレクター兼ゲームコミュニティ編集課編集長)
世界三大三代川(ファミ通.com編集長)
平信一(電ファミニコゲーマー編集長)

・第4回:漫画はこの先どうしていくべきか?
鳥嶋和彦(元・週刊少年ジャンプ編集長)
鵜之澤伸(元バンダイナムコゲームス)
松山洋(サイバーコネクトツー社長)
矢作康介(『ナルト』元担当編集)

独立と出版を振り返って

──ここまではゲームシナリオライターとしてのお二人に迫ってきましたが、ここからは少し未来の話をしていこうと思います。

小高氏:
 僕は独立して2年ぐらい経ったんですが、やっと立ち位置が分かってきて。まず、大手に媚を売るのはやめました(笑)。やっぱり大手と仕事をすると、どうしても一本に集中しろと言われるし、振り回される。

 だから、やりたいことをやる──俺たちはこういうカラーでやっているんだという感じで、極論、人がやらないことをやらなくちゃいけないというのが、やっと分かってきたんです。

 一番直近の目標としては、全部の表現・規制を取っ払ったインディーゲームを作ること。それがゴールというかスタートライン。
 実際にはやらないですけど、人種差別とかもやっちゃうぐらいの勢いでやって、それで文句言われても「すみません。でも取り下げません」みたいな。

藤澤氏:
 トゥーキョーゲームスを傍から見ていると、フリーランス集団に見えるんですが、そこはどうなんですか?

小高氏:
 まぁそう見えますよね。基本的には僕が持ってきた仕事をみんなでやるという会社で、それぞれが個々の仕事を受けることはほぼほぼないですね。

 とはいえ、今は社員が7人で契約としてもう何人かいるんですが、その全員で1つの作品を作っているわけではないです。それは自分たちがインディーでやりたいと思っていて、その時のために取ってあるんです。

 ただ、打越と共作みたいなことはやっていて。僕がプロットを書いて「あとはどうぞ」と。

藤澤氏:
 打越さんは打越さんで自分の味を持っていると思うんですけど、プロットをもらってそこから文体をフィニッシングしていく作業って、上手くいくんですか?

小高氏:
 上がってきたものに対しては、多少は「ここはこうだよ」と言うこともありますが、基本僕から何かを言うことはしないようにしています。どっちも個性強めなので。

 それよりはむしろ、僕の場合はプロットに超常的な出来事やその展開は書くんですけど、そこに対する具体的な議論とか書いてなかったりするので、それをやってくれみたいな。

藤澤氏:
 書いてない部分を埋めてくれるってことですか? それめっちゃいいな。一緒に仕事したい(笑)。

小高氏:
 ただ、最初に打越が「これは面白い」と思わなきゃやってくれないです。そこはもうお互いにずっと勝負というか。共同でやるというより勝負なんですよ。

藤澤氏:
 まず最初に、打越さんを納得させる必要があると(笑)。

 ところで、今のメンバーって実力と実績のある方だと思うんですが、新人教育みたいなこともされるんですか?

小高氏:
 新人……新人といっても20後半ですけど、『ダンガンロンパ』でサブライターをやっていたやつがいて。
 ずっと一緒にやっているんですが……教育……しているのかな?(笑)。厳しいことをただ言っているだけな気がしますね。

藤澤氏:
 言葉の暴力(笑)。

小高氏:
 言葉の暴力というか(笑)、プロットが上がってきて「つまんない」とか「盛り上がらない」とか、そういうのは言ったりしますね。
 だから細かく添削とかはしなくて、僕の場合は正直自分で書いちゃいます。昔はそれで泣いたと言っていましたね……。自分が書いたシナリオと全然違うと。

藤澤氏:
 シナリオライターの仕事の本質とは、そういうものですよね。自分の書きたいものなんて書けないし、意に沿わないものでも書けなきゃいけない。そして自分の書いたものは容赦なく修正される。
 シナリオライターは作家じゃないから、作家性なんてものは存在しないということを最初に理解してもらわなくちゃならない。

 自分も一緒に働く人には必ず最初にこのことを説明するんですが、その場では「分かりました」と言っても、実際にその時が来ると傷ついてしまう人もいる。

小高氏:
 でも、ゲームにおけるシナリオライターを職業としてちゃんと成立させていくためには、先ほど藤澤さんが言われていたやり方を浸透させていったほうがどんどん人は増えるし、そこから煌めく才能も出てくるんだろうなと思いましたね。

 今までは、そういうのがなかったから、なろうとかラノベとかそっちに行ってしまった人もきっと多いわけで。結局ゲームの人材不足って、そういうところから来ていると思うんですよね。

 逆にソーシャルゲームの会社って、シナリオライターいっぱいいるじゃないですか。それはきっと、藤澤さんと似た方法でやっているからだと思うんですよ。

藤澤氏:
 僕も聞く限りですけど、スクラム式でやっている会社もあるようです。何度も言いますが、日本人は作家主義的な考え方が根付いていて、例えば邦画の脚本家って大体一人じゃないですか。
 僕からしたら「え、一人?」って思うんですけど、大勢で物語を作ることを良しとしない風潮がある。最近はそういうのがやっと取り払えてきて、邦画でも脚本家が複数人の作品が出てきましたけどね。

 だからモノづくりという意味で、スマホのゲームのような、個人の作家性に依存することにリスクがあると理解している人たちは、グループで作ることをちゃんとやっているのかなと感じますね。

小高氏:
 そういうところのトップになって部下を引き連れたかった人生です(笑)。

── 一方で藤澤さんも小高さんと同じように独立され、さらには小説も出されましたよね。

『夏の呼吸』
(画像は夏の呼吸 (文芸書) | 藤澤仁, 典樹 |本 | 通販 | Amazonより)

小高氏:
 これ本当に昔に書いたんですか? 全然直してない?

藤澤氏:
 『夏の呼吸』は、ほとんど直してないですね。あからさまに変だったところは多少直しましたが、それぐらいです。

小高氏:
 いくつぐらいの時に書いたんですか?

藤澤氏:
 二十歳です。

小高氏:
 二十歳!? いや、というのもめちゃめちゃ文章上手いなと思って。

藤澤氏:
 ありがとうございます。自分で読み直したときは、ひどい下手くそな文章だなと思ったんですけど(笑)。ただ、なんというか、ずいぶん頑張ってたんだなあっていう感覚はあって。
 当時、報酬のないことを一生懸命やっていたことが今の自分の礎になっているし、もしも当時の自分に会えたら、褒めてやりたいなって思います。「お前ようやったな」って(笑)。

小高氏:
 あと読んで思ったのが、すごく器用だなと。ゲームシナリオとは全然違うんで。

藤澤氏:
 いやいや(笑)。というか、あれを書いた時は、まだゲームシナリオを書いたことがなかったんですよ。

小高氏:
 ああ、そうか。そういう視点で見るとなおさら面白いですね。僕からしたら、藤澤さんはゲームの人なので、“ゲームの藤澤さんが書いた小説”って認識なんですけど、でも小説を書いたのは同じ藤澤さんだけど、“ゲームシナリオを書く前の藤澤さん”ってことですもんね。

 でも僕が器用だなと思ったのにはほかにも理由があって。というのも、小説ってやっぱ描写なんです。
 でもゲームシナリオって描写がなくて。アニメのシナリオもそうですけど、表情って実はト書き──指示なんですよ。「こういう顔にしてくれ」とか「こういう動きにしてくれ」みたいな指示で、それは絵になってやっと完成品になるけど、小説の場合、描写自体が1個の表現であり、それが小説にとって一番の強み。

 だから他のジャンルからやって来て、小説でよくやってしまうありがちなパターンが、たとえば「何とかは悲しかった」とそのまま書いちゃうこと。でも藤澤さんの場合は、それがなかった。完全に小説にアジャストしていたんですよ。

藤澤氏:
 まあ、そうですね。悲しい時に悲しいって、いかに言わないかみたいな芸が、小説の持ち味ではあります。

小高氏:
 だからその表現が小説か否かの分かれ道だと思っていて。だからこの小説はすごいですよ。

藤澤氏:
 ありがとうございます。あと今回小説を出版させてもらって改めて思ったんですが、小説って発想から完成までを一人で完結できる数少ないメディアじゃないですか。
 そういうものを自分の中で持っておくことが、ゲームシナリオを職業とするうえで精神衛生上とても良いんだなと。

小高氏:
 なるほど。それとは少し違うんですが、ゲームを引退したら小説やろうと思っているんですよ。

 実は僕も小説を出したことがあるんですが、正直もうやりたくないと思っていて、ぶっちゃけ僕のキャリアの中で1番大変だったんですよ。だけど引退してからならいいかなって。

藤澤氏:
 おお、いいじゃないですか。最後に1人でコツコツやれるものが残っているのは、すごくいいですよね。

小高氏:
 だから小説という最後の逃げ道があると思って。

 にしても、なんでそんな昔に書いた小説が残っていたんですか? タイムカプセルとかで?

藤澤氏:
 データとして残っていました。初めて小説を書いた時は手書きだったんですけど、これは効率が悪いなと思って、二十歳の初任給でワープロを買ったんです。
 そのデータがそのまま残っていて。実は僕、人生で一度もハードディスクがクラッシュしたことがないんですよ。

小高氏:
 ハードディスクの神に愛されていますね(笑)。

──そこからどういった経由で出版されることになったんでしょうか。

藤澤氏:
 出版社の方から『予言者育成学園』の書籍化の打診をいただいたんですが、残念ながら諸般の事情によりそれは実現しなかったんです。その時、何か他の道を考えましょうとなり、昔書いたものを読んでもらったところ、「これを出しましょう」となって。

 最初は「28年も前の作品なのに?」と思ったんですが、小説って書式が完成しているので、少し手を加えるだけで時代を超えて通用してしまうことに気付いて。これがゲームだと、古いゲームを今そのまま商品とすることは、なかなか現実味がない。
 だから、小説って時間を超えてしまえるすごいフォーマットなんだと、とても感動しましたね。

小高氏:
 やっぱりテクノロジーに乗っかれば乗っかるほど古くなっていきますからね。だからゲームはどんどん古くなっちゃう。

藤澤氏:
 刹那的な芸能というか。

 だからこそ“見てもらえる”というのはあると思います。ただ、作り手は、命を懸けて作品を作っているわけじゃないですか。それは漫画でも小説でもゲームでも同じことだと思うんですけど、ゲームは風化していく速度が速い芸能なので、僕は寂しく思いますね。

小高氏:
 その刹那さが楽しいというクリエイターもいれば、虚しく感じるクリエイターもいますけど、僕もちょっと寂しいですね。もうちょっと残ってほしい。

藤澤氏:
 『ダンガンロンパ』は、そんな中で根強く残っているほうだとは思いますよ。

小高氏:
 『ダンガンロンパ』はテクノロジーにそんなに乗っからないゲームだからだと思いますね。

 でもこれがアニメだと、例えば『エヴァンゲリオン』はもう20年ぐらい前の作品ですけど、別に今見ても古く感じない。

藤澤氏:
 『ルパン三世 カリオストロの城』とかもそうで、ファミコンすら存在しなかった時代の作品ですからね。

 今レトロゲームをやるのって、その場の話のネタにはなるけど、真剣に時間を掛けてやり込む対象にならないじゃないですか。

(画像はAmazon.co.jp: ルパン三世 カリオストロの城を観る | Prime Videoより)

小高氏:
 そうですね。だから「あのゲームは面白かった」は思い出補正ですし、そのゲームを今やるというのは、面白いからやるというよりも昔やった楽しい気持ちを思い出しているだけというか。

藤澤氏:
 でも、古いアニメ——宮崎駿さんが作った映画は今でも面白いですし、小説も時間を経ても古びることがない。やっぱりゲームというメディアは、宿命的なハンディキャップを背負っているなというのは感じましたね。

ゲームシナリオライターの可能性

──さて、今回の対談では、ゲームシナリオライターの仕事の幅や新しい活躍の場についても伺いたいと思っていまして。これまでにもいろいろと語られてきましたが、ゲームシナリオライターの今後という意味ではいかがでしょうか。

藤澤氏:
 メディアミックスへの挑戦、というのはあるんじゃないかと思っています。『妖怪ウォッチ』みたいな子供向けでは成功事例がありますが、ティーンエイジよりも上の人たちをターゲットにして、各メディアの垣根を越えて上手くいった例って、実はあまりないと思うので。

 例えばスマホのゲームだと、ある一定以上当たるとアニメ化されますが、そのアニメが流行って新しいユーザーの獲得につながったケースって、ほとんどない。

小高氏:
 基本アニメって、群像劇に全然向いてないですよ。でもソシャゲって群像劇じゃないですか。あとやっぱりアニメで大切なのって、どこまで行ってもキャラクターなんですよね。
 でもゲームの場合はまたちょっと違って、特に話作りにおいてはもうちょい映画寄りの話を作っている人が多くて。

藤澤氏:
 どうなんだろう……アニメで群像って、難しいですかね。

小高氏:
 いや、やっぱアニメで群像劇をやると、ついてこれないんですよ。漫画もそうなんですけど、誰の漫画なんだろうって思ってしまう。
 後半になれば変わってもいいと思うんですけど、やっぱり最初はルフィだったり、ナルトにカメラが当たるべきだと思います。

藤澤氏:
 僕の肌感覚ですけど、ゲームとアニメって同じサブカル領域でも、実はそれぞれファンが被っていないと思っていて。

小高氏:
 被ってないと思います。特にコンシューマだと結構違いがあって、だからこそもうちょっとできることがあるんじゃないのかなと。

 例えば『ペルソナ4』なんかは大人のメディアミックスという意味では成功していて、あれが巧みだったのは、ゲーム側がキャラクターに乗っけてストーリーを展開していくスタイルだったんですよ。だから無駄なくアニメに変換できた。

藤澤氏:
 『ペルソナ4』がアニメ化を前提に作っていたかわからないけど、他の作品でも最初からアニメ化を前提にしたゲームという方向性でスタートすれば、新しいことがやれる余地がまだあるのかもしれないですね。

小高氏:
 そういうことを考えられるのが弊社の強みなので、いつかアニメ化前提の企画はやってみたいですね。

──小高さんは『ダンガンロンパ』がアニメ化されていますが、その時はどういったことを感じたんでしょうか。

小高氏:
 いろいろあるんですけど、一つ印象深かったのは、ファンから「動いているのが嬉しい」って言われて。そこでああ、なるほどってなったんですよ。
 例えば『ペルソナ4』の場合、バトルになると頭身が小さくなるじゃないですか。そういう作品がアニメになって動くと、ちょっと嬉しいんですよ。

藤澤氏:
 「実際にはこういう感じで戦っているんだ」みたいなね。

小高氏:
 そうなんですよ。ただそれゆえに、『ペルソナ5』のアニメは「う〜ん」と思っちゃって。

藤澤氏:
 ゲームのほうが頭身高いんですよね。

小高氏:
 そうなんですよ。しかもゲーム版『ペルソナ5』の中にもアニメの演出が入るんですけど、正直CGよりクオリティは低い。

藤澤氏:
 ああ……。

小高氏:
 何が言いたいかというと、話は面白いけどキャラクターは動かないゲームって、アニメ化に向いているんですよ。『Fate』なんかもそうですよね。

藤澤氏:
 動かなかったものが動くこと自体に価値がある。

小高氏:
 そうなんですよ。Key作品もそうですけど、やっぱちゃんと動いて表情豊かにあの素晴らしい物語をやってくれるのが嬉しい。
 逆にアニメにしなくても十分動いて十分感情が豊かなものがアニメ化すると、もうお腹いっぱいになっちゃう。

藤澤氏:
 アニメにする必要ないじゃん。ゲームで充分じゃんって。

小高氏:
 そうそう。だから今って、昔よりもゲームのアニメ化が難しいのかなって感じますね。だから手法を考えなくちゃダメで、ただ単にゲームをアニメ化だともうキツい。

藤澤氏:
 先ほどからさんざん言っているように、ゲームシナリオライターって器用さであったり適応能力が高いので、例えばアニメとゲームという2つのメディアの橋渡し役になれる可能性を持つ唯一の職業だと思うんですよ。
 だから、そういうことをできる存在が生まれてきたらいいなと思っています。

──それこそ小高さんとか……

小高氏:
 ちょっと違うかもしれないんですけど、実は僕、版権もののゲームを作ったことがあって。『名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵』って言うんですけど。マガジンとサンデーの50周年記念作品で、コナンと金田一が出てくるゲームです。

(画像はAmazon | 名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵 | ゲームソフトより)

藤澤氏:
 メインシナリオライターだったんですか?

小高氏:
 そうですね。

藤澤氏:
 それって、もっと評価されるべき仕事じゃないですか。

小高氏:
 評価されるべきなのかな……。でも死人がめっちゃ多くて、ちょっと話題になったんですよね。

藤澤氏:
 ダンガンロンパ級に死ぬやつ?

小高氏:
 ダンガンロンパよりもっと死ぬ。すげえ死ぬ。でもCERO Aなんですよ。CERO Aの中でもおそらく1番人が死んでるゲームだと思います。ほんとすげえ死ぬんですよ。

藤澤氏:
 統計データを載せてほしいですね(笑)。

──ネットで検索した限りだと14人とか28人とか言われていますね。

小高氏:
 そうそう、それぐらいですね。これ、さっきの話じゃないですけど、規制が…本当に規制が多くて……。そもそも推理ゲームなのに、CERO Aなんですよ。血が出せないっていう。

藤澤氏:
 人は死ぬのに……。死に方に工夫が必要そうですね。

小高氏:
 そうなんですよ。ほんと、CERO Aは死守しろって言われて……それって死んでも守れってことじゃないですか! つまりCERO Bだったら死んだほうがいいってことなんですよ!!

藤澤氏:
 そりゃまあ、少年マンガの合同作品ですからね(笑)。

小高氏:
 あとこれはネタバレになってしまうんですが、この作品はある島が舞台で、そこにコナンと金田一が行って、なんやかんやいろいろあって、金田一がその島の30年前に行っちゃうと。
 で、コナンはそのまま事件を解決していき、金田一は過去30年前の世界で事件を解決してく。でも実は、タイムスリップしてないって落ちで。

(画像はAmazon | 名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵 | ゲームソフトより)

藤澤氏:
 めっちゃおもしろそう。

小高氏:
 それをプロットとして書いて出したときに、講談社さんは『金田一少年の事件簿』にそこまで力を入れてなかったんで、たぶん読まずにまぁいいんじゃないみたいな感じでOKしてくださって。まぁ読んだかもしれないですけど。

 でも小学館さんはもうめちゃくちゃ。「コナンでSFはダメです」って言われたんです。

藤澤氏:
 ああ、タイムスリップとか。

小高氏:
 でもそれで「え?」と思って。いやだって、めちゃめちゃSFじゃないですか! ちっちゃくなるし! って(笑)。

藤澤氏:
 そうね(笑)。

小高氏:
 「まぁでも違うんですよ。これはタイムスリップしたと見せかけて、でもタイムスリップしてないって落ちなんですよ。だから、ちゃんとミスリードだけなんですよ。」って説明したんですけど、「ミスリードでもタイムスリップとかSFダメです」って言われて!

藤澤氏:
 意外とそういうとこ厳しいチェックが入るものですよね。

小高氏:
 それで最終的になんやかんやで「直しました」と言って出したらOKもらえて。

藤澤氏:
 あ、それ直してないやつだ……。

小高氏:
 まぁ直してない(笑)。

藤澤氏:
 それはまあ、まれにあるやつですよね(笑)。

小高氏:
 時々そういう技術も必要っていう。

藤澤氏:
 直してないけど直しました。

小高氏:
 だから直属の上司には「直しました! タイムスリップとかそういうのやめました!」と言って提出して。

藤澤氏:
 きっと見る方も忙しかったんでしょう…。

小高氏:
 そういう隙をついたんですよね。というのも、最初の方なんかはすっごい赤の入れ方で。このペースなら何回もチェックできないなと僕は踏んだんですよ。
 そこですごい量のシナリオを印刷して、この量ならきっと添削されるのは2回か3回ぐらいだろうと。

 だからちょうどいいころ合いにタイムスリップみたいなSFワードだけを排除して、内容は変えてないものを提出したら無事に通って。
 でもこれ、自分でいうのもあれですけど、よくできたストーリーなんですよ。だから僕としては、これは死守しないといけないなと思って。

藤澤氏:
 売り上げや評判はどうだったんですか?

小高氏:
 これは売上も評判も良かったですね。これのおかげで『ダンガンロンパ』をやれる流れが作れたんで。

──今の話って、アニメや漫画をゲームにするって話じゃないですか。で、それを小高さんは成功させたわけですが、一方で企画がアニメ化を前提としたオリジナルのものだった場合、どういった考え方をされるのか気になります。

小高氏:
 そうですね……アニメ化を前提としたオリジナル企画……自分なら、お客さんにどういうルートでどういう体験をさせるのかをまずは決めますね。
 実はそこが曖昧な企画って結構あって。ゲームとアニメが同時並行で作られていても、どっちが先にリリースされるのかとか、片方が始まった時にもう片方の物語はどこまで進んでいるのかとか、そういうのって流動的で、作り終わってから決めよう、みたいなパターンが結構あったりして。

 そういうスケジュールが見えないと、物語はちょっと作れない。そもそもゲームとアニメで同じ話はやりたくないですし、ちゃんとアニメとゲームが繋がっていて、それでいて違うところに行くみたいなことをやりたいですね。

──それはスケジューリングが大変そうですね。

小高氏:
 でもそういうトータルで何を体験させるかが大切なんですよ。それが正解かどうか分からないけど、幸い我々は『ダンガンロンパ』でのノウハウがあるので、それを活かして新しい体験を作ってみたいというか。

ゲームはゲームで作って、アニメはアニメで作って、プロットは一緒でさあどうぞ、というのはいやなんですよね。

──それは従来のメディアミックスとは異なりますね。それこそ『ダンガンロンパ3』がやった仕掛けというか。

小高氏:
 そうなんですよ。大人たちはアニメとゲームのどっちからでも入れるようにしたほうがリスクは少ないと言うんですけど、それって結局はアニメもゲームも一緒になっちゃって、メディアミックスをやっている意味はないんじゃないかと。

 あと僕の考えでは、ジャンプにおける『ワンピース』とか、コンシューマにおける『ドラクエ』とか、ソーシャルゲームにおける『FGO』みたいな大ヒット作はもう出てこないだろうなと思っていて。

 今後はどんどんコアになっていくと思っていて、だから間口広くどうぞというよりは、選ばれし者だけが通れる道にしてもいいんじゃないかなっていう。

 ──間口は広いべきだけど、濃くあるべきだと思っていて。ヒットしたときに元が濃くないと、味がしなくなるんですよね。
 ただ、濃くするのと同時に、誰にどのように届けるかは、ちゃんと設計してあげる必要があるなと。

藤澤氏:
 いまってSNS時代で、濃いものに人が集まって、それが共感を呼び、拡散していく世の中ですよね。

小高氏:
 もっと濃く濃くしないと届かないし響かない。ストリーミングやサブスプリクションがもっと普及すれば、なおさらですよね。だから大切なのは、その作品でしか味わえない体験をどう作るかなんですよ。

──少し話が変わるかもしれないですけど、ドワンゴでゲーム実況の話を聞いていると、「ツッコめるゲームが良いゲーム」と言うんですよ。面白いとかじゃなくて、クソでもなんでもツッコめれば良い。
 そういう視点って、ゲーム実況のようにオーディエンスがある環境だととても大切で、今後は今以上に大切になってくると思うんですよ。

藤澤氏:
 ゲームの歴史的に見ると、元々ゲームとプレイヤーという1対1の構図だったわけじゃないですか。これがある時代から他のプレイヤーとも一緒に遊べるようになり、さらにはオンラインになって物理的に近くにいなくても一緒に遊べるようになった。

 今は、ここにオーディエンス(観衆)という要素が入ってきたのは革命的な出来事だと思っています。しかも、プレイに対してコメントやデータを送って影響を与えることもできる。
 この仕組みがゲームの1要素としてしっかりと組み込まれた時、全く新しいゲームができると思うんですよ。まあ、自分が言うまでもなく、世界中でそういうアイデアを考えていると思いますけど。
 ただ、自分は個人的に、サブスクリプションが主流になってしまうのはイヤですね。

小高氏:
 そうですね。サブスクは難しいですね。途中で切られちゃうというか。

──ビジネスモデルでゲームの質って規定されちゃうじゃないですか。だからサブスクリプションが前提になっちゃうと、体験の幅ってどうなるんでしょうか。

藤澤氏:
 簡単に言うと、ダラダラと長時間遊べるゲームがかなり増えるんだろうと思います。つまり、プレイ時間が長いゲームですね。
 だってサブスクリプションなんですから、プレイ時間稼ぎ合戦が始まってしまう。

小高氏:
 意外とそこで物語のものが、なんかちょっと活躍できそうな気もしますね。

──Netflixの『ブラック・ミラー: バンダースナッチ』みたいなものはどうですか?

藤澤氏:
 もっと物語のリアクション速度がよくなったら、僕とか小高さんが60過ぎてからやれる仕事が増えると思うんですけどね(笑)。

小高氏:
 60歳かー。僕的には今すぐやった方がいい気がするんですよね。というのも、今作ることができれば日本におけるカテゴリーファーストになるんですよ。まだどこの会社も出してないですから。

 なので、例えば実写を使って1億ぐらいでバッとスピード命で作って、大きい会社入れずにスマホみたいな感じがいいんじゃないですかね。

──そろそろ終わりの時間が迫ってきたのでまとめに入っていこうと思います。アバウトな質問で申し訳ないですが、シナリオには今回話を伺ったようにさまざまなものがありますよね。その中でもゲームシナリオって何だと思いますか?

藤澤氏:
 そうですね……これは堀井さんがくれた金言なんですが、ゲームっていうのは物語で人を感動させることに最適化されたメディアじゃないと思うんですよね。

 じゃあゲームシナリオって何かというと、いかに遊んでいる人をビックリさせるか、が肝だと思うんですよ。だから堀井さんは「プレイヤーにどういう体験をさせるかということを一番に考えなさい」といつも言っていましたね。

 これは小高さんが聞いても、しっくりくると思うんですが。

小高氏:
 そうですね。それはほんとそうだと思います。

——堀井さんの教え、いいですね。そういうの、他にもありますか?

藤澤氏:
 たくさんありますけど、中でも特によく覚えているのは、「前言撤回することをためらうな」ってやつですね。これには救われました。

 「人間なんて、朝と夜じゃ考えていることが違って当たり前だから、本当はとっくに気が変わってるのに、メンツがあるから言えない、みたいなことはするな」と。
 朝令暮改っていう言葉はちっともいい意味じゃないけど、それは仕方がないことなんだと堀井さんに言ってもらえたことは、モノづくりをするうえで大きな救いになりましたね。

小高氏:
 それは奇遇にも新房昭之さんも同じことを言っていましたよ。

藤澤氏:
 そうなんですね。もしかしたら、ある種、成功してる人が共通で持つメソッドなのかもしれない。いやー、本当に、こういうことを教えてもらえる環境にいられたことが、自分の人生の一番幸運なことだったかもしれないですね(笑)。

小高氏:
 僕はそういう師匠みたいな人はいなくて全て独学なので、やりたいことをやっていきます!

藤澤氏:
 (笑)。

──本日はありがとうございました。(了)


 「誰が見ても面白い」という基準をもとに、作家性を排除して複数人でシナリオを磨き上げる藤澤氏と、指名買いされるほどの作家性を有し、ギリギリ一人でディレクション可能な範囲で縦に深いシナリオを作り上げる小高氏。
 『ドラゴンクエスト』と『ダンガンロンパ』の作風が対照的であるように、両者の考え方やシナリオの作り方もまた対照的であった。

 一方で興味深いことに、ゲームシナリオライターの可能性を探究し、独立してまで“新たな体験”を模索するその姿勢は、両者に共通していることだった。
 今回の対談では、ゲームライターの強みから始まり、メディアミックスやサブスプリクションといったビジネスモデルの話まで展開されたが、ゲームシナリオライターにできる──いや、ゲームシナリオライターにしかできないことはまだまだあるのだと、その可能性を大いに感じた。

 それを実現するためのストーリーノートであり、トゥーキョーゲームスなのだろう。彼らが作り上げる“新たな体験”がいまから楽しみで仕方がない。

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インタビュアー
TAITAI
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999
文・編集
クリモトコウダイ
新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai

電ファミニコゲーマー

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