【追悼】樹木希林さん、世に放った「毒と愛」 奔放な“名言”でも魅了
2018年9月17日(月)11時0分 シネマカフェ
■2018年、希林さんの様子は?
5年前に「全身がん」を告白していた希林さんだが、その後は容体も安定し、映画を始め、さまざまな場面で、まさに“引っ張りだこ”の大活躍を見せていた。今年だけでも、山崎努との初共演が実現した『モリのいる場所』(沖田修一監督)、第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』(是枝裕和監督)が公開。そして、茶道教室の先生を演じた『日日是好日』(大森立嗣監督)が10月13日に公開される予定だ。
一方、先月8月13日に左大腿骨を骨折して入院し、手術を受けていた。同30日には娘婿で俳優の本木雅弘がイベントに出席し、希林さんが一時危篤状態だったことを明らかにした。その際、「細い糸1本でやっとつながってる 声一言もでないの しぶとい困った婆婆です」という希林さん直筆のメッセージが紹介されたと報じられ、大きな話題を集めた。
■愛され続けた日本映画界の宝
1943年東京生まれの希林さんは、61年に文学座に入り、テレビドラマを中心に活躍。その代表作のひとつが、やはり今年亡くなった西城秀樹さんと共演した「寺内貫太郎一家」だった(当時はデビュー時の芸名・悠木千帆で出演)。また、70年代後半には「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」の名コピーで知られる富士フイルムのCMも人気を博した。
その後は徐々に活躍のメインステージを映画に移し、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』と『悪人』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、『半落ち』で最優秀助演女優賞に輝き、不動の地位を確立。日本映画界に欠かせない存在として、幅広いジャンルの作品に出演し、多くのファンと映画人に愛され続けた。個性派、演技派、実力派…。それら、どの言葉も適切でありながら、「それだけでは言い表せない」希林さん独自の存在感は、やはり日本の宝だったと言わざるをえない。
■記者も翻弄する“希林劇場”は名言の宝庫だった
常に次回作が待たれる希代の女優であった希林さん。決して万全ではない体調と向き合いながら、出演作のプロモーションにも積極的に参加し、数多くのイベントや舞台挨拶をこなす姿も、記者としては印象に残っている。マイクを握れば、その瞬間から希林さんの独壇場。ときには同席する共演者の熱愛報道をタイムリーにいじったり、目の前の報道陣に苦言を呈したりと、場を大いに盛り上げてくださった。取材が終わってみれば、誰もが“希林劇場”に魅了され、希林さんの“名言”が見出しを飾ることも多かった。
ときには毒舌と称されることもあった希林さんの発言だが、その裏には、日本映画界、そして日本の社会全体への愛にあふれていた。その鋭い感性と奔放な性格が切り取る、さまざまな疑問や矛盾…。閉塞しきった時代に対する、希林さんのカウンターパンチは、生きづらさを感じる現代人にとって、多くの気づきをもたらしたものとなった。晩年は、大病を患ったからこその希林さん流の死生観もクローズアップされた。あくまで飄々と、わが道を歩み続けた希林さんの功績が、今後の日本映画をより豊かなものにしてくれることを期待したい。