学生生活最後の学期を「消化試合」にしてはいけない

9月19日(水)11時0分 文春オンライン

 大学というのは、近所の住民にとって迷惑施設である。とりわけ大規模な総合大学は、必然的に学生数が多く、彼らは時に我が物顔に住宅街を闊歩する。大学生は大人なので酒を飲むし、1万人を超える学生がいると、困った事だが、路上で酔い潰れる奴もいる。だからこそ大学教員の隠れた仕事の一つは、学生さんの行動に関する近所の住民からの苦情に答え、頭を下げる事である。筆者も勤務先とは異なる大規模大学の近所に住んでいるので、近隣住民の方々の気持ちはよくわかる。


 とはいえ、大学が近所にあると良い事もある。何よりも好ましいのは、彼らの「生き様」を毎日目の当たりにできる事だ。仕事で大学教員をしていて、近所でも大学生を見たいのか、という人もいるだろう。しかし、彼らの行動は教室の中と外では違う。教室の中では良い子にしている学生達が、学園祭ではしゃぎ回り、失恋して大声でなきじゃくっているのを見ると、自分自身の若い頃の記憶が鮮明によみがえってくる。


 ましてや、日帰りの東京出張から疲れ果てて到着した、24時を回った自宅の最寄り駅の改札口で、どこかの授業で見たことがある学生さんが、男女で熱く見つめあったりしているのを見たりすると、もうどうして良いかすらわからない。だからこそ、時に終電が去ったホームの陰で彼らを隠れて見守っても不思議ではないのである。最寄り駅の近くには大した施設はない。彼らはこれからどこに行くのだろうか。


 ともあれ時期はもう9月も半ば。大学の最寄り駅で愛を語り合ってしまうような充実した夏休みを送った学生にも、そうでない学生にも平等に後期はやって来る。そしてこの後期は3月に卒業を控える(つもりの)学生には特殊な意味を持っている。何故ならこの学期こそが彼らの人生にとって「学生生活最後の学期」になるからだ。


学生生活最後の学期を「消化試合」にしないために


 とはいえ、この「学生生活最後の学期」をどうやって送るかは、実は結構難しい。とりわけ今年は就職市場が良好だったから、公務員志望者をはじめとして多くの人は既に就職先が決まっているだろう。最近の学生はまじめだから多くの学生は既に単位の大半も揃えているに違いない。学園祭や体育会系のクラブで「燃え尽きられる」学生はごく一部であり、そもそも多くの学生は就職活動という、学生生活最大の難題を終え、燃え尽きてしまっているだろう。だからこそ、この時期を「学生生活の消化試合」の様に終えてしまう人も少なくない。


 しかしながら、考えて欲しい。来年の春になり「仕事という名のペナントレース」が始まってしまえば、ただ毎日を過ごすだけで精いっぱいだ。後期が終わってからの春休みは一種の「オフシーズン」であり、自由だが自分を鍛えてくれる人はどこにもいない。多くの人にとって、「大学4年生の後期」は長かった学生生活最後の期間であり、学校という場を利用して何かを獲得できる人生最後の機会なのである。


 そして「大学4年生の後期」には「大学1年生の前期」と同じ長さの時間がある。だからこそ希望を以て迎えた「1年生の前期」にそうした様に、「4年生の後期」を有効に利用できない筈がない。勉学でも、サークル活動でも、プライベートでも良いし、割り切って毎日ごろごろと寝ているのも一つの方法だ。春になり社会人になった時に、「あの時あれをやっておけば良かった」と思わなくてもよい様に自らの時間を過ごさなければ、後悔する事になるのは自分である。



「来年のペナントレース」に何を残せるか


「そしてそれはプロ野球も同じ事だ(←もはやこのコラムの定番である)」。このコラムが公表された段階でオリックスの残り試合は11。この春のオープン戦は14試合だったので、これに匹敵する数の試合が残っている事になる。希望に満ちた春のオープン戦では、若手もベテランも選手たちは生き生きとプレーしていた筈である。ましてや残り少ないとはいえ公式戦。ポストシーズンのかかったチームにとっては真剣勝負が続いている。そこで試せるものがない筈が無い。



「来年のペナントレース」を見据えて何を残せるか ©iStock


 だからこそ今こそ重要なのは、個々が明確な目標を定めて残り試合を戦う事だ。勿論それは個々の選手にとっては個人成績であったり、来年のチーム構想に残れるかを巡っての戦いであったりするのだろう。そして同じ関心は、順位の大勢が決まった球場にわざわざ足を運ぶファンも持っている。来年のセカンドは誰が守るのか、サードは一体どうなるのか、先発ローテションには誰が入るのか、そしてそもそも個々の選手の来シーズンの契約はどうなるのか。「来年のペナントレース」を見据えているのはこの時期のファンもまた同じなのである。


 そしてその事は選手のみならず、監督やコーチについても言える。留任か否かを別にして、福良監督をはじめとする今シーズンのベンチが今問われているのは、彼らが「来年のペナントレース」に何を残せるか、である。若手の育成なのか、レギュラーの整備なのか、戦い方の徹底なのか、それとも何かスピリットに近いものなのか。大学教員も、監督やコーチも、年を重ねても自らの「生き様」を見せる事は出来る筈である。「今から思えばあの年の監督が福良でよかった」。来シーズン、そしてそこから更に後にそう思い返せるような、明確な意思を持った、明確なメッセージを、明確な姿で見せて欲しい、と思う。


※「文春野球コラム ペナントレース2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/-/8855 でHITボタンを押してください。



(木村 幹)

文春オンライン

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