アジアを代表するデュオ、CHAGE and ASKAが彼らの時代を創造した『TREE』

9月18日(水)18時0分 OKMusic

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今週は先日ASKAが脱退を発表したCHAGE and ASKAの大ヒットアルバム『TREE』を取り上げる。今回は思いのほか本文で多くを書いたので、ここではあまり説明をしないが、邦楽史にその名を残す偉大なるグループ。当初は惜別の情を込めてと記そうと思ったのだが、音源を聴き、筆を進めるうちに何とも複雑な気持ちになってきたので、それをそのまま書かせていただいた。

邦楽シーンに刻まれた功績

CHAGE and ASKA(以下C&A)からASKAが脱退した。正確に言うと、ASKAがC&Aからの脱退することをASKA自身が発表した。これが事実上の解散とか言われているけれども、1人だけでバンドを名乗っている人なんてわりといるし、外野が勝手に解散だなんだと書き騒ぐのもいかがなものかと個人的には思っている。ChageもASKAが脱退を示唆したことは認めているものの、はっきりと解散には言及していないようである(“ようである”というのは、ASKA脱退に関するChageのコメントはファンクラブ会員限定で発表されたようで、それを直接読んだわけではないからである)。C&Aは解散していない。筆者はC&Aのファンでもないし、業界的な義理もしがらみもないので、コメントを字義通りに受け取ればそういうことになる…という話だが、これまた個人的な感想を述べれば、コメントだけで“はい、おしまい”ではいささか哀しすぎるとは思う。何しろC&Aと言えば──10年間ばかり活動休止期間があったものの、日本の音楽シーン、その第一線で40年間も活動してきたグループである。

C&A(当時はチャゲ&飛鳥)のデビューは1979年。「ひとり咲き」がデビュー曲で、ASKA(当時は飛鳥涼だったか)のねばっこいヴォーカルがとにかくインパクトがあった気がする。ニューミュージック全盛の時代で、当時、次々とプロのミュージシャンを世に出した『ヤマハポピュラーソングコンテスト』の本選出場に入賞したグループであったことでも大いに注目を浴びた。1980年に3rdシングル「万里の河」がヒット。1981年には2ndアルバム『熱風』がチャート1位となり、デビュー3年目にしてシーンの頂点を極める。コンサート活動も極めて順調で、1981年には全国59公演の全国ツアーに加えて、夏の野外コンサートや学園祭ツアーも開催。1983年には大阪城ホールと代々木競技場第一体育館公演を含む37公演の全国ツアーを決行した。コンサートで史上初めて代々木競技場第一体育館を使用したのはC&Aだという。偉業を成している。アルバム『熱風』以降は若干セールスが伸び悩むも、ライヴは好調で1984年には日本武道館のステージへ。また、同じ年にChage(当時はチャゲだったはず)が石川優子とのデュエット曲「ふたりの愛ランド」をヒットさせた。それまでシングル曲ではASKAがメインヴォーカルを務めることがほとんどだったことから、どことなくその評価が定まりづらかったChageのキャラが一気に立ち、お茶の間にもそのポテンシャルを如何なく示した。

1986年には「モーニングムーン」がヒットした。前述の通り、1981年以降は(少なくともシングル曲においては)ヒットに恵まれなかったC&Aであったが、レーベル移籍と同時に新曲をチャート上位にぶち込んだのは流石だったと言える。個人的には、それまで“フォーク演歌”と呼ばれていたような作風をぶち破ったことも鮮明に記憶している。その後、1987年に発売したベストアルバム『SUPER BEST』が3年間もチャートにランクインし続けるロングセラーとなった上、1988年にシングル「恋人はワイン色」が彼らにとって初めてドラマ主題歌に起用されるなど、着実に活動の幅を広げていく。

あと、この時期のC&Aで押さえておかなければならないトピックは、男性アイドルグループ、光GENJIへの楽曲提供であろう。デビュー曲「STAR LIGHT」、2ndシングル「ガラスの十代」を含むデビューアルバム『光GENJI』。その収録曲は全てC&Aによる書き下ろし。[ジャニーズ事務所のタレントが作家を統一してアルバムを発表することは非常に珍しい]そうであるし([]はWikipediaからの引用)、これはちゃんと調べたわけではないので間違いであるとしたら先に謝っておくけれども、ジャニーズ事務所が歌謡畑の職業作家ではなく、フォーク、ロックの現役アーティストががっつりとその楽曲を手掛けたのもおそらくはC&Aが初めてであったであろう。SMAPTOKIO以降(たぶん)、現役アーティストがジャニーズ事務所所属グループに楽曲を提供することも珍しくなくなったけれど、そのブレイクスルーはC&Aが担ったことになる。

アジアを代表するグループへ

そして、C&Aの歴史に“スーパースター期”とでも言うべき時代が到来する。1991年の「SAY YES」の特大ヒットである。デビュー12年目にして初のチャート1位を獲得しただけでなく、13週連続1位となってダブルミリオンを記録。現時点でその売り上げは280万枚を超えて歴代でも7位であり、まさに歴史に名を残すグループへと登り詰めた。同じ年には14thアルバム『TREE』も1位を獲得。その後、1992年のベスト盤『SUPER BEST II』と15thアルバム『GUYS』、29thシングル「if」、1993年の16thアルバム『RED HILL』と31stシングル「YAH YAH YAH/夢の番人」、1994年の35thシングル「HEART/NATURAL/On Your Mark」と36thシングル「めぐり逢い」、そのいずれもがミリオンセールスを記録した(『TREE』、『SUPER BEST II』、「YAH YAH YAH/夢の番人」はダブルミリオン)。

音源の爆発的なセールスに伴って1992年以降はコンサートツアーもアリーナ中心となるが、国外にも積極的に乗り出した。1994年と1995年に香港、シンガポール、台湾で、1999年に中国、2000年に韓国と、アジア各国で公演を実現させている。中国公演で言えば、C&Aに先駆けて、1997年にASKAが、1998年にはChageがそれぞれソロコンサートも開催している。

音源、ライヴ活動以外で特筆すべきは、1996年の『MTV Unplugged』へ出演だろう。この番組は海外の一流アーティストがアコースティックでの演奏を披露するショーで、あまりアコースティックのイメージがないEric ClaptonやNirvana、Jimmy Page&Robert Plantらの出演が話題となった。その番組にC&Aはアジア出身者として初めて出演した。現在のところアジア人で唯一の出演者である(MTVジャパン制作を除く)。その年に出演した他のアーティストにWham! のGeorge MichaelやOasis のNoel Gallagherがいたことを考えると、そこにC&Aは名を連ねたわけで、これは相当な偉業であったと言える。その後、Chaka KhanやCulture ClubのBoy GeorgeがC&Aのナンバーを歌ったトリビュートアルバム『one voice THE SONGS OF CHAGE&ASKA』もリリースされ、少なくともこの年、彼らの活動はワールドワイドとなったと言って間違いない。勢いに任せてC&Aのプロフィールを書き連ねてしまったらかなりの分量になってしまったが、彼らの足跡がそれだけ濃厚であった証左であろう。しかも、ここまでで凡そC&Aの経歴の半分を紹介しただけだ。それだけでも彼らが如何に偉大なグループであるかが分かろうというものでなかろうか。

各々の個性が際立った音楽性

そのC&Aのアルバム紹介であるが、全21作品の中から1枚を選ぶならば、これはもう「SAY YES」を収録した14thアルバム『TREE』で間違いはないだろう。彼らのオリジナル作の中で最も売れたアルバムであるし、内容もC&Aというグループらしさが十分に発揮された作品と言える。シングル曲のほとんどをASKAが手掛け歌っていることから、世間一般ではASKAがメインヴォーカルでChageがコーラスと思われている節があるかもしれないが、ふたりでC&Aである。本作も収録12曲のうちASAK作曲が7曲、Chage作曲が4曲、C&Aでの作曲が1曲と、若干ASKA曲が多いものの、それにしてもChage曲の割合が少ないというほどでもない。ほぼイーブンと言える。そして、各楽曲にちゃんとASKA、Chageそれぞれの個性がある。

まずASKA曲であるが、やはり歌のメロディーと歌唱が際立っている。M1「僕はこの瞳で嘘をつく」やM8「明け方の君」などビートの効いたものの十二分にいいけれども、やはりミディアム〜スローがいい。この表現が合っているのかどうか分からないが、彼が作るメロディーには大らかな印象がある。スケール感が大きいメロディーと言ってもいいかもしれない。ちょっと大袈裟に言うと、どこまでも続く地平のような、深遠なる星空のような、そんな風景感があるように感じている。そのメロディーをASKAはあの“ねっとり”とした独特の歌唱法で歌い上げる。しかも、ASKAの声質は倍音だという。筆者はその辺は専門ではないのでこれは聞きかじりの知識なのだが、倍音とは、基本となる音に対して2〜3オクターブ上の音が混ざることで、それによって(ものすごく簡単に言うと)聴いていてとても気持ち良い音になるそうだ。つまり、リスナーは大らかなメロディーを聴いて気持ち良い歌声で、じっくりと攻められる。そこに以下のような歌詞が乗せられているのである。

《愛には愛で感じ合おうよ/恋の手触り消えないように/何度も言うよ 君は確かに/僕を愛してる》《迷わずに SAY YES 迷わずに》(M2「SAY YES」)。

《君の幸せの場所/僕を知る前? 後?》《今夜はお話を 聞いてあげよう/手をつないで 手をつないで/眠りの森の中で 迷わないよう》《君の悲しみの場所/僕とふたりで行こう》(M5「夜のうちに」)。

《愛しては愛される ただそれだけ/Woo Woo 今日 明日とつながるだけなのに Woo Woo Woo》《並んでは笑えない ふたりになる/わかり合うように 手を振るのは何故? Woo Woo Woo Woo》(M12「tomorrow」)。

愛の言葉がリスナーの鼓膜に文字通り粘着するのである。M2「SAY YES」がトレンディドラマ『101回目のプロポーズ』の主題歌となったこともASKAの資質を考えればある意味で必然だったように思われる。

一方、Chage曲はというと、サウンドとアレンジにその面白さがあると思う。ブルージーかつジャジー、そしてAORな雰囲気もありつつ、スパイ映画テイストもあるM4「CAT WALK」。M1〜M3と聴き進めると、ここで明らかにシーンが変わる。アルバムの妙味のようなものが確実にある。インド音楽風なイントロで始まってシタール(に似たシンセかもしれない)も聴こえるM7「誰かさん〜CLOSE YOUR EYES〜」は、The Beatles好きを公言しているChageらしさがある。メロディーはどこか大瀧詠一っぽい印象もあって、そこまで本格的な印象はないけれども、サイケとポップスとの融合といった風情である。M9「CATCH & RELEASE」は如何にも1980年代的なドンシャリ感のあるファンクチューン。とは言ってもゴリゴリのファンクではなく、間奏がフレンチポップスみたいになったり、アウトロに近い後半のメロディーとその音処理はやはりサイケ期のThe Beatlesオマージュが感じられたりと、ひと筋縄ではいかない作りだ。M10「BAD NEWS GOOD NEWS」もなかなか興味深いナンバー。基本はR&Rで、ブラスも入っているけれどもR&Bと呼ぶほどには泥臭くなく、シンセを使ったイントロはテクノポップ風と、これもひとつには括れない印象である。しかも、そのいずれもが決して実験的には聴こえず、とても大衆的ではあって、Chageのポップセンスが垣間見える。

このふたりにしかできない化学変化

さて、改めて個人的には…と前置きするが、アルバム『TREE』で最も面白く聴いたのはM6「MOZART VIRUS DAY」である。アコギとピアノの入ったさわやかなイントロから始まるのだが、Bメロで転調してバンドサウンドのR&Rへ展開。そこからゆったりとタイトルの《MOZART VIRUS DAY》がリフレインされて、ASKA王道とも言うべき大らかで甘いメロディーへと突入していく。聴いているこちら側が“これはどこに連れて行かれるのだろう?”と思うような感じだ。ポップスや歌謡曲の公式(そんなものはないが)に沿った曲展開が決して悪いと言うことではないのだが、M6「MOZART VIRUS DAY」のような展開もまた楽しいものだ。前半をChageが、後半をASKAが作ってそれを合体させたということだが、“合作の妙味、ここにあり”といった感じの出来栄えと言えよう。

そして、これは言うまでもないことであろうが、どの楽曲においても、インパクトがあって聴く人の印象に残るのはふたりの声が重なる箇所であろう。先ほどASKAの声質を簡単に説明した。彼の歌声は、言わばひとりでいくつもの音階を重ねているように聴こえる心地良さがある。メロディーも優れているので、ASKAひとりの歌声でも十分に魅力的ではある。しかし、さらにそこへChageのハイトーンのヴォーカルが重なることで、得も言えぬ高揚感を生み出す。神々しさすら感じる声の重なりである。これはもう、このふたりにしかできない完全無欠のハーモニーと言っていいだろう。レコーディングでは自分のコーラスをいくつも重ねることができるので、某大御所のように歌は全部ひとりでこなすこともできよう。ライヴでは歌の上手いプロのシンガー、それこそ倍音の歌手を招けば、もしかしたらC&A以上のハーモニーが生まれるかもしれない。しかし、仮にそうだとしても、それはあくまでもC&Aとは別物である。ChageとASKAとによる化学反応は、ChageとASKAにしか起こせないのである。

そんなふうに考えると、半可通な筆者ですら、やはりASKAの脱退には哀しさを感じたりするし、ファンの気持ちはいかばかりかと察するところではある。その上でこんなことを言うのはかなり不謹慎だろうが、もう一度、あえて言いたい。今回の騒動は脱退であり、それが事実上の解散と言われようとも、正式な解散宣言ではない。そこにほんのわずかな希望を見出したい。変に期待を煽る意図はまったくないけれども、こうして『TREE』を聴き返して、心底残念に思った。C&Aが歴史的役目を終えたとは思いたくない。彼らがいなくなることは日本音楽シーンの大きな損失であることは間違いない。

TEXT:帆苅智之

アルバム『TREE』

1991年発表作品

<収録曲>
1.僕はこの瞳で嘘をつく
2.SAY YES
3.クルミを割れた日
4.CAT WALK
5.夜のうちに
6.MOZART VIRUS DAY
7.誰かさん〜CLOSE YOUR EYES〜
8.明け方の君
9.CATCH & RELEASE
10.BAD NEWS GOOD NEWS
11.BIG TREE
12.tomorrow


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