森光子と黒柳徹子の絆「徹子ちゃん、子供産まない?と言われた日」

9月8日(火)13時0分 婦人公論.jp


『放浪記』より。森光子演じる林芙美子と、黒柳徹子が演じる日夏京子(提供/東宝演劇部)

〈『徹子の部屋』で紹介!〉『放浪記』の主演2000回という偉業を達成した大女優・森光子さん(1920 - 2012)。「日本のお母さん」として日本中に愛された。生誕100年となる今年5月、記念出版として書籍『森光子 百歳の放浪記』(著者:川良浩和)を刊行。浜木綿子さんや黒柳徹子さん、奈良岡朋子さん、石井ふく子さん、東山紀之さん、堂本光一さんといった周囲の人々の新証言によって、波乱の生涯と、舞台に立とうとし続けた大女優の雄姿を描いた。そこで、黒柳徹子さんの証言から森さんの実像をみてみようーー

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徹子ちゃんは裏切らない


——昭和40年代、同じ吉田名保美事務所に所属した森光子と黒柳徹子は舞台共演を重ね、波長のあった二人は姉妹のように付き合うことになる。セリフ覚えの早い二人には割り当てが多く、苦楽をともにした。

テレビがはじまった時、私はNHKで養成を受けました。森繁さんや森光子さんはすでに映画や舞台では両巨頭で、沢村貞子さんもいらっしゃった。皆さんすごい先輩でしたけど、テレビっていう新しいものが始まった時は、みんな一緒に心を合わせてやらないとうまくいかないっていうのは分かっていたので、ヨーイ・ドンという感じです。特に森さんは仲良くしてくださったので、それから舞台も一緒にやりました。

【アーカイブ写真】舞台上の森光子さんと黒柳徹子さん

——後年、黒柳は森にあてて毎日のようにFAXを送った。伝えたいことが多すぎて、縦書きで書いていたものがやがて余白まで渦を巻いて綴られた。

女学生の上級生と下級生のようでした。いつも芝居の時なんかでも、楽屋で一緒にご飯を食べて、昼と夜の間、毎日毎日森さんのところでご馳走になりながらね。

いつか私がハッサクをすごく食べていたんです。森さんの楽屋でね。「美味しい、私ハッサク協会の人と結婚しようかな」って言って。そしたら森さんが「徹子ちゃん、ハッサク協会ってのはないんじゃない? 柑橘類協会とかいうんじゃないですか」というの。その森さんの諫め方が凄くおかしくてね。

それから私が雑誌を見ていたら、毛がいっぱい生えている人と、つるつるの頭の同じ人が一緒に写真が出ていまして「こういう毛生え薬って詐欺に決まってるじゃない」って言ったら、森さんが「徹子ちゃん、それカツラのコマーシャルなの」って。森さんすごく目敏かったですね。

パンダが来た時、私上野動物園と親しかったのでね。パンダを日本で有名にさせたってこともあって。まだみんなパンダを知らなくて話も聞いてくれなかった頃に、森さんだけは興味をもって「見たい」と仰って。私が一番に上野にお連れして、カンカンをお見せしました。後になっても、「私たちパンダ見たわよね」ってずっと仰っていました。

客席の人と喧嘩しちゃいけません


『縮図』という舞台に二人で出ていたとき、森さんが演じた東北の芸者が、恋に破れて雪の中で寝転がって泣いているんです。それで私が「なしてそんなとこで寝てんだい?」と言ったら、客席にいた女の子が「寝てんじゃないわよ」って言ったんです。「私だって知っています、知ってて演じています」と言おうと思ったけど、東宝の人も観てるかもしれないと思って言わなかったのですが、森さんが「徹子ちゃん、東宝の人が見てようと見てまいと、客席の人と喧嘩しちゃいけません」って。

当時、私はタクシーで劇場に通っていたんですね。そうしたらある日、タクシーがぶつかっちゃったかなんかで遅くなって私が楽屋入りしないまま、『縮図』の幕が開いてしまうわけです。私は本当にギリギリで、自分の出番に間に合わないくらいになっちゃったんです。死に物狂いで走って、芸者さんの役だったので、顔白く塗って唇塗ってカツラかぶって、何とか出番には間に合いました。裏で私のバタバタと入ってくる音がして、舞台上の森さんたちはおかしくて笑いを堪えていたそうです。共演の方からは「いつも30分も40分もかけてるのと、今日1分くらいでやったのと、全然変わらないじゃないか」って言われました。

森さん自身はキリッとしていて、面白いことはなさらない方だったんですけど、誰かがそんなおかしなことをしたという時は森さんがもう言いようもないくらい笑ってね。


『森光子 百歳の放浪記』川良浩和・著、中公新書ラクレ

二人で舞台裏に引っ込んで、また出るので、セットの後ろに一緒に隠れているときに「あー寒い」って私が言ったら、森さんが「あー暑い」って、同時にね。「あー」って言ったから、「何て言おうと思ったの?」って聞いたら「暑いって言おうと思った」っていうから「やだ私、寒いって言おうと思った」って、二人で後ろで笑っちゃいました。森さんはあんなに小さいのに暑がりだったのね。私が寒いって言ってるのに扇風機が回り続けていました。

今となると、何でもが思い出です。毎日ほとんど笑って暮らしてましたね、あの頃は。

徹子ちゃん、子供産まない?


うんと若い頃にね、森さん、「徹子ちゃん、子供産まない?」って私に仰って。びっくりしました。「徹子ちゃんが子供産んだら、私育ててあげるから。あなた忙しくてダメなら、私が育てられるから」って。その時は、産む頭もなかったんだけど、誰かがいるとかそういうこともなかったんだけど、森さんはなぜだか「産んで」って。

どうしてかっていうとね、「徹子ちゃんの子供はきっと面白いに違いない」って。そんなこと言われたことはなかったので、びっくりしましたし、森光子さんて方は本当に優しい方でね、同業の女優にそんなこと言うなんてね、普通はないでしょ。男なら話は別でしょ。「俺の子供産んでくれ」って。(笑)

ニューヨークに行ってるときもね、こんな大きい字で、「お小遣い困っていませんか。いつでも送ります」ってお手紙いただいてね。「こんないい人、芸能界にいるんだ」って。ニューヨーク行って何やってるかわかんないような人に、おんなじ女優さんが手紙書いたりしませんよ、普通は。私ちょっと泣きました。優しいって。

女優同士で珍しい存在だと思います。

森さんも私は裏切らないって、思ってらしたのだと思います。それは出会いから最後まで変わらなかった。

ふと「すごく寂しいわ」


——2008年11月初旬、黒柳徹子は自身の舞台『ローズのジレンマ』出演のために滞在していた大阪で、フェスティバルホールの『放浪記』を観劇した。森の体調を案じてのことだった。

あの時、森さんはぎりぎりだった。

セリフを出す声がね、吐きだす息でセリフを言っているみたいな風でしたね。普通セリフは押し出しているものじゃないですか。それで、ああ、どうなのかなと思いましたけど。森さんだからやるだろうとは思ったけど、長丁場ですものね。

——その夜二人は、森の宿泊するホテルでルームサービスの夕食を共にした。

森さんがふと『すごく寂しいわ』って仰ったの。それでも私、森さんは強い人だと思ってたから、もう少しお話なんかして『それじゃ私帰りますね』って、自分のホテルに帰ろうとして廊下に出た。すると、森さんがわざわざドアのところまで来て『さようなら』って。

いまだに思うのよ。どうして私あの時泊まってあげなかったのかと……。ベッドでもなんでも持ってきてもらって、一緒の部屋で寝ればよかったと思うんです。私も自分の公演があるからと思ったのか何を思ったのかわからないけれど『じゃあ行きますね』って。森さんはすごく長いこと廊下を歩いている私を『さようなら、さようなら』ってドアのとこで見送ってくれた。いまだに後悔です。後々に考えてみると、森さんはね、あの時耐えられないぐらいの孤独だったように思うの。顔は笑ってたけど……。

あんな森さん見たことないわね。寂しそうだった。

『放浪記』より。森光子演じる林芙美子と、奈良岡朋子が演じる日夏京子。(提供/東宝演劇部)

『放浪記』中止発表の後に


——当時90歳だった森は、2011年に迎える『放浪記』50周年に向けて、体力づくりを始めていた。篠山紀信氏に頼んで、旧友の茶道裏千家大宗匠の千玄室氏との対談で写真を撮ってもらい、テレビカメラの前で90歳のスクワットもして見せた。ウイスキーのコマーシャルに登場したし、NHKでミス・ワカナや戦争の話もした。すべては再び舞台に立つ日を信じてのことだった。しかし、50周年の『放浪記』は実現しなかった。森は、周りの者にその心境を一言も語らなかった。盟友、黒柳徹子はマネジャーに頼んで、次の年のスケジュールを空けて待っていたが、東宝から依頼は来なかった。黒柳も森へ、次回の『放浪記』のことに触れはしなかった。

——森が亡くなる年、黒柳へ最後に届けられたFAXにはこのように書かれていた。

「私は あなたと また野菜カレーを食べに行きたくて リハビリをしています」

——森の舞台を黒柳が観に来た時、また二人が『放浪記』に出ていた時は決まって、芸術座から道をまたいで帝国ホテルのダイナーへ行き、野菜の蒸し焼きが綺麗に並べられたカレーライスを注文し、チキン入りのシーザース・サラダをシェアしていた。黒柳はすぐにFAXを返したが、普段ならすぐにくる返事はここで途絶えてしまった。森の心中を思いやった黒柳は、電話や見舞いはあえてしなかったという。

もし来てほしければ、この私にだったら遠慮なしに『来て』って言ってくるだろうと思ったし、言わないんだから、今は来てほしいと思ってないんだろうな、と。女優は元気にならなきゃだめなのって言われたような気がしました。

——黒柳は、その後もFAXを送り続けた。

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