これぞ“勝者のメンタリティ” 原采配の凄みを感じたベイスターズ戦、3つのポイント

9月19日(木)11時0分 文春オンライン

 これこそを「勝者のメンタリティ」と言うのだろう。


 9月に入り大詰めを迎えたプロ野球。先日セ・リーグでは5年ぶりの優勝を目指す巨人と4ゲーム差で2位DeNAの直接対決3連戦が横浜で行われた。


 巨人が勝てばマジック「9」が点灯する10日の初戦。岡本の2発が試合を決めたように見えるが、実は他にもポイントがある。王者にふさわしい巨人の数々の「勝者のメンタリティ」をヒシヒシと感じさせた原采配の凄みを3つのポイントで振り返ってみたい。



9月10日、2本塁打を放った岡本和真 ©時事通信社


「勝者のメンタリティ」を感じさせた原采配の凄み


 1つめのポイントはクックの先発だ。


 今季沢村賞の候補にも上がるエース今永昇太をローテーションをズラして中8日でぶつける必勝態勢を敷いたラミレス監督に対し、原監督はメジャー時代を通じても先発初体験というクックを先発に立てた。リリーフではピリッとしない投球が続き、クイックにも難がある外国人投手の初先発は奇策にも見え、戦前の予想ではDeNA有利と見る人が殆どだった。


 しかし、ここに罠がある。私が以前から絶叫しているように野球の試合は先発投手の名前や格だけでは勝敗は決まらない。先発完投が少なくなった昨今の野球では7回以降にもなれば殆どの先発投手は交代しているものである。リリーフの枚数や質、運用、そして野手力、監督の采配、気力・体力を含めた総合力が問われる。2015年のプレミア12準決勝の韓国戦、日本は大谷翔平、韓国はイ・デウンが先発し、大谷が7回まで圧倒したもののその後リリーフが崩れ逆転負けを喫した試合がその象徴である。こうした短期決戦やシーズン終盤の勝負どころではなおさらそうした要素が強くなる。


 DeNA側からすれば今永を立てて勝てば逆転優勝に向けて勢いがつくものの、万一負けたら一気に流れが悪くなる。この3連戦と残りのカードの合計6試合で最低2試合とれたらと計算している巨人からすればもしクックで今永に勝てたら儲けものだ。まずそのような精神的な余裕が生まれる。あわよくば勝てれば良いと戦える側は楽である。


 リリーフ投手による継投で1試合を賄うブルペンデー、「ローテの谷間」ともなるこの試合でクックはまずまずの投球を見せた。審判のストライク判定はやや辛く、3回にはストライクを取りに行った失投をロペスにホームランされ、徐々に捉えられ始めるもなんとかそのホームランの1失点で切り抜けた。DeNAからしたら3回で崩しきれなかったことも悔やまれる。既に限界が来ていたクックを4回も続投させピンチを招いてからの交代は、やや遅かった。ここでも崩しきれなかったDeNAの攻撃には課題が残る。巨人のリリーフはシーズン途中のメンツを考えれば、「勝ちながら」よくここまで整備されたと言える。抑えきった高木京介や田口らにも賛辞を送りたい。シュートを意識させて敢えて投じず外のスライダーでソトを打ち取った大竹もプロ中のプロであった。


甘く入ってしまったところを見逃さなかった「巨人の4番」


 2つめが真の4番に成長した岡本和真とエース・今永の心理状態だ。


 1点を追う6回の巨人。二死から丸が今永のフルカウントから投じた外いっぱいのカッター寄りのスラットを見逃し四球を選んだ。私が絶賛する、フルカウントからのスイングしても空振りやゴロになりやすく、かつ見送ればストライクとなるようなスラットを投げきった今永もあっぱれであったが、やや判定が辛いこの日の球審の手は上がらなかった。打てない球は割り切って見逃せる丸の選球眼も光った。


 この判定で当然今永はがっくり来ている。前日関東地方を襲った台風15号の影響で蒸し暑く、また間隔を明けて臨んだ首位決戦、無意識に飛ばして疲れも来ていたのだろう。肩で息をし始めていた。そうした精神と肉体の状態で投げ込んだ初球の甘い135キロのチェンジアップを岡本和真は見逃さず一振りでレフトスタンドに運んだ。


 今永からすればストライクからボール気味に、低めに投げ切らなければいけないボールだった。しかし、前の微妙な判定の影響や心身の疲労から甘く入ってしまったところを「巨人の4番」が見逃さなかった。



「最善策」だった坂本の送りバント


 そして3つめ。最大のポイントが8回の巨人の攻撃、キャプテン坂本勇人の送りバントである。


 1点リードで先頭の亀井がヒットで出塁。鈴木尚広の後継者とも言える代走増田をすかさず送り、エスコバーを揺さぶって牽制悪送球で2塁へ。ここで原監督は迷いなく坂本に送りバントのサインを出し、坂本は1球で決めた。


 今季腕を下げてスピードとスライダーのキレが増しポリバレントクローザーとして活躍中の中川皓太も登板過多でコンディションに不安があり、6月以降支配的な投球を見せている澤村も故障で抹消、リリーフにはやや不安があり点差を広げるためのバントには意味がある。ここで回ってきたのがたまたま坂本だったというだけであり、私も100%賛同する作戦だった。


 そして坂本が送った3塁増田をやや不調で四球を選びながら凌いでいた丸が前のカードのヤクルト戦から始めていたツイスト打法で犠牲フライでホームに返した。その後丸はあっち向いてホイのように顔が反対方向を向くようなこのツイスト打法でホームランも放ち話題となっているが、この時点ではまだ未完成だった。しかし、反対方向へのフライが飛ぶ可能性は高く前のカードでの神宮でもそのような傾向があったため、計算通りの犠牲フライを放ち点差を広げた。この男こそがセ・リーグで唯一4連覇を経験する見込みとなる、真の支配層と言えるだろう。


 更に気落ちしたエスコバーの甘いボールを叩いて岡本が更にホームランを放ち勝負あり。昨年史上最年少で3割30本100打点を達成し巨人の4番となった岡本にも今季はやや力みがあり、必要以上の大振りと振り上げが目立っていたが8月の上旬にいよいよ修正し去年に近い形となってきており、大事なところで仕事をやってのけた。この成績でも叩かれる時点で、上のレベルの「巨人の4番」になったと言える。


 そうして3点差となってクローザーのデラロサが9回に登板した。デラロサはポストシーズンで直接の対戦相手となる可能性を考慮して変化球を隠すために点差があるので敢えてストレートを多投した。千賀の151キロの速球を叩いて一発を放つなど意外性を秘める柴田のホームランを浴びたものの、最速161キロの速球で押し切ってゲームセットとなった。坂本のバント、丸の犠牲フライ、そして岡本のホームランによる追加点がなさしめたある意味「必要経費」の失点だったと言えるだろう。


 拙著『セイバーメトリクスの落とし穴』でも書いたように、送りバントは多くの場面では不要である。強打者の送りバントも多くは非効率であろう。しかし、この日の坂本のバントは確実に「最善策」だった。岡本のホームランが決勝点であってバントは非効率だ、と言った戯言に耳を傾ける必要はない。一戦必勝の試合を、クックの先発で今永に勝ち切る選択を巨人はした。原監督にも坂本にも迷いはなかったはずだ。開幕2戦目から同様に敵地マツダで点差を広げるために命じた坂本の送りバントがこの伏線としてある。


 野球には流れもメンタルも「ある」。苦手にしていた今永の失投を逃さずに叩いた4番の岡本。彼らの微妙な精神面にも注目してプレーを見ていきたい。


 バントが無意味、流れもメンタルも無意味などと言った浅はかな分析は無視するに限る。通ぶって強打者に送りバントを命じたから凄いというのではない。必要なことを当然のように判断できる監督と坂本に凄みがあるということだ。巨人の王者の野球、何が何でも勝つという野球にDeNAも脅威さえ感じただろう。まさに私が求める王者の野球に凄みを感じた。なお、5月に甲子園で命じた坂本のバントは無意味ではあった。この差をしっかりと感じ取っていきたい。


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(お股ニキ)

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