働く高齢者から収奪した在職老齢年金1兆円が政府の埋蔵金に

9月11日(月)11時0分 NEWSポストセブン

2014年の年金減額の際は全国で訴訟も起きた(写真:共同通信社)

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 喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、あの「消えた年金問題」から10年、年金役人たちがまたしても国民の知らないうちに年金のカネで埋蔵金作りを始めていた。「社会保障費の伸びが毎年1兆円に達する」「年金財源が足りない」と国民に訴えて、働く高齢者の年金を減額して生み出したはずの巨額の資金が年金会計のどこにも見当たらない。一体、いくら、どこに消えたのか。本誌・週刊ポストは埋蔵金を追跡し、ついに掘り当てた。


 働く高齢者には年金を強制的に返上させられる「在職老齢年金」の制度がある。大企業の経営者のような高額所得者ではなくても、収入が28万円を超えると年金を減額(支給停止)されているのだ。


 在職老齢年金の年金カットによって、国は本来払わなければならない年金債務を帳消しにできる。支給停止分は企業でいえば“特別利益”にあたるとみることができる。


 では、高齢者が働くことによる年金カット分の総額は、毎年、どれくらいの額になるのか。実は、その数字は存在しない。


 年金特別会計の決算報告書にも、厚労省が厚生年金と国民年金の詳細なデータをまとめて毎年発表している年金事業年報にも、在職老齢年金の対象者数や支給停止となっている年金の総額は報告されていない。それどころか、「在職老齢年金」という言葉さえ出てこないのだ。


 事業年報を担当する同省年金局事業企画課調査室に聞くと、「在職老齢年金の総額、適用者の統計は取っていない」と答えた。高齢者の年金を減額しているのだから、“年金財政にこれだけ貢献してもらっている”と示すのが当然なのに、在職老齢年金は公式データから“抹消”されているのだ。


「消えた年金」問題を受けて設立された政府の年金記録回復委員会(*注)の委員を務めた社会保険労務士・稲毛由佳氏が指摘する。


【*注/2007年に発覚した年金記録の喪失問題を受け、年金記録の正常化に関する実態解明のために厚労省に設置された委員会】


◆新・消えた年金


「たしかに年次報告書でもデータを見たことはありませんが、在職老齢年金の支給停止額は年金財政上重要な指標で、相当な金額にのぼるはずです。公表しないのは問題が大きい」


 そこで、稲毛氏に在職老齢年金で支給停止されている年金の規模を推算してもらった。


「月給が25万円、ひと月あたりの年金の10万円だとすると、在職老齢年金は1人あたり毎月3万5000円を減額される計算になります。60〜64歳の厚生年金被保険者が125万人います。仮に、そのうちの8割の100万人が、このような給料、年金水準だとすれば、全体で月350億円、年間4200億円分が支給停止されていることになる。60歳の定年後も現役並みの給料をもらっている人はたくさんいますし、65歳以上で減額対象になっている人もいますので、金額はもっと増えると考えられます」(稲毛氏)


 少なく見積もっても年金減額は4000億円以上。そんな巨額な特別利益がありながら、決算報告書にも統計にも記載されていないのは重大な問題ではないか。そもそも、厚労省が在職老齢年金の正確な数字を持っていないのはどう考えても不自然だ。


 年金の受給システムは国民が受給手続き(裁定請求)を行なった時点で毎月の年金額(裁定額)が決まり、在職中の人は給料に応じて年金が減額されて振り込まれる。厚労省(日本年金機構)の年金コンピュータには一人一人の裁定額と実際の支給額が記録されている。それこそワンクリックで支給カットの総額も人数も計算できるはずだ。


 本誌が改めて年金局の年金局事業企画課調査室に在職老齢年金のデータを求めると、年金局内をあたったらしく、数理課の担当者から「当方で対応します」と資料が出てきた。そこには、2014年度末の在職老齢年金の「対象者数及び支給停止額」として驚くべき金額が記載されていた。


〈60〜64歳 約98万人 約7000億円〉

〈65歳以上 約28万人 約3000億円〉


 1000億単位とは何とも雑などんぶり勘定であることはさておくとして、約125万人の働く高齢者から、毎年約1兆円もの年金が召し上げられていたのである。


◆積立金にまわしている


 なぜ、この数字を隠していたのか。数理課の担当者はこう“弁解”した。


「在職老齢年金の支給停止額は定期的に集計しているデータではなく、あくまで政府の審議会で必要になった際に、そのつど算出している。資料は内閣府の高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会(7月18日)の討議資料として集計したもので、前回出したのは3年前の社会保障審議会年金部会でした。次の集計も決まっていません。年金年報に記載することになっていないから、調査室は調べたことがないと誤解したのでしょう」


 この『高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会』こそ、年金75歳選択支給に向けた議論を行なっている内閣府の有識者会議であり、本誌は政府が年内に年金受給開始年齢の引き上げ(選択制)を盛り込んだ高齢社会対策大綱を閣議決定する可能性が高いと報じてきた。


 その会議に提出する資料のために、年金局がわざわざコンピュータを回して高齢者への年金減額で「毎年1兆円」の年金財源が生まれているデータを弾き出した。


 その動きからは、政府の議論の裏に、高齢者をできるだけ長く働かせることで、もっと多くの年金を返上させて財源を増やそうという狙いが読み取れるではないか。年金会計の決算書に1兆円の不払い額(特別利益)が計上されていないのにもカラクリがあった。


「在職老齢年金の支給停止額は最初から払わなくていいものとして年金会計の歳出予定額に計上していない。予想より多くの支給停止があった場合は、年金積立金に回しています」(年金局総務課)


 政府はこれまで「年金など社会保障費の伸びが毎年1兆円に達している」と国民に窮状を訴え、高齢者の年金をカットし、保険料を値上げし、さらには消費税まで増税した。


 しかし、本当は年金財政には毎年1兆円もの高齢者に払わずに済んだ“特別利益”があり、国民に知らされないまま「埋蔵金」として積み上げられているのだ。


「年金自主返上論」をぶち上げた自民党のスポークスマン、小泉進次郎・筆頭副幹事長は「年金を返上した富裕層には勲章を」と訴えたが、強制的に年金を返上させられている働く高齢者の“功績”は隠されている。何たる不条理だろうか。


 かつて第1次安倍政権の「消えた年金」問題では、その杜撰極まりない年金管理の実態に加えて、旧社会保険庁の役人が年金のカネでゴルフ練習場をつくったり、職員用のマッサージチェアを購入していたことが国民を激怒させた。年金会計でリゾート施設を建設しては次々と破綻させたこともあった。


 年金役人が巨額のカネの流れを国民の目から隠そうとするときは危ない。何に使われようとしているのか厳しくチェックする必要がある。


※週刊ポスト2017年9月22日号

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