野放図な金融緩和がバブルを引き起こす——中央銀行の“罪”とは?

9月18日(水)5時30分 文春オンライン


『中央銀行の罪 市場を操るペテンの内幕』(ノミ・プリンス 著/藤井清美 訳)


 ドナルド・トランプ米大統領が、FRB(連邦準備制度理事会)に圧力をかけて金融緩和を迫っている。


 この光景には既視感がある。二〇一二年末、日本銀行は、苦しい立場に追い込まれていた。次期首相に安倍晋三氏が決定。大規模金融緩和を行なうと宣言した。発足した政権は、日銀法改正をちらつかせて、日銀に緩和を迫った。


 ノミ・プリンス『中央銀行の罪』は、日本のこうした出来事も含めて、世界の中央銀行の姿を、取材に基づいて活写している。


 本書の著者は数年前に、『 大統領を操るバンカーたち 』という著書で、一九〇〇年代初めからのアメリカ金融史を分析した。本書が対象としているのは、リーマンショック後だ。日本やヨーロッパだけでなく、メキシコ、ブラジル、中国にも視野を広げている。そして、ウォール街の影響力が際立った二〇世紀に対して、二一世紀は、マネーのバブルを生み出す中央銀行が支配しているとしている。


 本書によると、こうなったのは、リーマンショックで銀行が危機に直面し、それを救済するためにFRBが大量のマネーを金融システムにつぎ込んだためだ。これによって投機の嵐が吹き荒れたが、銀行貸し出しは増えず、賃金は上がらず、繁栄も訪れなかった。FRBが主導したこの動きに、世界の中央銀行が共謀したというのである。


 中央銀行の金融政策が経済学の教科書に書いてあるとおりに機能して実体経済に影響を与えることができるかどうかは、大きな疑問だ。ただし、そうした効果がなくても、野放図な金融緩和がバブルを引き起こすことは事実であり、それが経済活動を混乱させることも見逃せない。だから、われわれは中央銀行の行動を注意深く見守る必要がある。


 ところで、本書は、「中央銀行が市場に大量のマネーを流し込んでいる」といっている。しかし、リーマンショック以降の量的緩和政策で増えたのは、マネーではなく、その元となる「マネタリーベース」(主として中央銀行への当座預金)に過ぎない。


 とくに、日本では、二〇一三年以降の緩和政策で「マネタリーベース」は著しく増えたが、マネーはほとんど増えなかった。日銀は国債を大量に買い上げたが、その代金が当座預金として積まれたままになってしまった。いわば、金融政策は空回りしたのだ。


 本書は、金融緩和政策によって金利が下がり、株価が上がる仕組みを「マジック・マネー」と呼んでいる。確かにこの仕組みは、正統的な経済学では理解できない「マジック」としか言いようのないものだ。本書は、魔術を操る点で、日本は世界の先頭を走るという。


 冒頭のトランプ大統領の圧力も含めて、中央銀行に対する期待が一般的だが、実際には中央銀行は無力化しているのだと考えることもできる。



Nomi Prins/ニューヨーク・タイムズ紙やフォーブスに寄稿するジャーナリスト。過去にGSなど大手金融会社に勤務したこともある。著書に『大統領を操るバンカーたち』など。



のぐちゆきお/1940年、東京都生まれ。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。





(野口 悠紀雄/週刊文春 2019年9月19日号)

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