低音の声が魅力の俳優・横内正「身体を一つの楽器にする」感覚

9月7日(土)7時0分 NEWSポストセブン

横内正はよく響く低音も魅力のひとつ

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の横内正が、強いこだわりを持つ発声について語った言葉についてお届けする。


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 横内正といえば、よく響く低音の声が魅力的だ。それだけに発声に強いこだわりがある。


「自分に安定して出せる声があるとしたら、その中に発声を当てはめることはしません。あえて高いキーや低いキーに挑戦して声帯の幅を広げていきます。


 そうすることで、例えば感情が激高した時にヒステリックな高い声を出したり、それが収まった時に抑えた声を出したりできます。それで振幅のある声を作り、感情の起伏もより効果的に表現できるわけです。身体を一つの楽器にするといいますか。


 俳優を目指してからはウェイトリフティングなどで胸板を厚くして、共鳴腔を広げて声量を大きくするよう努めました。


 最近の芝居では、大劇場でやる時は私もですが皆さんマイクを使うんですよね。生のセリフというのはまずありません。それだと立体感が出ないんですよ。相手との距離感によって音量は異なるわけですが、それが同じになってしまう。近い距離でしゃべるセリフ、遠くに向けてのセリフ、それぞれ発声は異なるわけです。その違いを表現する技術を俳優が養い、せめて中劇場の芝居からは実践してほしいですね。


 そういうテクニカルなことができる俳優は少なくなっていると思うんです。役作りについてもそうです。我々のような新劇をかじったことがある俳優であれば、作品を理解するために必要な本を読んだりして、役の人物がだんだん培われていきます。役がふっと膨らんでいくことはそうありませんね」


 二時間ドラマで刑事役や時代劇を演じることはあるものの、日常的なホームドラマなどにはあまり出ていない。そこには、横内なりの自己分析があった。


「ヅメさん(橋爪功)が山田洋次さんの映画で飄々とお芝居しているような、ああいう質感は僕にはないんですよね。


 僕自身はナチュラルにやっているつもりなのですが、面立ちも割と派手ですし、声の質感もそうですし町工場のオヤジさん役をやっても作り物になるというイメージが制作側には多分にあるんでしょう。


 でも、それを払拭するには時間が限られている。それならプラス思考でいこうと。自分がこれまで追い求めてきた舞台のダイナミズム──大きく表現することに特化しようと思いました。


 そういう方向に考えることになった原点には、音楽があります。僕の兄はジャズギタリストで、それが日本人離れしていたんですよね。ギターというのは爪で弦を弾きます。でも兄は打楽器のように、糸が切れるくらいダイナミックに弾くんです。繊細な音色ももちろん奏でますけどね。そういうダイナミズムを演技の中で生かせないものか考えてきました。


 口跡の良いセリフが心地よく、共演して楽しかったのは北大路欣也さんです。彼も演劇の好きな人だから、お芝居をやると互いの求めている質感が合う。時代劇の時はグッと構える所作とか、そういう歌舞伎の流れを継承した、新劇出の俳優にはなかなかできない仕立てで来る。そこは学ばせてもらいましたね」


■撮影/黒石あみ


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。


※週刊ポスト2019年9月13日号

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