山田詠美氏、血の繋がりよりも濃密な時間の共有にこそ価値あり

9月4日(水)7時0分 NEWSポストセブン

「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」と題するイベントを行った山田詠美さんと中川淳一郎さん

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 8月5日、東京・下北沢の本屋B&Bで開催されたイベントは大盛況に終わった。作家・山田詠美さんが、ネットニュース編集者の中川淳一郎さんの依頼に応えて登壇したのだ。題して「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」。


 中川さんの元上司である博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが司会を務めた2時間にわたる鼎談。2人が語る芥川賞の騒動や「なっとらん、ドーン!」と机を叩いたことなどに、会場は大いに沸いた。


◆失う怖さを知っていると人生の向き合い方が変わる


 くだけた話題でひとしきり盛り上がった後は、お互いの死生観を語るタームへ。人と出会うことの面白さや、それと表裏一体な大切な人をいつか失うことの恐怖について。「失った経験」を持つ大人だからこそわかる人生の実感とは…。


嶋:ところで、ネットをやらない山田さんが、『ウェブはバカと暇人のもの』という本を出すような中川の本を読み始めたきっかけは何だったんですか。


山田:私、書店を徘徊するのが好きなんですよ。恋愛と一緒で、出会い頭のハプニングの楽しみがあるから。そうすると、自分に合う本と目が合う時があるんです。中川くんの本もそう。目が合って読んでみたら、すごく面白かったの。私がいちばん好きなのは『夢、死ね!』(星海社新書)ですね。あれは素晴らしい、若者に読ませるべき一冊ですよ。


中川:本当ですか。ありがとうございます。山田さんが僕について言及してくれたのは、『縁の切り方』(小学館新書)でしたよね。


山田:そうそう。私はあの本を読んで、「この人は失うことを知ってる人なんだな」と感じました。


嶋:中川はあの本をどういう動機で書いたの?


中川:あれは、僕の元婚約者が自殺したことがきっかけです。彼女以外にも僕はいろんな人と交流しましたが、でも結局、死んだ彼女が自分にとっていちばん大事だったんです。言ってみれば、そこまで重要な人の自殺を止められなかったという後悔から書いた本です。


山田:新しい何かに出会うことと、それを失うことって裏表じゃないですか。いちばん大切な人を、明日失うかもしれない。そういう怖さを抱えているかいないかで、人生を大事にする方法って全然違ってくるよね。


中川:山田さんは『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』(幻冬舎・2013年)という長編で、どんなにいろいろな人が死のうが、私にとって大事な人が死ななければいい、という内容を書いてますよね。僕はあの言葉はビートたけしが東日本大震災について語っていたことと近いなと思っていて。


山田:そうなんですか?


中川:はい。あの時にたけしさんは、「2万人が死んだ事件が1つ起きたのではない。1人が亡くなった事件が2万件起きたんだ」と言ったんです。遺族はみんな自分のいちばん大事な人のことしか考えられない。


山田:たけしさんに先を越されていたか。


中川:同じことですよね。でもやっぱり本当のことってそうでしょう。命ってそういうことだと僕は思いますね。


山田:誰かにとってのかけがえのない1人が死ぬことと、大災害で千人が死ぬことは、ある意味では何も変わらない。千の死には千の悲しみがあって、その内訳をしつこく追い求めていくのが作家のすべきこと。


 日本の社会は血縁を重視したがりますけど、私は血の繋がりより、どんなふうに濃密な時間を共有してきたかの方に価値があると思う。人の生き死にを左右するのは、明らかにそっちだと思うんですよね。幸も不幸も外から見て本当のところはわからない。これからもそういう立場で小説を書いていきたいと思っています。


【プロフィール】

◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。


◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。


◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。


撮影/政川慎治


※女性セブン2019年9月12日号


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