のどかな住宅街にポツンと違法サービス店 治安悪化の懸念も

9月8日(日)16時0分 NEWSポストセブン

 インターネットが普及しはじめたとき、誰でもネットでショップを営業できたり、販促活動ができ、さらにユーザーレビューという本音の評価を得られると大歓迎された。ところが、情報伝達に小回りがきく自由なネット空間を、グレーゾーンビジネスへと活用されるケースが増えている。その結果、違法サービス店が出現してしまった住宅街の戸惑いについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。


 * * *

 東京駅から乗り換えなしで一時間弱ほどの関東某市のターミナル駅から、歩くこと15分。築十数年は経っていようかと思われる、住宅街に溶け込んだ普通の一軒家の前で立ち止まる。同行してくれた、近隣住民・丸井雄一郎さん(仮名・40代)が声を押し殺すように囁く。


「ここなんですよ。信じられないでしょう?」


 丸井さんいわく、この一軒家には30代後半ほどの女性が一人で住んでおり、夜な夜な玄関前に立っては、見知らぬ男性を呼び込む。いわゆる違法マッサージ店を営業しているそうなのだが…。近隣にはコンビニも、飲食店もない、ありふれた新興住宅街だ。にわかに信じがたい話だが、付近の住民の間、特に小さな子供を持つ親たちに話を聞くと「いつか何か大きな問題が起きるのでは」と不安を口にする。噂は本当なのか。


 筆者は丸井さんの協力を仰ぎ、件の一軒家が見渡せる位置の住民宅敷地に車を止め、見張った。すると、二時間ほどして、一軒家から細身の上下ジャージに身を包んだ女性が一軒家から出てきた。スマホを片手に周囲を見渡すと、またスマホに目を落とす。誰かと連絡を取っているのか。


「間も無く男が来るのでしょう。五分もしないうちにきますよ、きっと…」


 丸井さんと息を潜めていると、本当に男が現れた。いかにも営業マン然とした、40〜50代くらいの男である。女性と軽く会釈をした男は、そのまま女に促され、一軒家に吸い込まれていった。「ほら」と興奮気味な丸井さんだが、これでは中で違法なサービスが行われているか、全く見当もつかない。


 男は、ちょうど一時間半経った後、女に見送られながら出てきた。またしても「ほら」と丸井さんは言うが、これだけではやはり、どうにも判断がつかない。そうこういっているうちに、今度はTシャツに短パン姿の、休日のお父さんといった出で立ちの30代半ばくらいの男がやってきた。一軒家から慌てて飛び出してきたのはあの女性だ。男性の腰に手を回し、そのまま家に招き入れた。しびれを切らした筆者は、かの女性が違法マッサージをしているという証拠がない、そう丸井さんに告げた。すると……。「このサイトを見てください。あの女性は、このサイトで客を募っているのです。健全なマッサージ屋のようでしょう? 実態は違うんです」


 丸井さんが見せてくれたスマホ向けサイトは、確かに一見、健全に見える、地域の「マッサージ店」情報を集めたサイトだった。しかし、それぞれのマッサージ店の評判を書き込む掲示板を見てみると、それらのマッサージ店が実際にはどんなサービスを行っているのか、容易に想像できた。


「表向きはメンズマッサージとか、リラクゼーションとか書いてある。しかし、利用者と思しき人たちの書き込みを見ると、オプションのサービスの為には追加でいくら払ったとか、そういった情報交換がなされています。これが普通のマッサージ店と言えるでしょうか?」


 確かに、書き込みにはどこまでサービスしてもらえるか、そして「あんな住宅街にあるなんてびっくりした」などといった、生々しく思えるものが複数寄せられている。筆者が目撃した女性の特徴をぴったり言い当てたような記述もあり、情報がまるっきりの嘘である、とは思えない。女性は、住宅街の一軒家を使って、本当に商売を行なっているのか?一軒家に入ったことを現認してから三時間後、Tシャツ短パン姿で出てきた男性に、筆者は直撃した。


──マッサージをされてきましたか?

「なんなんですか、そうに決まっているでしょう?」

──とあるサイトに、ここがオプションで特別なサービスを受けられると書かれています。あなたもそうした情報を見てきましたか?

「そんなわけないでしょう?」

──特別サービスに必要な届け出がされていないようです。知っていて利用しているんですか?

「それは……」


 足を止めた男性・X氏は、急に観念したように項垂れると、筆者に全てを話してくれた。


「ネット掲示板やSNSで、この(一軒家の)店は追加料金さえ払えば色々できると評判でした。こういった、マッサージとかリラクゼーションサロンを装った店については、さかんに情報交換がなされています……」


 情報誌の関係者が次のように証言する。


「かつては、私共が作っているような雑誌で情報を得るのが一般的で、違法サービス店情報を積極的に出すようなことはしなかった。でも今は、SNSで違法サービス店を開設している本人が、ネット上の掲示板などで自ら情報発信、営業ができます。利用者は、精査されていない情報をそのまま受け取ってサービスを受けに行ってしまう。その先では、個人を装って背後に反社組織が潜んでいて脅されるなど、様々なトラブルが潜んでいるにも関わらず、です」 外国人女性などが結託して違法サービス店を営む事例はこれまでいくつもあった。何十年も前から、そして今年に入ってからもそうした店、関係者が続々摘発されている。これらの店の背後には、外国人女性を連れてくるブローカー、日本国内で違法な店舗を経営する反社勢力、全てを取り仕切る暴力団組織の存在がある。しかし、今回の事例は、表向きは「個人」がやっているグレービジネス。関東某県の警察関係者も頭を抱える。


「住宅街などで女性一人で開業している違法マッサージ店は確かに増えています。自宅の一室を使いSNSで客を募るので、犯罪行為が露呈しにくい。しかし、裏に反社組織が存在しないのかというと、そこは疑問です。この形態では、運営者、客の両方に危険が及ぶと考えられます。こうした店舗での金銭トラブルや暴力事件はすでに何十件も報告されており、地域の治安の不安定化を呼び込むことは確実です。この状態を放っておくと、ある日あなたの家の隣に違法サービス店ができる、なんてことも考えられるのです。郊外の古く、繁華街に近いマンションのなかには、入居者が減り、違法店舗が並んでしまったために家賃が下がり、入居者が出て行って、あらゆる犯罪の温床となっている場所もあります。それが、普通の一軒家に出来てしまうようになった」


 普通に飲食店などが入っていた繁華街のビルが、気付けばワンフロアすべて違法サービス店で埋まってしまったのはかつての話。最近は、その出店ラッシュが住宅街へとじわじわ広まっているのだ。


 子育て世帯も暮らすような住宅街では、住民ではない人間が頻繁に出入りすることは滅多にない。ところが、前述のような違法もしくはグレーゾーンにあるサービス店が出現すると、見知らぬ人が不自然な時間に出入りすることになる。一昔前であれば、町内会で住民の様子を把握し、民生委員が訪問して、治安に不安定要素が生じるのを未然に防ぐのが通例だった。ところが最近では、普通の住民でも地域の集まりに加わらないことも増えてきたため、住民の様子を察知するのが難しくなっている。そのやり方でも、お互いの生活環境を尊重できるという前提があれば成り立つが、グレーなビジネスに関わる人たちが、そんな配慮はしないだろう。


 住み始めたときは閑静で落ち着いた、子育てしやすい住宅街だったのに、気付けば不穏な地域になっていた。そういった悲劇を防ぐためには、何らかの予防策が地域住民にも求められているのかも知れない。

NEWSポストセブン

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