「もう消えたい」という自殺志願者に「死んでる場合じゃねえぞ」と向き合う僧侶

9月9日(日)17時0分 文春オンライン


根本一徹さん ©文藝春秋


 岐阜県関市の大禅寺住職、根本一徹さんのスマホには、全国の自殺志願者からSOSが毎日届く。「死にたいです」「もう終わりにしたい」——エミー賞を受賞した気鋭のアメリカ人女性監督、ラナ・ウィルソンは、「ニューヨーカー」誌で特集された根本さんの自殺防止活動に興味を持ち、3年半にわたって撮影を敢行。ドキュメンタリー映画 『いのちの深呼吸』 が完成した。


 ニューヨークをはじめ世界各国の映画祭では、しばらく拍手が鳴りやまなかった。


「宗教も文化も違う人たちがこんなにも熱く受け入れてくれたことに驚きました」


 自殺念慮者から切羽詰った電話を受けると、根本さんはバイクにまたがり、相談者のもとに駆けつける。睡眠不足と過労、ストレスで心臓の血管は限界だと医師は告げる。そこまで根本さんを駆り立てるものはいったい何なのか。


「人間は、普通は上っ面で生きています。お互い深いところには立ち入らないのがマナーで、親しい友人にも重い話をしてはいけない。そんなふうに思っている人が多いですよね。でも、彼らとは腹の底から語り合い、本心をぶつけ合える。私自身、生きるって何だろうとずっと考え続けていて、答えを知りたいんです」



 根本さんが「自殺」や「死」から離れられないのにはもう1つ理由があった。若い頃、いつも明るく優しかった叔父や、同級生、バンド仲間の3人を自殺で失っていたのだ。


「みんな私にとって憧れの素敵な人でした。その時に彼らの話を聞けなかったという気持ちはずっと残っています」




「消えたほうがいい」という人へのアドバイス


 根本さんは型破りな僧侶だ。仏門に入ったのは僧侶募集の新聞広告を見て。クラブにも行くし、マイクを持てばロックをシャウトする。


「歌は上手くないんですよ。お経は音程がなかったからよかったんです(笑)」


 24歳のときバイクの事故で生死をさまよった。


「築地市場で働きながら学校に通っていたんですが、明け方、一時停止を無視したベンツに突っ込まれました」



 相手は夜遊びして朝帰り中の同い年の女性だった。極真空手の関東大会を目指していた根本さんは半年入院、その後もリハビリに1年かかり、膝は90度以上曲がらなくなってしまった。絶望の淵にいたとき、1人の看護実習生に出会う。それが今の妻だ。


「消えたほうがいいんです」と呟く人には「死んでる場合じゃねえぞ」と発破をかける。相談者は中学生から82歳まで。相談を受けていると、たくさん泣いた後に自殺志願者が可笑しくなって笑い出す瞬間があるという。



「過去や未来に執着しているから苦しみがあるけれど、実は過去も未来もなくて、常に“今この瞬間”しかない。それに気づくと笑えるんですよ」



ねもといってつ/1972年生まれ。臨済宗妙心寺派大禅寺住職。「いのちに向き合う宗教家の会」代表。98年に出家し、04年より自死防止活動を開始。07年からは毎年、国内や海外の国際会議で「世界仏教徒会議」日本代表発表者として登壇。11年には第35回正力松太郎賞青年奨励賞を受賞。




INFORMATION


「いのちの深呼吸」

9月8日よりポレポレ東中野にて公開





(「週刊文春」編集部/週刊文春 2018年9月13日号)

文春オンライン

「自殺」をもっと詳しく

「自殺」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ