刑事が変死体現場に向かう際に持参する検視七つ道具

9月7日(土)16時0分 NEWSポストセブン

変死体現場における刑事の心得とは?

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 警察や軍関係の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回も前回に引き続き、刑事や警察官の検視に関わる仕事の実態を明かす。


 * * *

 内閣府には「死因究明等施策推進室」なるものがあり、死因究明の状況把握や推進活動を行っているが、広く知られてはいない。H24年には死因究明等の推進に関する法律が成立し、H26年には推進計画が閣議決定されている。その目的には、犯罪死による見逃し防止や亡くなった理由を知りたいという遺族の思いへの対応などがある。


 犯罪による死亡の可能性がある遺体は変死体とされる。犯罪による死亡と明らかにわかる犯罪死体の場合は、鑑識課の検視官が臨場する。だが、その数は全国的にも十分ではない。そのため変死体の検視は、所轄の刑事も行うことになる。警視庁の元刑事に、自身が経験した検視の現場について話してもらった。


「検視にはウエストポーチの臨場用カバンを持つ。中には七つ道具の透明のゴム手袋、マスク、ピンセット、綿棒、ペンライト、メジャー、温度計、頭や足のカバーなどが入っている。飛び散った血液は綿棒で取り、瞳孔の大きさ、外傷があれば傷が何センチか、遺体のある位置は柱からどれくらいかもメジャーで測る。ペンライトは性能がいいから、斜めに光をあてると靴跡が見えるんだ。刑事の腕章も現場では必須だ」


 ドラマなどで見る事件現場で作業する鑑識の姿と同じだが、今と昔では違いがあるという。


「今は病気があるかもしれないから遺体は素手で触るな!と言われていて、ゴム手袋をはめなければならないが、昔は遺体の体温や状態がわからなくなるから素手で触れ!と怒鳴られたものさ」


 刑事の時は、カバンに白手袋を常備していたというが、その時の癖で、今も仕事する机の中には白手袋が入っている。


「手袋だと不審物が送られて来た時に直接触らなくていいし、後々証拠になるような品に自分の指紋がついてしまうのも避けられる」


「検視では、着ていた服はハサミで切って脱がせ、身体全体に外傷がないか、アザや傷跡がないか確認し写真に撮る。左右の瞳孔の大きさを測り、首を絞められた時に見られる溢血点がないかまぶたをめくる。髪だけでなく陰毛の長さも測り、舌は状態を見てからリトマス紙をペタッとあてて毒がないか調べる。指紋を採って、肛門に体温計を入れて直腸温度を測り、事件性の有無を判断。検視官が臨場していなければ、これらを報告して死因を確認する」


 殺人や事件性の疑いがあり現場保存が必要な場合は、遺体を移動させず現場で検視。事件性がない時やその場で検視できない場合は、検案する病院や署の霊安室に移動させて行うこともある。


 首吊りの場合はそのままでは検視できないため、下ろさなければならないのだが、昔は、若い刑事が遺体を下ろす時、手練の刑事はコツを教えず見ているだけだったという。


「自分で覚えろってね。今、そんなことをしたらいじめだね。死体だって人だから、前から向き合って下ろしてやりたくなるものだ。でもこれが間違いだ。向き合って抱きかかえると、下ろす瞬間、遺体は自分の方に倒れかかってくる。この時、腹の中に溜まったガスや腐乱した体液が一気に口から飛び出てくるんだ。たまったもんじゃない」


「背中側から抱きかかえて下ろせば避けられる。だが後が壁だったり、足場が悪かったり、斜面だったり、状況によってそうもいかない場合もあるからね」


 遺体は死因を判断しなければならないが、刑事も検視官も死亡診断書(死体検案書)は書けない。都内23区は監察医制度により、検案を東京都監察医務院の監察医が行う。H30年度は常勤監察医が13名、非常勤が50名ほどだ。他に大阪府や神戸市、横浜市や名古屋市に監察医制度があり監察医がいるが、それ以外の地域にはいない。


「ここが問題でね。監察医がいない所は、警察に協力する医者が死体検案医として検案する。法医学者ならいいが、ほとんどが町医者でね。自分がいた頃は、検案の経験もなくレベルの低い医者がいて危険だった」


「警察に協力してくれる医者は年寄りが多くてね。夜中でも来てもらわなければならないんだが、酒でベロンベロンに酔っていたりしてね。早く終わらせたいし解剖に回すのは面倒だから、刑事がこうだと言うと、あぁそうですかとこっちの見立て通り終わらせようとする。刑事は遺体の表面しかわからないのに言いなりで、あれでは殺人を見過ごす。パトカーに乗るのが好きという医者は、赤色灯をつけてサイレンを鳴らし緊急車両にしろと言うし…。現場に緊張感なんてまるでなかった」


 今は国や都府県が日本医師会に委託して死体検案講習会を行い、検案医の能力アップを目指しているが、講習会はたったの2日だ。


「レベルが低いまま、遺体への意識が低いままだと、殺人事件が埋もれてしまう可能性がある」と、元刑事は嘆く。これが監察医となると比較にならないぐらいレベルが違い、現場はピリピリした緊張感に包まれるという。


「こうではないかと刑事が言うと、なんでそう思うのか、根拠はなんだと聞いてくる。こっちに思い込みがあっても、おかしい、変だと思う所を徹底して見つけてくれる。監察医は検視する警察官を育てようとしてくれているのがわかるから、こっちも必死に勉強をするしかない」


 警察が事件性が低いと判断した変死体で、検案しても死因が判明しない場合、死因を調べるために監察医による解剖、行政解剖を行う。犯罪死体の場合は、裁判所から鑑定処分許可書が発行された上で解剖が行われる司法解剖になる。H29年度、東京都監察医務院での検案総数は13118件、そのうち解剖数は2099件、中には他殺が25件あった。


 解剖されなければ、もし犯罪であってもその証拠はなくなってしまう。きちんと検視、検案されなければ解剖もされない。死因を究明するための組織も人材も、まだまだ足りないのが現状だ。

NEWSポストセブン

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