『西園寺さん』松村北斗の”繊細な演技”に制作陣も圧倒された ドラマP「いつも心が揺さぶられました」
2024年9月16日(月)18時0分 オリコン
原作は『ホタルノヒカリ』などを手掛けた、ひうらさとる氏による同名コミック(講談社『BE・LOVE』連載)。徹底して家事をしない主人公・西園寺さんと、年下の訳ありシングルファーザー・楠見と娘・ルカの風変わりな同居生活を通して「幸せって何?家族って何?」を考えるハートフルラブコメディを届ける。
■“恋”だけではないもっと大きな愛を描くべく発進したドラマ
——いよいよ最終回を迎えますが、これまでの放送を振り返っていかがですか?
この企画を立ち上げたときに、“家族って何だろう”“幸せって何だろう”を考えるドラマにしたいと思っていました。結果的に、当初思っていた以上に家族や幸せについて濃密に考えた数ヶ月になりました。ものすごく大きなテーマを掲げたので、やはりそこに切り込んでいくのは本当に難しくて。それでも、私1人ではなく、脚本家チーム、キャスト、スタッフ、そして原作のひうらさとる先生と、全員で一緒に悩んで考えて話し合ってアイディアを出し合って…と繰り返して一歩一歩進んできたので、最終話まで辿り着けたことがとても感慨深いです。制作はもちろん大変ではありますが、全員が一緒にワクワクする方に向かって進んでいる感触があり、大変さを補って余りある幸福な時間でした。それはやっぱり、西園寺さんというパワーのある主人公が教えてくれることがたくさんあったから。私自身も、「こうあるべき」という固定概念に囚われてたなと気づいた瞬間が何度もありました。そういう意味でも、私にとって本作はとても大事な作品になりました。
——特に印象深かった反響はありましたか?
本作では、主人公の西園寺さんたちが“偽家族”という前例のないことを始め、どんどん進んでいく姿が描かれています。要は、誰も観たことがない「家族」「愛」「幸せ」を作っていく物語を描こうとしていました。でも「誰も見たことがない」ということは、理解してもらうのが難しいということでもある。「何言ってるの!?」「よくわからない」と感じる方もたくさんいるかもしれないと思っていたんです。でも、そんな心配をよそに、肯定的に受け止めてくれる方、面白がってくれる方が本当に多かった。皆さんが、西園寺さんたちと一緒に前例のない形を探して考えてくれていることが伝わってきて。視聴者の皆さんが西園寺さんや楠見を信頼してくれて、「西園寺さんたちならこの問題を解決してくれそう!」「なにか新しい形を見つけてくれそう!」と思ってくれていたんだなと。そういった反応がとてもうれしかったです。
──“胸キュンのTBS火ドラ”枠で、ラブコメを通して新しい家族のロールモデルが描かれることも珍しかったと感じます。
私自身、“火曜ドラマ”がすごく好きなので、この枠が持つ特有の軽やかさはしっかり継承して、大事にしていきたいと思っていました。ただ、ラブコメとはいうけれど、その“ラブ”は“恋”だけじゃないというところに切り込んでみたかったんです。それはきっと、私自身が出産して家族が増えたことが大きかったのかもしれません。とんでもなく大きな愛や、誰かを心から大事だと思う気持ちがこの世には存在するんだなということを知りましたし、その周りには手を差し伸べてくれる人や見守ってくれる人がこんなにもたくさんいるのかと知って、人と人との繋がりや思いやりという大きな優しさや愛情にたくさん触れました。それで、“恋”に収まらない大きな愛を描いてみたいと思うようになりました。恋やキュン、家族、幸せ、思いやり。それをどう配合するかを考えながら、今までの火曜ドラマとは少し視点をずらした作品にすることは意識しました。
──制作において苦労したことは?
「家族って何?」「幸せって何?」というところに切り込んでいくのは、最初に考えていたよりもずっと難しかったです。また、さまざまな価値観が尊重されるようになり、答えなんてない時代。そんな中でこのドラマなりの答えや考えを見つけていくのはとても大変でした。それでも、キャストもスタッフも、みんなで一緒に楽しみながら取り組めたので、このチームなら大丈夫だと思えました。原作のひうら先生がアイディアをくださることもあって、本当に心強かった。まさに全員が一丸となっていました。チームのスローガンは、原作にある西園寺さんの言葉「迷ったときはワクワクする方へ」。そのスローガンを胸に、皆でワクワクする方に進めた気がしています。このドラマを作れたことで、私自身もこれまで持っていた固定概念やリミッターを少し外すことができた気もしています。
■周りにいそうでいない西園寺さんと松本若菜の共通項
——西園寺さんを松本さんにお任せしてよかったと感じた瞬間は?
実は、西園寺さんはとても難しい役なんです。なかなかいない強烈な個性を持ったキャラクターだけど、どこか身近にいるような感じがする人にしたかった。そのためにはファンタジーすぎる人物になってはいけなかったし、かといってリアルに無難に描くと普通の人になってしまう。若菜さんとは、クランクイン前からいろいろ話をしながら西園寺さんを作っていったのですが、若菜さんご自身が持つユーモラスな言葉や表情、圧倒的に明るく華やかな空気と親しみやすさで、本当に素敵に肉づけしてくださった。そして、なにより、そのお芝居の力で、単に明るいだけのキャラクターではない、西園寺さんが内包する入り組んだ複雑な思いをとても丁寧に解いてお芝居に落とし込んでくれて、言葉にならない感情さえもそのまま伝わるように演じてくださった。そのおかげで、西園寺さんが立体的に浮き上がって、皆さんに愛されるキャラクターになったんだなと思います。そこには理想以上の西園寺さんがいました。次はどんなお芝居を見せてくれるんだろう、どんな表情をするんだろう、といつもワクワクさせてもらって、その度に「若菜さんにお任せして良かった」と思っていました。その若菜さん発のワクワクが現場を牽引してくれていたと思っています。
——現場での松本さんはどのような様子でしたか?
西園寺さんと若菜さんって、共通項が多い人なのかもしれないと思っていて。若菜さんがいるだけで現場は明るくなるし、カラッとしていながらもいつもさりげなくいろんなことに気をかけてくださる。西園寺さんは台詞も多いし、主人公なのでやはりどうしたって出ずっぱりになります。とても大変だったと思うのですが、いつも穏やかで明るくて、ポジティブな空気を醸し出してくださっていました。現場のワクワクする空気は若菜さんが作ってくれていたと思いますし、そのお芝居の力でいつも現場のモチベーションを上げてくれていたことに感謝しています。俳優さんとしてもずっと好きなかたではありましたが、人間力も本当に本当に魅力的で。この数ヶ月一緒に過ごして、ますます大好きになりました。
■松村北斗が築いた倉田瑛茉との信頼関係が、ルカを輝かせた
——複雑な役どころを演じた松村さんのお芝居はいかがでしたか?
松村さんのお芝居の繊細さには圧倒されました。演じているように見えないというか、お芝居に見えない瞬間があるんです。「楠見俊直」という人がここにいる、という感覚になるというか。第1話や前半のまだ心にシャッターがある状態の楠見の頑なで張り詰めた空気感、中盤の西園寺さんや周りの人に心を開いて柔らかくなった変化、そして後半に西園寺さんと過ごした日々の影響の大きさを感じさせるような新しい表情や感情…それまでまとっていた鎧が少しずつ剥がれ落ちていく楠見の変化を、驚くほど丁寧に繊細に積み上げてくださって。楠見が変わっていく様、そして感情が大きく動いていることが見えるお芝居には、いつも心が揺さぶられました。かと思えば、コミカルな表情や動きをさらっと見せて笑わせてくれたり!でもそのコミカルさの塩梅や差し込み方もとても緻密なんですよね。彼のお芝居の奥行き、丁寧さ、繊細さには本当に驚かされました。こんなに近くでそのお芝居を拝見できて私もとても勉強になりましたし、このお芝居に見合う良いドラマにしなければと身が引き締まりました。
──ルカ役の倉田瑛茉ちゃんとの仲睦まじい様子も話題でしたね。
本作にとってすごく大事な存在のルカの魅力を最大限に引き出してくれたのは松村さんの力が大きかったと思います。本当の親子のように瑛茉ちゃんに寄り添って、彼女をリラックスさせてナチュラルにいさせてくれたから、ルカという魅力的なキャラクターが輝いた。そういう面でも松村さんにはとても感謝しています。現場では、2人で一緒に笑ってる声がずっと聞こえてきて、その声を聞くと皆幸せな気持ちになれました。
──育児描写の細やかさは、岩崎さんご自身の経験も生きていますか?
そうですね、日々育児と仕事でバタバタなので、このドタバタな出来事やあるあるをドラマに盛り込んで生かそう!と思っていました。私もそうですが、脚本家チームも含め、子育て中のスタッフがとても多い制作現場で。みんなで「こういうのあるあるだよね!」「子どもってこういうこと言うよね!」「こういうときこうしてもらえたら救われるよね」とか、様々な意見を出し合うことができ、リアルな育児事情が反映されたのかもしれないですね。だから、「育児描写がリアル」と思ってもらえるのはうれしいです。
■ラブストーリーに新しいポジションを作ったカズト横井
──津田さん演じるカズト横井には“最強の当て馬”説が浮上しました。
当て馬って火ドラの名物になりつつあるとも思いますけど(笑)、そんな言葉では語りきれないのが横井なんです。横井のハイライトはやっぱり、“仮彼氏”として“偽家族”に賛同すると宣言した第6話と、西園寺さんとの別れを受け入れる第9話の終わりだったのではないでしょうか。“偽家族”という突飛な3人のところに現れた、とてつもなく大きな愛を持った人。そんな横井は、物語を大きく動かし、そして大きく包み込んでくれた存在だったと思います。「当て馬」という言葉にはとてもじゃないけどハマりきらない存在であることは、観てくださった方もきっと感じてくださっていると思います。
──横井がそこまで魅力的に描かれたのは、やはり、津田さんの力があってこそでしょうか。
津田さんはすごく大人でカッコイイ方なんですが、コメディパートではおもいきり面白い方向に振り切ってくれて。その反対で、シリアスな場面では、あの美しい声と真っ直ぐなお芝居で言葉に重みを持たせ、誠実さを加えて話してくださる。津田さんの魅力が、横井に深みを与えてくださったと思っています。
——後半に進むに従い、どのキャラクターも、当て書きかと思うほどご本人と重なっていったように見えました。
当て書きではないのですが、初期の段階から、キャストの皆さんがそれぞれが演じるキャラクターを分厚くしてくださったんです。だから、だんだんと登場人物が勝手に走り出していく感覚がありました。特に若菜さん、松村さん、津田さんのお芝居のおかげで人物や物語の輪郭がどんどんくっきりしていって。ご本人たちが持つ魅力と、お芝居の力が混ざり合っていたのだと思います。
■最後まで西園寺さんらしくドタバタだけど、“幸せ”“家族”を考える最終回に
──最終回に向け、視聴者の皆さんへ伝えたいことは?
最後までこの作品らしく、西園寺さんたちらしく、本作でないとできないことを探りながら作った最終回です。もしかしたらびっくりする方もいるかもしれないです。西園寺さんの突破力、西園寺さんたちのはちゃめちゃでもまっすぐに向き合い続ける姿勢を私も見たいと思いましたし、最終回だからといって全てをきれいにおさめようという意識はあえて取っ払いました。そういう意味で、私たちにとっても挑戦の最終回です。“幸せって何?”“家族って何?”を考えながら作り続けて、本作を通して私自身の答えもなんとなく見えてきた気がしていますが、きっと、“幸せってこういうこと”という1つの答えは出ない。だからこそ、なんとなくぼんやり見えている輪郭を少しずつはっきりさせていくために、きっとこれからもずっと考えていくテーマなんだろうなと思います。ここまで観てくださった皆さんも、きっと西園寺さんたちと一緒に考え続けてくださったのではないかなと思います。強くて大きな愛で繋がっている西園寺さんたちがたどり着くゴールを、ぜひ見届けて頂けたら嬉しいです。