星稜・奥川が語っていた「佐々木にあって、自分にないもの」 U-18野球W杯大会、韓国現地レポート

9月6日(金)17時37分 文春オンライン

 大船渡・佐々木朗希、星稜・奥川恭伸。この夏の高校野球の話題を独占した2人の投手は、世界を相手にどんな投球を見せるのか。そして、ライバルとして、どんな視線をお互いに交わしているのか——。


 韓国・釜山近郊で開かれているU-18野球W杯はスーパーラウンドに突入。日本代表は9月5日のカナダ戦に、奥川が登板して18奪三振の快投、勝利を収めた。そして6日、宿敵・韓国との一戦を迎える。この春の地方大会から両投手に密着取材するノンフィクションライター、柳川悠二氏が現地からレポートする。



7回18奪三振、奥川の“歴史的な投球”


 U-18野球W杯が開催されている韓国も、対戦国・カナダが位置する北米も、驚愕したに違いない甲子園準優勝投手の世界デビューだった。


 この夏の決勝以来、ちょうど2週間ぶりのマウンドとなった奥川恭伸(石川・星稜)は、スーパーラウンド初戦・カナダ戦に先発した。「105球」という大会規定の球数制限があるなかで、7回を103球で投げきり、計21個のアウトのうち、実に18個もの三振を奪う快投だった。



カナダ戦に先発し、7回を18奪三振の奥川=韓国・機張 ©共同通信社


 しかし、試合後の本人に満足した様子は微塵もなく、唯一の失点となった本塁打を悔いていた。


「何も考えず、フッとした時に、打たれてしまった。中途半端だった。試合中に、スライダーを修正して、徐々にコントロールできるようになったのは今日の良かったところ。それでも、手を緩めてコントロールしているので、目一杯振って、コントロールできるようになっていかないと、この先しんどいんかなと思います」


 試合の直後、アンパイアを務めた米国人が、高揚した顔で大会関係者とシェイクハンドしていた。その表情は、「歴史的な投球に立ち合えた」喜びを表していた。


「まだまだやれる。これからもっともっと相手が強くなっていく。これくらいの投球で、満足したくはない。世界一になったときに喜べるように、やらなければならないことはたくさんあると思います」



W杯の舞台で完全燃焼したい


 2019年の高校野球は、この奥川と令和の怪物こと佐々木朗希(岩手・大船渡)が主役だった。だが、ふたりがこの夏に過ごした時間はあまりに対照的だ。


 35年ぶりとなる甲子園出場を目指した岩手の公立校・大船渡の大エースであった佐々木は、岩手大会の決勝・花巻東戦に、一度もマウンドに上がることなく、最後の夏を終えた。大船渡の國保陽平監督は、日本球界の宝というべき163キロ右腕を、「故障から未然に守る」という理由で、準決勝から連投となる決勝の登板を回避させた。その後、指揮官の決断の是非が国民総論争となったのは、周知だろう。


 およそ1ヶ月が経過し、もともと色白の佐々木は、主に甲子園に出場した選手たちの輪に加わることで、肌の白さがより際立っていた。8月25日にあった高校日本代表の結団式で、佐々木はあの日の出来事に関して、言葉少なにこう語るのみだった。


「負けた悔しさというか、もう一度、仲間と野球ができない悲しさがあった。(登板せずに負けたことで)自分が頑張っていかなきゃいけないと思っています」


 大船渡の戦いが不完全燃焼に終わったからこそ、W杯の舞台で完全燃焼したい——そんな気持ちが佐々木に芽生えるのは自然だろう。



「高校日本代表に選ばれたからには、世界一になりたい。投げない場面でも、ベンチから声を出すなど、全力を尽くしたいと思います。この代表に選ばれたくて、頑張っていた人もいる。そういう人たちの想いも背負って、戦っていきたい」


 翌日に行われた大学日本代表との壮行試合で、佐々木は先発のマウンドに上がる。3万に迫る大観衆の中でのピッチングなど、甲子園出場のない佐々木にとっては初めての経験だった。初回をわずか12球で終わらせたが、内容はインパクト十分だった。


 投じた直球のすべてが150キロ台を記録(最速は156キロ)し、2番打者からは134キロのフォークで、さらに3番打者からは152キロの直球で空振り三振を奪う。同じく今秋のドラフト1位候補で、大学日本代表の先発を託された森下暢仁(明治大)は、佐々木の登板後、高校日本代表に先制点を奪われ、「佐々木君のピッチングについ力んでしまった」と、動揺があったことを素直に認めた。


 本来なら佐々木は、2イニングの登板予定だった。ところが、ベンチに戻った佐々木の様子がおかしい。右手の指先を代表スタッフに見せながら、何やら話し合いが行われていた。そして、佐々木は降板する。


 試合後の佐々木は右手中指にできていた血マメの状態が悪化したことを報道陣に秘していた。だが、それはすぐに明るみに出る。翌日の練習から佐々木の右手中指にはテーピングが巻かれ、佐々木は完全に傷口がふさがるまでノースロー調整が続いた。


 令和の怪物は、決戦の舞台・韓国でも“投げない怪物”となった。



佐々木が語った、奥川の投球の「頭の良さ」


 一方、甲子園決勝の3日後に代表練習に合流した奥川の顔は、歴戦の過酷さを物語るように、黒々としていた。


 夏の甲子園で登板した5試合で、奥川が投じた球数は512にものぼった。3回戦の智弁和歌山戦では、タイブレークにもつれた延長14回までに165球を投げ、23三振を奪う。サヨナラで勝利した後は、一気に緊張が解け、涙が頬を伝った。


 決勝・履正社(大阪)戦では、3回に珍しくコントロールが乱れ、2者連続の四球を与えたあと、井上広大にバックスクリーン左に飛び込む3点本塁打を浴びた。この一発が最後まで響き、星稜は3対5と惜敗し、北陸勢初となる大旗にはあと一歩、届かなかった。試合後、「必勝」ならぬ「必笑」を心がけてきた奥川は、いつものようにニコニコしながら前を向いた。


「四球を出さない投球が自分の持ち味で、細心の注意を払っていたんですが、2つ連続で出してしまった。(本塁打となった一球は)明らかに失投でした。これも野球の神様が与えてくれた課題なのかな。プラスにとらえて、これから精進していきたい」



 最速154キロの直球と、直球の軌道から打者の手元付近でカックンと曲がるスライダーに、フォークボール。何より簡単には四球を出さない安定した制球力は、同世代の中で群を抜く。


 現時点での完成度では佐々木を上回るというのが、スカウトの間で一致した見解だろう。


 今年4月の代表選考合宿で初めて対面したふたりは、以後、連絡を取り合い、互いに実力を認め合う仲となった。


 奥川は、佐々木にあって自分にないものとして、令和の怪物が内蔵する「潜在能力」を挙げる。


「球のスピードはもちろんですけど、身体のバネがずば抜けている」


 一方、佐々木は甲子園の準優勝投手について、こんな印象を抱く。


「(甲子園の)智弁和歌山戦では延長14回まで投げきって、14回になってもボールの質が落ちず素晴らしかった。器用なところや、頭の良さ。そして変化球の精度。それは自分にはないものだと思う」



 8月30日に開幕したU-18野球W杯。血マメの傷跡が癒えない佐々木と、甲子園における熱投の疲労が抜けきらない奥川は、オープニング(予選)ラウンド5試合で登板がなかった。それでも高校日本代表は、4勝1敗とグループBを首位通過した。



 9月3日。雨の中で行われたオープニングラウンド最終戦・パナマ戦の試合中、高校日本代表のブルペンは、異様な雰囲気に包まれていた。


 佐々木と奥川が、初めて肩を並べて投球を始めると、捕手の背後に黒山の人だかりが出来上がる。傘を差しながら携帯電話で撮影する韓国の野球ファンに、ビデオカメラを回しながら熱視線を送る国内外のスカウト、そして報道陣。日本のみならず、世界がふたりの登板を待ちわびている——そんな光景だった。


 佐々木は言う。


「気にはなりませんでした。誰がいるかは分からないし、『人がたくさんいるな』としか思わなかった」


コーチが告げた「日本の宝! 佐々木朗希」


 登板の日は確実に近づいてきていた。


「ここまで投げられなかった分、スーパーラウンドでは、投げることでチームに貢献したい。(起用法に関して)希望はないです」


 カナダ戦に勝利した高校日本代表は、9月6日、韓国戦を迎える。スーパーラウンドの初戦を落とし、決勝進出に向けて後がない開催国・韓国は、背水の覚悟で日本と対峙することだろう。


 韓国戦に向かうバスの中で、仲井宗基コーチが、先発投手の名を告げた。


「日本の宝! 佐々木朗希」



(柳川 悠二/週刊文春)

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