ヤフージャパンの「ZOZO買収」が日本のネット界隈を大きく変える

9月13日(金)5時30分 文春オンライン

 日本のインターネット業界最大手のヤフージャパン(代表取締役は川邊健太郎さん)が、アパレルEC大手の「ZOZOTOWN」を運営するZOZOを買収し、名物経営者であった前澤友作さんの代表取締役退任もあわせて発表されました。大変なインパクトが業界全体を襲っております。



ZOZOTOWNを創業した前澤友作氏 ©getty


 ZOZOといえば、世界のロッテファンの聖地であるZOZOマリンスタジアム(千葉マリンスタジアム)のネーミングスポンサーであり、また、ヤフージャパンは総帥・孫正義さん率いるソフトバンクグループの孫会社でもあるため、我らが愛するパシフィック・リーグの西と東に福岡ソフトバンクホークスと千葉ロッテマリーンズが並び立つという快挙となるわけであります。


 太古の昔からロッテを愛し、パ・リーグとともに歩んできた私たちは、このビッグニュースをどう受け止めるべきなのでしょうか。


EC最大手を目指し成長戦略を描くヤフージャパンの邁進


 ヤフーショッピングの拡大や、オフィス通販大手のアスクル問題などで力強く成長を企図するヤフージャパンの思惑は別として、やはりロッテを考える上で避けて通れないのはロッテを代表する選手であった初芝清さんの去就であります。日本有数のヘビメタ愛好家として、社会人野球の舞台でセガサミーの監督に就任し、その指導力を如何なく発揮している初芝清さんの真の価値は驚くほどの勝負強さであり、また、引退後もパ・リーグ野球の精神を若き選手たちに引き継がれゆくファンタジスタの遺伝子にあります。


 その原点は1995年、シーズンを通してわずか80打点という史上最少の打点数で打点王に君臨する初芝清さんの姿です。1986年にトレードで中日に出た大打者・落合博満の後継として、右の長距離砲の秘めたる能力を一気に開花させました。しかも、この年は同じ打点であのイチローや、日本ハムの良心・田中幸雄(こゆきのほう)と並んで受賞しており、初芝さんは打率.301、25本塁打に80打点と、まるでナムコスターズの永遠の四番ぱつくを彷彿とさせる打撃成績を達成します。



 しかし、初芝さんの飛躍はここではとどまりませんでした。打点王程度ではファンタジスタとしての荒ぶる神の力をまだまだ披露しきれないと思ったのか、翌1996年は打点を捨て、初芝さん本来の職能である「併殺打を放つ力」を発揮。満塁の場面で芸術的なピッチャーゴロ・ホームゲッツーを4件含む16併殺打という驚くべき金字塔を建立、相手チームを恐怖に陥れる打点王から一転、味方ロッテが絶望にハマり込む併殺打王へと転職を果たすわけであります。


 その後も初芝さんの併殺打へのこだわりは収まらず、引退したその年までチャンスのたびに美しい併殺打を量産し、常にリーグ併殺打ダービーの上位をキープし続けるなど、ゲッツーへのこだわりを捨てませんでした。



神技そのものの結末に震撼します


 一、三塁にランナーを置き、絶好の得点のチャンスで内角の変化球を捌きそこねて豪快に引っ掛け、吸い込まれるようなショート正面のゴロを放ち、神々しい6-4-3を完成させ、最後は「あー」とのけぞりながら一塁キャンバスを駆け抜ける初芝さんからオリオンズのヘルメットが落ちる場面は「これぞパ・リーグの野球」と思わせるだけの究極の美が余すところなく表現されていました。まさに現代アート、幕張トリエンナーレであります。


 しかし、ロッテ本拠地では「あーあ」という嘆息でも「働け」という野次でもなく、当時まだ少なかったお客さんの爆笑が球場内を湧かせるという、素敵な、優しい世界でありました。


 常連もまた、ロッテの精神が息づく川崎球場外野席での流しそうめんや麻雀、並んだ3人だけでウェーブ、サラリーマンがラジオ体操など、思い思いのパフォーマンスで初芝さんの全力プレーに応えていきます。本当に、パ・リーグにとって最高の時代でした。20年以上も前の出来事なのに、野球を愛する者の脳裏に焼き付いて離れない、神技そのものの結末に震撼します。



ZOZOの期待にヤフーも力強く態度で示すわけであります


 さらには、置物として三塁ランナーにいる初芝さんが高沢秀昭の放つ深めのセンターフライを見て腹を揺らしながらなぜかゆっくりとタッチアップ、猛然とバックホームする佐々木誠の強肩の前にホームかなり手前で吉田博之にタッチアウト。呆然とするロッテベンチ内で口を開けたままにしている山本功児監督が千葉テレビの中継で大写しにされるなど、見たかメジャーよ、これがロッテの野球だと力強く態度で示すわけであります。


 さらには、左中間に放った大きい二塁打を見ながら二塁キャンバスに到達し、ベンチに打ったぞアピールしたところ、西武のショート奈良原浩が振り返りざま初芝さんをセカンドと見間違って送球し初芝さんのお尻を直撃して悶絶したり、上がった三塁ファールフライを初芝さんがヨタヨタしながら捕球しにいくもボールごと敵軍南海ベンチに落ちたり(結局落球して記録はファール)、ウェイティングサークルで素振りをしているところにボーリックの打球が初芝さんの太ももを直撃して放送用マイクに向かって「痛え!!」と絶叫しCS放送でめちゃめちゃ音声を拾われるなどの神のプレイを頻発。



攻めの時代にヤフーが大きな一歩を踏み出す意味


 極めつけは、2005年プレーオフにて、宿敵ソフトバンクとの一戦。1点ビハインドの8回表、代打で出てきた初芝さんは、同じくソフトバンクを統べる左腕・三瀬幸司と対戦し、打撃の結果は極めて平凡なサードゴロ。これを積極的に捌こうとしたサード・バティスタとショート川崎宗則が交錯して送球がそれ、常に全力プレイがモットーの初芝さんの猛走塁が功を奏して見事な内野安打となるわけであります。



 これを足がかりに千葉ロッテはソフトバンクに見事に逆転勝ちし、シーズン首位であったソフトバンクを下して、千葉ロッテは悲願の日本シリーズに進出。さらには、日本シリーズにおいてセ・リーグの覇者・阪神タイガースと対戦するも、そのままの勢いでこれを4試合で合計得点「33-4」とあっさり一蹴。初芝清さんの恐ろしさが、世界に改めて響き渡った瞬間であります。阪神ファンを凍らせる「33-4」は呪いの言葉となりました。関西にはびこる阪神ファンの心に猛烈なトラウマを植え付け、見事千葉ロッテは日本一に輝くわけであります。


 この世界の球史に残る一戦の立役者は初芝清その人に他ならず、千年の時を超えていつまでもロッテのロッテたる所以、未来永劫語り継がれるパ・リーグ野球の真髄として人々の記憶に残り続けるのです。


革命児・前澤友作が求めた真の経営の姿はどこにあったのか


 そして初芝さんはロッテ初の1億円プレイヤーであり、一流の野球選手にして未来を嘱望される指導者でもあることは忘れてはなりません。そのロッテの驚くべき力にあやかろうと、千葉マリンスタジアムのネーミングライツをZOZOが買い取り、さらにはZOZOが千葉ロッテの買収に動くという神をも畏れぬ所業に発展してしまいます。


 残念ながら、いくら名経営者として風雲児の名をほしいままにする前澤友作であっても、異世界から来た初芝清さんの能力を受け止め切ることはできず、溢れる千葉愛から一転ヤフージャパンからのTOBを受け入れて前澤友作さんは経営の一線を退くという決断になるわけであります。 いがみあった薩摩と長州が坂本龍馬の仲介で共同戦線を張り徳川幕府討幕へと歴史が動いたのと同様、初芝清さんがその小指をわずかに動かしてヤフーとZOZOという二つの偉大な企業の統合という大きな流れを作り上げたことは、パ・リーグ秘史として歴史の目撃者たる我々が子々孫々まで語り継いでいかなければならないのです。



 初芝さんの真価はユニフォームの着こなしにも現れており、それはストッキングをたくし上げた田吾作スタイルであって、ZOZO的な価値観とは対局に位置する機能性重視のあり方ではなかったかと思います。足は遅く、スライディングもうまくはない。しかし、ストッキングがダサい雰囲気で膝下まで上がっているので、なんか短い足がちょこまか動いているように見えてそこそこ速く感じるという人間固有の欠点を突いた光る知性が大事なのです。



見事な金髪に染められるという珍事も


 ZOZO的なものをより強くしていくにあたって、初芝さんはシーズン開始前に床屋から「ブリーチどうですか」と薦められ、ブリーチがなんなのか分からず言われるままにしたところ、見事な金髪に染められるという珍事を忘れてはなりません。帰宅後娘さんは号泣して逃げ惑い、有藤通世には激ギレされていました。さらには、CSの秋季キャンプ情報で登場した初芝さんの首にはなぜかホテルから盗んできたと思われるロゴの入ったハンドタオルがかかっているなど、細かい芸をおろそかにしない行き届いた服装やアイテムへのこだわりが必要だと思うんです。


 それでも、千葉ロッテの空気の読まなさという点では初芝清さんの「相手の胴上げがかかっている試合での猛烈な勝負強さ」は特筆すべき点であり、優勝のかかった福岡ダイエーホークスを千葉マリンに迎えての2連戦で初芝さんは打ちまくり、2戦ともロッテを完勝に導きお立ち台に上がるという「普段から打っておけ」と思わないでもない活躍を成し遂げます。このあたりは本稿では語り尽くせない部分でもありますので、時期を見て、ゆっくりと解説記事を書きたいと思います。



ファンタジスタ担当執行役員として招聘を


 現在はセガサミーの監督としても活躍する初芝清さんは、去年も西武の中継ぎ復活を目指して森脇亮介を西武ライオンズにドラフト6位で送り込み、現在29試合に登板して31イニング、20四球、防御率4.94という実に微妙な成績を残しています。もちろん、1年目から充分に戦力となって活躍している森脇亮介も素晴らしいですが、もう一皮剥けて、もう一歩で私たちの愛する大沼幸二にも近い素敵な成績に化けていってくれるのではないか、パ・リーグの伝統を担う次世代の俺達西武の中継ぎ陣に成長してくれるかもしれないと高く期待されるところでもあります。


 やはり、愛されるロッテ野球、初芝的なるものとは、普段は打って併殺打、投げて暴投、やらかしも与四球も多いけど、相手の優勝がかかった試合などここぞというところで大爆発するのが大事だと思うんですよ。近鉄の優勝がかかったダブルヘッダーにロッテ園川一美が先発で出てきて「これは近鉄勝ったろう」と思わせておいて園川に7回好投されて優勝を逃す的な、分かっちゃいるけど大番狂わせの素材として、予定調和ブレイカーとしてのロッテ的な姿です。だから、パ・リーグは面白い。大松尚逸がヒーローインタビューでアナウンサーから「今日は家族来てるんですか?」と訊かれて「もう帰りました」と答える真のパ・リーガーの有り様こそ、いまの閉塞感溢れる日本経済の突破口として追うべき背中だと思うんです。


 このような千葉ロッテ感が最強に強まったZOZOを買収したヤフージャパンは一刻も早く初芝清さんをファンタジスタ担当執行役員として招聘し、未来に向けて不思議な扉を開く責任者として大きく羽ばたいていっていただきたいと願っています。


 現場からは以上です。



(山本 一郎)

文春オンライン

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