正社員のうち40% シングルマザーの気概と覚悟重視する企業

9月17日(日)7時0分 NEWSポストセブン

女性社員の40%がシングルマザーという岡谷市の『リバー・ゼメックス』

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 子供を起こし、朝食を作り、保育園に送り届けてパートに直行。仕事が終われば子供を迎えに行き、食事、掃除、洗濯と休まる時間は一時もなし。しかも、給料は正社員の半分以下…。世のシングルマザーは、今日も過酷な世界に生きている。だが、その逞しき生命力に熱い視線を送る人々も存在する。今、企業と自治体がシングルマザーの確保に躍起になっていた。


 全身を覆う水色の作業服に身を包んだ女性社員たちが、クリーンルームの中で黙々と機械を組み立てている。製造ラインの1つでは、子供の授業参観のため1人が早退したが、すぐに別の社員がヘルプで入る。別のラインでも、体調を崩した子供の看病を理由に熟練工の1人が休んでいた。


「こんなの日常茶飯事です。みんなが助け合いの精神で働いているので、なにも問題ありません。全員が全工程をマスターしているので、空いた所には誰か別の人が入ればいいんです」


 女性社員たちがこともなげに言うこの会社は、長野県岡谷市の精密医療機器メーカー『リバー・ゼメックス』。社員数55人のうち女性が48人、うちシングルマザーが22人という“女性ファースト”の企業である。シングルマザーの占める割合は40%だ。


 特筆すべきは、22人のシングルマザーを含め、全員が「正社員」であること。3組に1組の夫婦が離婚するといわれる現代において、同社の存在が“一人親”たちの光となっている。


 現在、日本の母子家庭は約120万世帯で、その平均稼働所得(労働によって得た収入)は年間213万円。全世帯の平均収入403万円と比べると、あまりにも低い。


 働きながらも女手一つで子供を育てなければならない以上、彼女たちは時間の融通がきくパート勤務を選ばざるをえないのが理由だ。家計の問題で子供は大学進学を諦め、教育格差が就職格差に繋がり、いつまでも貧困から抜け出せない。


 この負の連鎖に抗う企業が、先述のリバー・ゼメックスだ。同社は前身の会社を含めて創業39年。内視鏡用ポリープ切除器やカテーテルなど医療機器の製造分野で成長を続け、現在は3つの工場と2つの系列会社を持つ。


 同社の創業者である西村幸会長(67才)は「採用に当たってシングルマザーばかりを選んできたつもりはない」と力を込める。


「私は履歴書をほとんど見ないんです。面接をして“この人はやる気があるな”と感じる人間を採用してきたら、結果的にシングルマザーが増えていた」


 飾り気のない口調で話す西村会長。履歴書を見ないのは、採用してもらおうと、うわべだけの美辞麗句を書き連ねる人間が多すぎるからだという。


「われわれのような中小企業にとって、紙に書かれた情報なんてどうでもいい。経歴や性別は一切関係なく、大事なのはやる気だけ。シングルマザーが女手一つで子供を育てるって、並大抵のことじゃないんです。嫌なことがあっても辞めるわけにいかないし、“なんとしても自分の手で子供を育て上げる”という気概、覚悟がある」(西村会長)


◆私が代わりに入るから授業参観に行っておいで


 大学卒業後、東京法務局に入局した西村会長は、その後、地元の岡谷市に戻り、中小企業に転職。事務職として働いたが、そこで見たものは、オーナー一族が金満生活を送る一方、現場で汗を流して働くパート従業員が使い捨てられている現実だった。


「私も中小企業の経営者として、資金繰りが大変で、日々ストレスの塊です。しかし、パートを道具のように使い、経営者との格差があまりに大きくなっている現状は問題だと思います」(西村会長)


 1978年、一念発起してリバー・ゼメックスの前身会社を起業。パートを雇わず、全員を正社員として雇用することでスタートした。正社員待遇には社会保険料など、給与以外の負担もあるが、「そこはもう、おれの意地。最初の頃は、妻が内職をしていました」と西村会長は笑う。


「オールマイティーなプロを作る」をモットーに、全員が全工程を作れるように指導したところ、シングルマザーの多い職場でプラスに働いた。


 休む人がいても、誰かが必ずサポートに入ることができる。子供の病気や授業参観で早退することになっても、「私が代わりに入るから行っておいで」と送り出せる環境が生まれたのだ。


「みなそれぞれ事情を抱えているので、理解がある。“お互い様”の心です。うちには託児所や寮はないけど、それで仕事に穴が空くことはありません。もう1つ、全部の工程ができるようになると、みんな自信を持ち始めるんです。常に自分の居場所があるわけだから。それがプロ意識に繋がり、より一層上級技術を身につけようと欲が出てくる。好循環が生まれました」(西村会長)


 こうした取り組みは国からも注目され、同社は2014年に厚生労働省から『はたらく母子家庭・父子家庭応援企業』に選定された。すると評判が評判を呼び、「ここで働きたい」と、シングルマザーの応募がさらに増加しているのだという。同社役員の鶴巻美恵子さん(63才)もシングルマザーだ。29年前に入社した時、息子はまだ3才。


「職場を抜けて保育園に子供を迎えに行き、また職場に戻るという日々。時には職場に子供を連れてきて、会社の人に見てもらいながら仕事をしたこともあります。でも、みんなが私の境遇を当たり前のこととして受け入れてくれました。学校の行事でどうしても2時間抜けなければいけない時も、“わかりました、じゃあ代わりにやっておきますね”って。本当に気持ちよく抜けさせてくれるんです」(鶴巻さん)


 おかげで、鶴巻さんは引け目を感じることなく仕事を続けることができた。愛する息子は32才になり、今や系列会社で働いている。


「“いつか超えたい人がいる。それはお母さんだよ”なんて言うんです。嬉しかったですね…。この会社を選んでよかったと、心から思います」(鶴巻さん)


※女性セブン2017年9月28日号

NEWSポストセブン

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