田中広輔も育てた……カープ内野陣を支える玉木朋孝コーチの“ノック哲学”

9月15日(日)11時0分 文春オンライン

 ボールの質、正確さ、強弱、どれをとっても一級品である。試合前、確実な狙いを持った打球が生き物のように襲い掛かる。試合前のシートノックなどは、そのテンポの良さを含め、必見の価値がある。


 カープ二軍守備・走塁コーチ、玉木朋孝のノックである。もちろん、努力の賜物だ。コーチ就任当初は84センチのノックバットを用いていたが、より強い打球を打つために今や94センチのものを自在に使いこなすようになった。居残りでノックの練習をした時期もあったし、シーズンオフには近隣の公園に出向いてノック練習を行うこともある。「50歳代になっても、強いノックを打てるように」とウエイトトレーニングも欠かさないため、44歳になってもお腹が出るようなことはない。


玉木コーチがノックの技術を磨く理由


 高校を卒業して入団したばかりの羽月隆太郎の言葉が迫力を物語る。「最初にノックを受けさせてもらったとき、これがプロなのかと衝撃を受けました。今まで見たことにない打球でした。打球が弱い時でも、サッと来るのでなく、独特のスピンでこっちに向かってきました。捕る瞬間に手元で動くような打球もありました。なので、無駄な動きを少しでも入れると、グラブに収めることができません」。


 大きな狙いは2つある。まずは、プロ野球の外国人選手のような強い打球を体感させることで、打球を怖がらない選手にすることである。「怖がると上手にはなりません。ボールから逃げると上達しませんから」。


 1990年代、カープの内野手としてプレーした経験が原点にある。「僕たちもボールを怖がらないように徹底されました」。だから、玉木は歯が折れても、裂傷を負おうとも、一歩も引かなかった。


 ある二軍戦を覚えている。ノーアウト満塁の場面で、ショートの玉木に強烈な打球が飛んできた。逃げずに捕りにいったが、イレギュラーバウンドした打球が、彼の頭部に直撃した。彼は、体に当てたボールが前に転がるのを確認すると、グランドに倒れた。そのボールはサードが処理して、大量失点は免れた。


 ベンチで二軍監督の安仁屋宗八から掛けられた言葉が忘れられない。「お前のおかげで、1点で済んだわ」。全てが報われるとともに、自身の役割を再確認できた言葉だった。


 もうひとつは、足を使ったフットワークを磨くためである。玉木の説明は明快である。「何のためにフットワークを使うのか。送球のためでもあります。少しでもいいバウンドに入るフットワークが必要です。中途半端なバウンドに入ると、エラーもすれば悪送球もしてしまいます。ゴロを受けることで下半身もできてきますから、とても大事なことだと思います」。



足を使った守備の典型例が田中広輔である


 ただ、彼の指導はやみくもなものではない。「キャンプから夏にかけては、前に出る打球を多くして、下半身を作っておきます。そうしないと夏を乗り切ることはできません。夏場は、やたらに前後左右には振りませんね」。


 その典型例が、田中広輔である。今シーズンこそ、右膝の故障などで苦しんだが、カープのリーグ3連覇は、不動のショートストップとともにあったのだ。


「コーチとして一軍で3年間、練習から意識しながらやってきました。足を動かすことはもちろん、エラーを減らすために逆シングルの練習もしました。足を使う。球を怖がらない。基本ができているうえに、高い意識がありました」


 キャンプからノックに強弱をつけ、容赦なく左右にも振る。田中はことごとく足を使ってボールの正面に入る。夏場には、左右は控えても、正面の弱い打球で前進させ、的確にフットワークを意識させた。だからこそ、3連覇の間、田中は1イニングも欠かさずフィールドに立ち続けることができたのである。2018年のゴールデングラブ賞は、その高い意識と妥協なき取り組みの結晶だったのである。



田中広輔と玉木朋孝コーチ


 9月、大野練習場では玉木が熱いノックを放っていた。智辯和歌山の大砲・林晃汰が、投手出身らしい強肩を持つ中神拓都が、167センチのガッツマン羽月隆太郎が大きな声を出しながらノックを受けている。


「打球を怖がることも少なく、スローイングも成長しています。とにかく、積み重ねて欲しいです。そして、状況判断を含めた応用編も学んでいって欲しいです」


 一方、目と鼻の先では8月末に右膝の手術を受けた田中がリハビリを開始した。少し時間は要するかもしれないが、背番号2の守備は、伸び盛りの若ゴイには最高のお手本となるだろう。そして、その間も、若手選手は泥だらけになりながらノックを受け続ける。


 現役12年で通算出場は120試合、決してレギュラーにはなれなかったかもしれないが、玉木は休むことなく94センチのノックバットを握り続ける。その打球音は、プロ野球の季節の移ろいとカープの歴史を刻むメトロノームのようである。


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(坂上 俊次)

文春オンライン

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