徹底的議論で演技を練る萩原健一、初期の代表作——春日太一の木曜邦画劇場

9月17日(火)17時0分 文春オンライン


1974年作品(84分)/東宝/DVDは12月18日発売/2500円(税抜)


 九月下旬、「文藝別冊」のシリーズで萩原健一を特集したムックが刊行される。


 筆者も参加していて、「俳優としての萩原健一のあゆみ」の執筆と関係者へのインタビュー記事の取材を担当した。結果としていろいろと新しい発見があったので、しばらく萩原出演作品を取り上げ、その魅力を検証していきたい。


 本連載三三三回で『約束』を取り上げた際、「素材そのままに見える」と、萩原の演技について述べた。どこまでが計算されたもので、どこまでがその場での閃きなのかが見えないのだ。そのため、「この人は本当に計算しないで、感覚だけで演じていたのだろうか」という疑問を投げかけた。


 今度の取材で、その謎が解けた。結論から書けば——多分に計算があった。


 脚本を何度も読み込み、事前に準備をし、役作りを固め、その上で演技について監督たちと徹底的に議論をし、芝居を練りに練っていったのだと諸々の証言から分かった。あの奔放にやっているように映っていた演技の数々は、全て緻密に考え抜いた中から絞り出されたものだったのだ。


 今回取り上げるのは『青春の蹉跌』。萩原初期の代表作だ。


 萩原が演じるのは大学生の江藤。援助を受けている金持ちの伯父(高橋昌也)の令嬢(檀ふみ)と結婚が決まり、司法試験にも合格——と順風満帆に思えていた。そんな矢先、肉体関係にあった家庭教師先の教え子・登美子(桃井かおり)が妊娠。登美子が既に堕胎したと嘘をついたため、江藤が気づいた時は堕胎できない状況だった。江藤は登美子の殺害を決意する。


 こう書くと、野心的でエゴイスティックな青年のギラついた物語を想像するかもしれない。が、受ける印象はまるで逆だ。伯父のクルーザーで令嬢とバカンスしている場面をはじめ、本来なら幸福な気分に思えそうな状況での萩原の演技がいつも寂しげなのだ。


 そこからは、これは俺が本当に進みたかった道ではない——という挫折感や哀愁が伝わってくる。BGM的にオフで流れてくる「えんやどっと——」という萩原が呟くように謡う斎太郎節(さいたらぶし)もまた、その心の虚しさを際立たせていた。


 江藤の進路は成功ではなく挫折。それが、台本を読み込んでの、萩原の結論だった。その上で、神代(くましろ)辰巳監督と徹底して議論を交わし、一連の芝居へと行きつく。他にも、登美子との雪の斜面を滑り落ちながらの格闘や、鉄柵を一本ずつタッチしながら歩く場面など、アドリブに見える印象的な芝居が多々あるが、それも全て議論の上での芝居。


 DVDは十二月に発売されるので、その計算に見えない計算をとくと堪能してほしい。




(春日 太一/週刊文春 2019年9月19日号)

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