「RTは名誉棄損」に賠償命令 SNSからの撤退こそ身を守る

9月20日(金)16時0分 NEWSポストセブン

政界を引退しても話題に事欠かない(時事通信フォト)

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 ツイッターで他人の投稿を転載するRT(リツイート=引用)で名誉を傷つけられたとして、元大阪府知事の橋下徹氏がジャーナリストに慰謝料など110万円の損害賠償を求めた訴訟で、橋下氏の訴えが認められる判決が出た。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、ウソやデマが拡散されやすいRTの影響について、改めて考察した。


 * * *

 毎日新聞電子版の〈「リツイートは賛同行為」橋下氏への名誉毀損、ジャーナリストに賠償命令 大阪地裁判決〉という見出しとその内容を見てのけぞってしまった。


 橋下徹氏が大阪府知事時代、幹部職員を自殺に追い込んだという、第三者によるデマツイートをジャーナリスト・岩上安身氏がRTした(後に削除)ということが問題視され、岩上氏は33万円の支払いを命ぜられた。


 他にも多くのユーザーがRTしたのになぜ岩上氏だけが? という点については当時岩上氏は18万人のフォロワーがいたため、影響力があり橋下氏の社会的信用を低下させたと裁判所が認めた形となった。


 この記事を見た時に思ったのが、裁判というものは「やりやすい相手」からやるのが王道だということだ。橋下氏は頭がいい人物であり、匿名でフォロワーが少ない雑魚IDをいちいち相手にするよりも身元が明らかな実名でフォロワーの多い人物に絞った方が戦いやすいと考えたのだろう。


 何しろ匿名のユーザーは特定までに時間も手間もカネもかかり過ぎる。その点岩上氏のような著名人であれば、連絡先も公開しているだけに訴状を送ることも容易だ。一般のユーザーにも安易なRTやデマ拡散を委縮させる効果を狙えるだけに、橋下氏の戦略も理解できる。ただ、「RTだけでここまでのことになるのか?」とも感じる記事である。


 このように裁判所が認定しただけに、ツイッターのプロフィール欄で時々見かける「ツイートのRTや『いいね』は必ずしも賛意を示すものではありません。備忘録です」という注意書きは実は有効だったのだな、と感じた。


 この文言を見る度に「そんなの分かってるよ。わざわざ書く必要あるの?」と思っていたのだが、まさかの効果アリ(の可能性)が明らかになった判決だった。橋下氏と岩上氏の思想が異なることは元々分かっていたが、もしも岩上氏がプロフィール欄に件の一言を書いていたらどうなっていたか……? とも思うのである。支払額は減額になったかもしれないし、敗訴しなかったかもしれない。


 私は岩上氏が運営するIWJのメルマガを毎日受け取っているが、そこでは今回の裁判について「スラップ訴訟」(*注)と表現した。同団体のサイトでも「本訴訟提起は、対抗言論での反論という手段を一切とらず、事前交渉の一切ない中での言論抑圧目的と言わざるを得ない」と控訴を宣言している。


【*注/政治家や大企業などが、提訴によって言論や運動を抑圧しようとすること】


 現在私はツイッターの運用を弊社の従業員に任せており、イベントや執筆記事の告知以外は一切のツイートをしていない状況にある。RTごときで訴訟沙汰になり、敗訴することが分かった以上、たかだか3.7万フォロワーの私ではあるがその対象になり得るわけで、つくづくやめてよかったと思っている。


 自由な議論の場として元々期待されたインターネットや、もはや死語となった「ウェブ2.0」という言葉だが、その虚しさがますます明らかになった今回の判決である。悔しいが、SNSからの撤退こそ我が身を守るかもしれない。


●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。


※週刊ポスト2019年10月4日号

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