【インタビュー】『ミッドナイトスワン』草なぎ剛 「こういう時期だからこそ、公開することに意味がある作品になった」

9月18日(金)16時33分 エンタメOVO

草なぎ剛

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 トランスジェンダーとして心身に葛藤を抱え、東京の片隅でひっそりと生きる凪沙。その下に、ある日、荒んだ生活を送る母と別れた親戚の少女・一果(服部樹咲)が預けられる。互いに孤独を感じながらも、反発したまま共同生活を始めた2人は、一果がバレエのレッスンを始めたことをきっかけに、徐々に絆を育んでいくが…。9月25日に全国公開となる『ミッドナイトスワン』は、トランスジェンダーの凪沙と孤独な少女・一果の交流を情感豊かにつづったドラマだ。『下衆の愛』(16)、「全裸監督」(19)など、話題作を手掛ける内田英治監督の下、凪沙役で入魂の演技を見せた草なぎ剛が、撮影の舞台裏を語ってくれた。



−台本を読んだときの印象は?

 ものすごく感動しました。自分が何に感動しているのか分からないけど、とにかく涙が出てきて…。僕はいつも、自分がどの役を演じるのか知らないまま台本を読むのですが、今回も読んでいたら、母親の愛情をうまく受け止められない一果の気持ちも分かるし、トランスジェンダーとして生きてきた凪沙にも心がシンクロする。どちらも、すごく人間らしい。それがすごくリアルだし、すてきだったので、それを映像でも伝えられたらな…と。

−凪沙を演じるに当たって、どんな準備をしましたか。

 トランスジェンダーの方に会ったり、監督から頂いた資料に目を通したりして、役作りの参考にしました。とはいえ、基本的には台本に書かれていることが全てだと思っていました。その台本にものすごく力があり、内田監督の世界観が鮮烈に響いてくる。おかげで、自分で裏設定みたいなものを考えなくても、書かれていない凪沙の背景を、無意識のうちに感じ取ることができたんじゃないかと思います。

−現場ではどんなことを心掛けて演じましたか。

 頭で考えてできるような役ではなかったので、現場の空気を感じ取って凪沙になることだけを意識していました。監督は、一果(役の服部樹咲)とはかなりディスカッションをしていたようですが、僕には何も言わなかったです。信頼してくれていたのか、あえて言わないようにしてくれたのかは分かりませんが、好きなようにやらせてくれました。だから、すごく楽に演じることができました。それでも、日に日に、お互いの目指している凪沙をつかんでいけたような感覚があります。逆に、何度もテストを繰り返して芝居を作り込んでいたら、こんなふうには演じられなかったのかな…と。

−オーディションで一果役に抜てきされた、新人の服部樹咲さんも素晴らしいですね。

 樹咲ちゃんは演技をするのは初めてでしたが、今まで演技をしたことがない故に、僕の目の前にいるのは、本当に一果そのもの。そこに、ものすごくびっくりしたし、いとおしく思えました。「ちゃんと演技ができるかな?」と心配になるのも、役を越えて「守ってあげたい」という気持ちが芽生えたからだと思うし。樹咲ちゃんに比べれば、僕はずっと多くの作品に出ていますが、そういうことじゃないんだな…と。今までどんな演技をしてきたか、とか、今まで何をやってきたか、ということは関係ない。女優として生まれたての彼女がそこにいるのを見たとき、そんなことを感じました。いい意味で、僕をゼロに戻して、初心を思い出させてくれた気がします。

−現場での服部さんの様子は?

 撮影の合間に話しているときは、本当に等身大の少女です。「お菓子食べたい」「チョコレート好きなんだ?」なんて話をしたり…。その上、お母さんが僕と同い年だったので、お母さんにも樹咲ちゃんにも親近感が湧いてきて(笑)。でも、カメラの前に立つと、雰囲気がガラッと変わる。しかも、凪沙のアパートにいるときは、ただの田舎から出てきた女の子だけど、いったん、バレエを始めると、周りの空気をいっぺんに変えてしまうぐらいの存在感がある。本当にすごいな…と。ちょっと大げさかもしれませんが、「彼女は一果を演じるために生まれてきた」と思わせるものがありました。

−それはすごいですね。

 だから僕も「樹咲ちゃんに刺激を与えないと…」と思って、一生懸命やったのがよかったのかもしれません。そういうふうに、お互いの相乗効果で役を演じ切ることができたような気がします。

−一果を見守る凪沙の母性みたいなものを、どんなふうに理解しましたか。

 基本的に、お母さんなんでしょうね。「母親ってそうなのかもしれない」と、僕が熱を出したとき、心配してくれた母親のことを考えたりして、そんなことを思いました。そういうときの母親って、「自分はどうなってもいいから、この子を助けたい!」という気持ちなんだろうな…と、この年になってようやく気付くことができました。そういうタイミングで頂いたのがこの役。だから演じられたのかな…と。今このときにしかできなかった役だと思います。

−この作品ではバレエが凪沙と一果の心をつなぎ、それにより荒んでいた凪沙の生活も潤いを取り戻していきます。コロナ禍の現在を含め、「芸術やエンターテインメントは、人が生きる上で必要なのか」としばしば議論になりますが、この物語は一つの答えを示しているように思います。そういう意味で、この作品を通して芸術やエンターテインメントの意義について考えることはありましたか。

 コロナ禍で世の中が次々と自粛の流れになり、世界的にもライブや公演が中止になっています。実際、僕も舞台が中止になりました。もちろん、人の命が一番大事で、それを脅かすようなことは控えなければいけません。とはいえ、ずっと家にこもっているわけにはいかないし、ずっと何も見ないわけにもいかない。そんなことを考えていたら、エンターテインメントの大切さに、改めて気付かされました。生きるためのエネルギーになるし、やっぱり大切なものだな…と。

−おっしゃる通りですね。

 そういう仕事に自分が携われていることが、すごくうれしい。今まで当たり前のようにできたライブや舞台が、こんなに大切なものだった。こんなことがないと、そういうことに気付かなかったかもしれません。だからこの経験を生かして、エンターテインメントに関わる全ての人が、「自分たちは本当にすてきなことをしているんだ」と改めて気付くことで、さらにいい作品が生まれるんじゃないか…。そんなふうに期待しています。そうじゃないと、つまらないですよね。

−まさにそういうことを象徴している映画だと思いました。

 ありがとうございます。コロナ禍とは関係なく作った映画ですが、こういう時期だからこそ、公開することに意味がある作品になったと思います。ぜひ、みんなに見てもらって、元気になってくれたらいいですね。

(取材・文・写真/井上健一)

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