高校野球とかいう“緩やかな殺人”をいつまで続けるのか

9月5日(木)5時30分 文春オンライン

 殺人的な高校野球での選手起用や試合日程について、ようやく賛否両論になって話が動き始めた感じがしますね。


 私の意見を結論から先に言うと、選手の健康ファーストであるべきで、春夏2回も全国大会があり、地方大会を合わせると年がら年中野球をやっている、日本の高校野球の体質はよろしくないと思っています。いくら何でも壊れるだろ。特に高齢の高校野球ファンが言う「高校生ピッチャーは壊れるまで投げるべき」って、無責任に若者の命を戦地で散らした特攻隊を強いる将校のメンタリティだと思うんですよね。


若いうちから多くの練習をこなすことの弊害は強い


 実際、高校野球で甲子園経験のある選手の6割以上が野球ひじなどの故障を訴えるとされていて、これから野球をやりたいという志ある小学生などの若い選手を抱える全日本軟式野球連盟の調査では、子どもの野球においてひじ痛の再発は9割、また故障を頻発する年齢は11歳から12歳という小学生に集中しとるというデータを出しておるわけですよ。軟式野球だけでなく、リトルリーグなどの硬式野球においても、ハードな練習や登板過多を理由として子どもの健康に問題を抱えたままプレイさせているのは言うまでもありません。


 高校野球の球数制限に関しては、もちろん「やらないよりは絶対にマシ」という程度であって、やはりまだ骨が成長途上で骨端線が伸びやかな若いうちから多くの練習をこなすことの弊害は強いと思っています。骨が伸びている成長期は、あまり多くの筋トレで強い負荷をかけること自体が故障につながると考えるトレーナーも少なくないのです。


 医師の馬見塚尚孝さんや、プロ野球のチームドクターは投球間隔をきちんと空けることや、投球フォームなどのプレイ動作、コンディションはとても大事だと説明しています。



©iStock.com


フィジカル面で言えば「10年に1人の逸材」が続々と


 一番大きいのは、いま「壊れるまで投げるべき」と主張してやまないオールド高校野球ファンは、まだ高校野球で140km/h台がエースだったころの話をしているからなんですよね。


 あまり良いこととは思いませんが、球速が高校野球でもまだ120km/hから速くても140km/hぐらいなら、連投で痛くても投げられる程度の我慢はできたかもしれません。ですが、トレーニング手法が進化して、20年前とは比べ物にならないぐらい速い球を投げ、また、それをミートできるようになった打者との戦いは、古き良き金田正一400勝投手といまの役割分業プロ野球とを比べるぐらいのレベルの飛躍があります。


 フォームにもよりますが、150km/hを連発できるピッチャーが高校生でこれだけ出現するようになると、どうしても球数制限とそれにともなう複数投手による分業制は必須となりますが、オールド高校野球ファンは「試合では完投して当然」、「酷暑のなか毎日投げて苦しんでいる姿を見て感動する」という図式でもあるのかないのか、本当の意味で選手がつぶれていく姿はもう少し考えてあげたほうが良いと思います。



 もちろん、これはリトルリーグからアマチュア野球まで、指導法が進化し、栄養を取るようになったからというのもあるのですが、フィジカルは相当に進化してきています。野球の統計を専門にしているデータスタジアム社のデータとか見ていると、「化け物」とされた江川卓や「平成の怪物」だったはずの松坂大輔クラスの「10年に1人の逸材」は、フィジカル面だけで言えば最近は毎年4人、5人と輩出されるようになりました。そのころの江川や松坂の凄さを否定する必要はまったくありませんが、いまの高校野球で松坂が出てきてどこまで無双できるのかと言われると悩ましい部分はあります。


観ている側のマインドは昔ながらの根性論のまま


 当然、まだ高校生の身体でそれだけの球速でボールを投げるわけですから、肩やひじにかかる負担は大きく、医師からも「さすがにそろそろマズいだろ」という意見が続出するようになります。


医師として野球を見続ける馬見塚氏の考え 「球数制限」は対症療法、根本治療が必要 - スポーツナビ

https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201908090006-spnavi


「球数制限」を考える (2)医師たちからの提言 | SPORTS STORY | NHK

https://www.nhk.or.jp/sports-story/detail/20190823_3987.html



 そういう学生、アマチュア野球の革新がありつつ、野球を観ている側のマインドは昔ながらの根性論のままです。応援する側は無邪気に「頑張れ」と言っているのかもしれませんが、130km/h台後半のストレートと抜いたカーブぐらいで打者を抑えられていた時期はすでに過ぎ、地方大会でも最速150km/hを出すピッチャーがゴロゴロしている状態だと「地方大会から甲子園決勝まで一人の投手が投げ抜く」なんてことは、そもそも使い捨てのような状態になってしまいます。


 いわゆる「痛くてもいいから投げろ」とか「最後まで投げ抜け」などと指示するのは大人の側のエゴであって、選手が立派に投げ抜いてもそこでの怪我とは一生付き合っていくことになるわけですね。もちろん、責任感のある子どもほど「僕が投げたいです」「頑張ります」と言うでしょう。それを止めてでも休ませたり、別の選手にチャンスを与えられるようなチーム作りをするのが本来の監督の役割であり、マネジメントであるのは間違いないのです。


 球数制限を仕組みとして採用することに高校野球連盟はあまり積極的ではないように見えますが、ここまで議論になるのは古い野球の価値観と新しい野球技術の発展との間で社会の要請が変わってきたことの証左でもあります。


 野球経験者は、野球の練習や試合で怪我したことをなかば勲章のように話すことがありますけれども、そういうメンタリティがアカンのだということをよく知っておくべきだと思います。



チームに来ている高齢の自称コーチたちは……


 実際、たまに拙宅三兄弟も0歳の妹を連れて実家近くの野球チームに参加して炎天下の練習をすることはあります。昔に比べればちゃんと水を飲み、練習時間も2時間程度で切り上げるようにはなりました。監督も、子どもが怪我をしないように気を使っているのがよく分かります。ありがとう、監督。本来、集中して練習できる時間なんて小学生のうちはせいぜい40分ぐらいですし、それ以外は球拾いしたりランニングしたり、楽しく野球に親しんでくれればいいんです。野球を好きになってくれれば、それでいい。見ている保護者としてはそういう気持ちで接しておりました。



 ところが、チームに来ている高齢の自称コーチたちはダラダラヘラヘラ練習しているように見えるのでしょう、「真面目にやれ」と大声で檄を飛ばします。まあ、集中していないと故障する恐れもあるし、不真面目に練習していては一つひとつのプレイも上手くはならない。順番待ちをしているときに他のチームメイトと喋っているか、他の子が練習しているのを見ながらちゃんと準備して待っているのかでは上達の具合が全然違うのは当然ですね。


 ただ、怒鳴り散らしていいことあるんですかね。「怒って部下に言うことを聞かせる」マネジメントはパワハラだし汚物だと企業研修では口を酸っぱくして言われますけど、野球指導の現場はいまだに昭和が続いている錯覚さえ覚えます。


何でこんなに毎日長時間練習しているの


 もちろん汗だくになって素振りしている子どもたちのそばで細かくフォーム指導してくれるのはありがたいのです。ただ、フライボール革命のようなアッパースイングをしろとまではいわずとも、いまどき当てにいくダウンスイングを強制するほうが悪の場合があるし、最適なスイングはゴルフと違って野球はかなり骨格や筋肉の癖があるため個人個人違います。


 昔は、コース別打率を見て「苦手コースは克服できるもの」と考え、野球指導においては打てない球を打つことを重視してきました。現代野球では、プロも社会人も大学野球も高校野球も、バットを引く腕の力と回転する体幹の強さのバランスと、選手の持っている残像の強さで「得意ゾーンは練習でより得意に」「苦手ゾーンは練習ではほとんど克服できない」という実態が分かってきました。打てない球は見送るほうが出塁率が上がることが分かった以上、当てにいくバッティングでゴロを打つことがどんどん禁忌になっていきます。ゴロを打って、失打を悔いて一塁ベースにヘッドスライディングというのは見た目は美しいと思うファンはいたとしても、野球全体で見れば害悪でしかありません。


 このように、野球の技術指導も進歩していることを知らずに、「スイングは振り下ろせ」と画一的にコーチングしておるわけですよ。スイングスピードを上げるためには正しいフォームで強く引っ張る練習を基本として、グリップからステップまで納得のいく振り込みをすればいいと思うんですけどね、小学生なんだから。



 これが、高校での野球部の練習を見学すると、風景はさらに一変します。何でこんなに毎日長時間練習しているの。毎日200球とかブルペンで投げて、疲れ果ててフォームがヘロヘロになってる2年生ピッチャーとかたくさんいます。絶対取り返しのつかない怪我をするからやめろと口を出したくなります。



大人の自己満足を通り越して故障者量産部活に


 たくさんボールを投げてスタミナをつけフォームを固めたいという指導目標は分かるんですが、せめて遠投組み合わせたり、フォームを録画して投げる腕の張りが起きないようなフォーム修正とかすればいいのにとか思います。でも、監督やコーチが指示しているのは「投げていて疲れるのはスタミナ不足である」として、朝からランニングさせたりしてるんですよね。身体全体で投げるのが良いピッチングのはずなのに、下半身だけ鍛えてどうするんだよ。


 無意味な長距離走を練習メニューに取り入れている学校は驚くほど多いままなのが実情で、私が見ていたのも甲子園出場も繰り返している名門校ばっかりのはずなんですが、どういうことなんでしょう。


 当然、球数制限というのは試合においてだけではなく、練習においても適切な練習量を見極めて試合に出してあげるという野球部全体のマネジメントの問題になっていると思います。というより、週5で100球、200球も投げ込ませる高校野球部が多過ぎるのと、野球の上達には関係のない長時間のランニングを強いたり、超回復をまたずにほぼ毎日筋トレをする野球部は、大人の自己満足を通り越して故障者量産部活になっているとすら思います。



 筋トレやるなら翌日は全休にするぐらいでないとダメです。無理に練習メニューを詰め込んで効果のないランニングや筋トレをやるよりは、ラダーやミニハードルをやったり、充分に休養をしてたんぱく質を取るほうが有効であることは言うまでもありません。


 それでなくとも、日本の高校、特に地方公立は視察に行ってこちらがドン引きするほど理不尽な校則で生徒たちを学校が縛り上げ、髪型から制服の着こなしまで細かく指導しており、そればかりか、そういうビシッとしている生徒たちがいることを「うちの学校は校風が厳しいから、よく躾けられていて、風紀が乱れない」と校長自らが豪語することすらあります。馬鹿なんだと思いますね。その校則には具体的にどのような根拠や意味があるのですかと質問すると、ふんぞり返って「うちの高校は地域の要請もあって規律を守れる優れた集団にしています」と回答されたりして、価値観の違いを肌で感じるのです。


しごかれて我慢することでレギュラーが得られる不思議文化


 さらには、外部から視察に入っているのにコーチが選手をグーで殴っているチームとか普通にあります。見ているこっちがびっくりです。いい歳して体罰とかアカンと思うんですけど、これがけっこう普遍的にあります。


 つぶさに見ていると、選手の側もチーム・組織のコミュニケーションが暴力で成立している場合もあって、つまり殴られないと「このコーチの言うことを守らなければいけない」という認識になれなかったり、先輩から理不尽なメニューを押し付けられてしごかれて我慢することでレギュラーが得られるというような不思議な文化が残っている野球部がまだまだあるんだということが分かります。


 これって、そのままブラック企業に当てはまるような、古き良き駄目な体育会系文化をそのまま引きずっているようにすら感じられて、「こんなに若いのにどうしてこんなことに」と悲しい気分になります。




 そして、大船渡の佐々木朗希投手が地方大会決勝で登板回避したことを受けて、日本中の高校野球ファンが高校に対して苦情電話を殺到させたり、張本勲さんがテレビ番組で「けがをするのはスポーツ選手の宿命で、痛くても投げさせるくらいの監督じゃないとダメ」と監督を批判して物議を醸すなどの問題を起こしたわけであります。


大船渡に苦情殺到「何で佐々木を投げさせない」職員対応に追われる

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190726-00000092-dal-base


 まあ、繰り返しになりますが、試合当たりの投球数だけではなく、高校の夏休みや試合場所の都合で試合日程が詰まってしまうことも大きな問題です。


なぜ野球部の中では許されているのか


 現代野球の考え方で高校生が取り組むべき野球の姿を真面目に模索するならば、トーナメント制よりはシーズン(年)ごとのポイント制にして、全国大会は年1回に各ブロックごとのグループリーグから始めるぐらいでないと、野球としてもたないんじゃないだろうか、と。要するに、春と夏の大会がそれぞれ別々の大手新聞社で主催していて、高校生をダシに商売をしているといわれても仕方がないぐらい酷い状況にあるんじゃないのかなと酷暑の甲子園中継を観ていて毎年感じるところはあります。だからこそ、メディアが大手を振って高校野球の現代化を訴えることができないんじゃないかとすら思います。


 先日、DeNAベイスターズの筒香嘉智さんが高校野球の問題について記者会見までやっていましたけれども、大手新聞社ではこの問題について自分のビジネスのところだけ触れないでいたというのは凄く気になったんですよね。これが、自衛隊の中で隊員が過酷な訓練で怪我をしました、体罰がありましたとなれば、メディア的には大騒ぎするはずなのですが、なぜ野球部の中では許されているのか不思議です。



 そして、高校野球の過密な日程と理不尽なソサエティのおかげで、野球をやりたいと思っている子どもの数が増えないという悩みもよく聞きます。野球人口のすそ野が細っているのは、リトルリーグなど小学生が取り組む野球のところから、人生を彩り豊かにするためにプレイするはずの高校野球などの部活動にまで、大人の事情ががんじがらめになり過ぎて、辛い思いをしている若き選手たちが多すぎるからなのではないかとすら感じます。


 私自身も子どもの親として、そういう故障してでも選手として最後まで頑張れ、という文化が根付いてしまっているスポーツには、あまり子どもを安心して預けられないわなあという気持ちも持つ一方、野球であれ他のスポーツであれ子どもが「やりたい」というのであればやらせてあげたいんですよね。


 そんなわけで、46歳の私はいまパワフルプロ野球をやっています。


(※お断り 本件記事は、筆者個人の意見です。所属する団体、組織の見解を代弁するものではありません。)



(山本 一郎)

文春オンライン

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