朝ドラヒロインW起用が邦画の新トレンド、隠れた狙いとは

9月16日(日)7時0分 NEWSポストセブン

ダブル主演映画『累-かさね-』の舞台挨拶に立った土屋太鳳&芳根京子(撮影/矢口和也)

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 映画公開初日の舞台挨拶で涙ながらに抱き合ったのは、土屋太鳳(23歳)と芳根京子(21歳)。2人ともNHK連続テレビ小説のヒロインを務めた人気女優だ。この2人が、同じ作品でW主演を務めたのだ。今、「朝ドラヒロインW起用」が邦画の新しいトレンドになりつつある。その狙いとは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。


 * * *

 今月7日、土屋太鳳さんと芳根京子さんのダブル主演映画『累-かさね-』が公開されました。清純派女優のカテゴリーに入る2人の鬼気迫る演技に、「こんな悪い太鳳ちゃん初めて見た」「芳根ちゃんの豹変が凄い」などの称賛が早くも飛び交っています。


 さらに、21日には映画『コーヒーが冷めないうちに』が公開。有村架純さん(25歳)と波瑠さん(27歳)が出演します。こちらはダブル主演ではないものの、「20代の主演級女優が共演」という点では同じ。


しかも、土屋さんは『まれ』(2015年)、芳根さんは『べっぴんさん』(2016〜2017年)、有村さんは『ひよっこ』(2017年)、波瑠さんは『あさが来た』(2015〜2016年)で、朝ドラのヒロインを務めました。


 ここに来て、なぜ映画で「2015年以降に朝ドラヒロインを務めた20代女優の共演」が続いたのでしょうか。


◆「映画館に足を運ぶまでが勝負」の世界


 朝ドラは常に視聴率20%を超える日本最高のドラマ枠であり、月〜土曜に朝昼の2回に加えてBSやダイジェスト版の放送もあるなど、視聴者との接触機会の多さは特筆すべきものがあります。


 それぞれのライフスタイルに合わせた視聴が可能であるなど幅広い年齢層に対応しているため、ヒロインの知名度とステータスは圧倒的。土屋さん、芳根さん、有村さん、波瑠さんも同世代の20代女優と比べると、幅広い年齢層に認知され、性別を超えたファンが多いことは理解できるのではないでしょうか。


 映画は、「いかに映画館へ足を運ばせ、自分の作品を選んでもらうか?」が勝負の世界。つまり、テレビやネットなどの他メディア以上にプロモーションが重要なので、「朝ドラヒロイン1人ではなく、2人をキャスティングしよう」という発想になるわけです。


また、若手女優と所属事務所の意識が変わってきたことも大きいでしょう。ネットの普及で、主演女優がドラマの低視聴率報道に悩まされ、スケープゴートにされることが増えたため、「失敗したくない」「そこまでの責任を負わせたくない」という意識が強くなっています。


 その点、映画は興行収入の高低こそあるものの、ドラマのようにネガティブな報道をされることはめったにありません。朝ドラヒロインと言えども、「連ドラ主演は年1本程度にとどめ、映画主演や助演出演をはさむ」という慎重な活動スタイルを選ぶ若手女優は少なくないのです。


◆「キャラのかぶるライバル」から「同志」へ


 若手女優と所属事務所の変化で、もう1つ見逃せないのは、「他の朝ドラヒロインは、同じ役を競うライバル」という意識が薄れていること。これまで朝ドラヒロインは、「清純派」というイメージを持たれやすいため、出演後は「キャラクターがかぶる同年代のライバル」と言われてきました。


しかし、最近では「ライバルより仲間」「争うより共存」という意識に変わり、テレビの番宣などで知り合うことも多く、プライベートでの交流も過去とは比べ物にならないほど増えました。同じ映画での共演も、女優は「〇〇さんが一緒なら心強い」、所属事務所は「リスクを分散できて安心」というのが本音なのです。


 インタビュー後のオフレコトークだったので名前は出せませんが、ある朝ドラヒロインに「他の朝ドラヒロインはどう見ていますか?」と尋ねたところ、「同じ苦労と充実感を味わった同志のような存在」「将来、結婚して子どもを産めたとしても、ずっと女優を続けていきたいので、これから何度も共演していきたい」と言っていました。


 かつては、「女優の旬は短い」「結婚したら人気は落ちる」と言われ、朝ドラヒロインですら「稼げるときに稼げ」という風潮があり、よほどの演技派でなければ第一線で活躍し続けることが難しかったものです。


 しかし、現在は20代で結婚する朝ドラヒロインもいる時代になり、「結婚後も人気が落ちにくくなった」「助演にも脚光が当たるようになった」などのポジティブな変化が彼女たちの心にゆとりを与えているようです。


◆俳優もスタッフもボーダーレスな活動スタイルに


『累-かさね-』『コーヒーが冷めないうちに』のスタッフを見ると、さらに朝ドラヒロインをダブル起用した背景が浮かび上がってきます。


『累-かさね-』は、監督が『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』『ストロベリーナイト』『家族ゲーム』(すべてフジテレビ系)などを手掛けた佐藤祐市さん、脚本は『モンテ・クリスト伯 –華麗なる復讐-』『僕のヤバイ妻』『ようこそ、わが家へ』(すべてフジテレビ系)などを手がけた黒岩勉さん。


『コーヒーが冷めないうちに』は、監督が『アンナチュラル』『リバース』『砂の塔〜知りすぎた隣人』(すべてTBS系)などを手がけた塚原あゆ子さん、脚本が『リバース』『Nのために』『夜行観覧車』などを手がけた奥寺佐渡子さん。


 いずれも多くの名作ドラマを手掛けてきたスタッフであり、今回の両作にフジテレビとTBSが製作に関わっている様子がうかがえます。テレビ局としては、広告収入が厳しくなる中、映画収入への期待が大きくなっているのは間違いありません。朝ドラヒロインともなれば、情報番組やバラエティー番組へのプロモーション出演も歓迎されやすいなど一石二鳥であり、ダブル起用であればさらに注目度は上がります。


 このところ、テレビのスタッフが映画や動画コンテンツを手掛けたり、映画のスタッフがテレビや動画コンテンツを手掛けたりなど、ボーダーレスな活動を見せるクリエイターが増えました。監督や脚本家だけでなく、プロデューサー、カメラマン、美術や音楽まで、多くの人材が行き来するようになりはじめているのです。その象徴が俳優であり、なかでも朝ドラヒロインは各メディアの共有財産のような存在となって、今後もさまざまな作品に出演していくのではないでしょうか。


 話題性が上がり、プロモーション効果が高く、観客動員が増し、演技の化学反応も期待できる。若手女優はリスクを分散できる上に、新たな刺激や経験を得られ、スポット的にスケジュールを入れやすい。


 いいことずくめだけに、今後も朝ドラヒロインのダブル起用は増えていくのではないでしょうか。今回の4人以外にも、高畑充希さん(26歳)、葵わかなさん(20歳)、永野芽郁さん(18歳)などのフレッシュな若手女優がいるだけに、「どんな組み合わせが面白そうかな」と考えるだけでも楽しいものです。



【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

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