今井寿&藤井麻輝、星野英彦ら参加の『DANCE 2 NOISE 001』当時のニューカマー、M-AGE、Paint in watercolourも収録

2022年9月21日(水)18時0分 OKMusic



9月21日、BUCK-TICKのデビュー35周年記念コンセプトベストアルバム『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』がリリースされた。今週はいつもに比べて少し変化球ではあるけれども、BUCK-TICKのメンバーが初めてバンドから離れたソロワーク、別ユニット作品の発表の場となったコンピレーションアルバム『DANCE 2 NOISE 001』を紹介することとした。また、本作参加アーティストであるPaint in watercolourのメンバーから話を訊ける機会に恵まれたので、本稿後半ではそのショートインタビューを掲載。一部マニアにはたまらないレアな原稿ではないだろうか(と、ほんの少し自画自賛)。

新進気鋭のアーティスト14組が集結

 まずは全14曲をザッと解説。BUCK-TICK、LÄ-PPISCH、SOFT BALLETのメンバーによるユニットもさることながら、当時のニューカマーたちもそれぞれに個性的なサウンドを示していて、1990年代に突入したばかりで、音楽シーンに新たな波を呼び込もうとしたレーベルの威信を感じさせるところである。

M1「Jarring Voice」/HOSHINO HIDEHIKO
当時は“死ぬまでに1枚くらいはソロを作りたい”と彼らしく謙虚な発言をしていたBUCK-TICKの星野英彦の初ソロ楽曲。バンドではメロディアスな楽曲を作るイメージがある星野だが、これはアグレッシブなエレクトロニックボディミュージックで、意外に思ったファンも少なくなかったのではなかろうか。横山和俊がマニピュレートを手掛けており、これをきっかけに横山はBUCK-TICK作品にも参加することになったという。

M2「CALL ME」/M-AGE
 1992年1月のM-AGE のメジャーデビューに先駆けて発表されたナンバー。きびきびとしたシャープなバンドサウンドにデジタルを融合。とりわけヒップホップ的な要素に1990年代前半のUKロック(マッドチェスター以降、ブリッドポップ以前)を素直に反映させた印象があるものの、歌メロはポップかつキャッチーで親しみやすく、サビのコーラスワークなども丁寧に作られていて好感が持てる。こちらも横山和俊がマニピュレターに参加。

M3「Think of Making Love -SONIC MOSQUITO DUB MIX-」/SUB SONIC
 のちにダンスユニットのRAVEMAN や、1990年代後半に2枚のオリジナルアルバムをチャート1位に叩き込んだFavorite Blueでも活躍することになるt-kimuraこと、木村貴志のレイブ系ユニット。その後、メンバーが女性ヴォーカルのChrystina、黒人ラッパーのTerry T.とにチェンジし、SUBSONIC FACTORとしてメジャーデビューしたという。アンビエントな雰囲気を取り込みつつも、基本はダンサブルなハウスミュージックで、それがとても清々しい。

M4「Domingo Express」/TATSU
 LÄ-PPISCHのベーシストであり、GANGA ZUMBAのメンバーとしても活動するTATSUが手掛けた楽曲だけあって(という言い方をしていいのかどうか分からないけれど)、ホーンセクションで鳴らすキャッチーなメロディーと、躍動感のあるパーカッシブなリズムが実に印象的。この楽曲もデジタルを使ってないわけではないけれど、生音が前面に出ていることで、他の収録曲とは明らかに一線を画しているように思う。普遍的ポップダンスチューン。

M5「讃美歌」/HAMLET MACHINE
 DER ZIBET のヴォーカリストであるISSAYと、THE CELLULOIDを経てALLNUDEで活動していたTATSUYAこと、水永達也のユニット。ISSAYが歌を、TATSUYAがサウンドを司っている。先鋭的なビート、イントロでのシンセサウンド&コーラスワーク、ストロークでノイジーに鳴らされるギターとアルペジオとの同居、そして何よりもデカダンスな雰囲気のISSAYのパフォーマンスは、のちのビジュアル系に通じるものを感じる。

M6「Planet!!」/PC-8
 Sigh Society名義で活動するハゼモトキヨシと、のちにKING OF OPUSを結成するトミザワナカ。当時まだ20歳だったというふたりによるテクノハウスユニット。Cutemenのヴォーカリスト、Picorinが行なっていたイベントに頻繁に出演していたことから、このコンピレーションへの参加を打診されたという。音作りに中期YMO(『BGM』〜『テクノデリック』)からの影響を感じさせつつも、ダンサブルかつポップに仕上げたナンバーである。

M7「Flame Of Illusion」/CRYPTEMEN
1980年代にバンド、YBO2で活動し、雑誌『FOOL'S MATE』の初代編集長としても知られる北村昌士によるユニット。1990年に発表された割礼のアルバム『ゆれつづける』の収録曲「緑色の炎」をカバーしている。原曲にはないダンスビートを加えつつも、オリジナルのイメージを大きく損ねていないところに、サイケデリックロックへの敬愛が感じられる。ギターはdipのヤマジカズヒデ。彼の音が鳴った瞬間の“只者ではない感”が半端ない。

M8「びっくり」/Cool Acid Suckers
 1994年にアルバム『いつまでもお元気で』のみを発表してシーンを去った(らしい)、人呼んで“日本のミクスチャーロックの伝説的バンド”。M7から一転、ラップ入りのラウドでファンキーなサウンドが飛び出すのは正直言ってちょっと面を喰らったが、それがコンピ盤のいいところかもしれない。全体的にグイグイと迫るダイナミックなバンドサウンドがカッコ良いが、とりわけアルトサックスが絡んでくる箇所が圧倒的にスリリングで完全に聴きどころ。

M9「Little Bit Cool」/D.M.X&A.M.
日本初のダブバンド、MUTE BEATのメンバーであったDub Master Xと宮崎DMX泉(programming)と増井朗人(tb)によるユニット。THE THRILLの平田直樹(Tp)や多田暁(Tp)らも参加している。軽快なレゲエのリズムに乗って、アーバンな管楽器(フルート、サックス、トランペット)が、時にユニゾンに時にそれぞれの旋律を奏でながら流れていく様子が気持ちいい。生演奏がグルーブを産み出しているパーカッションにも注目。

M10「heaven」/Paint in watercolour
 一部で“日本初のシューゲイザーバンド”と評価されていた新潟出身の4人組ロックバンド。当コンピ盤に先駆けてリリースされていたマキシシングル「Flow」に収められたナンバーを再録している。ダンサブルなビートに、浮遊感のあるヴォーカルと、ディステーション深めのギターとの絡みを乗せた、バンドの特徴がよく表れているナンバーではある。ギタリストがさまざまなアプローチを試みており、案外器用なバンドであったことも想像できる。

M11「MACRO-MUTOS -from a film "GOD+ANALOGIA"」/PBC
 PBCとは、鉄や廃材を組み合わせたメタルパーカッションとサンプリングしたノイズやオーケストレーションによるポストインダストリアル音楽兼アートユニット。本作でクレジットされているメンバーは谷崎テトラ、Jean Pierre Tenshin、池田亮司、ヤマミチアキラ。楽曲はそのPBCの野外パフォーマンスを記録した映画『GOD+ANALOGIA〜神とアナロギア』で用いられたもののようである。本作の中で最もアバンギャルドではあろう。

M12「VIOLATOR」/MAZZ+PMX
 1987年頃結成というから、日本のヒップホップの黎明期から活躍していたユニット。DJ PMXは米国ウエストコーストヒップホップをいち早く日本に広めたプロデューサーのひとりであり、流石に…と言うべきか、この楽曲もその色が濃い(そもそもタイトルもそれっぽい)。躍動感あるビートと(おそらくトランペットによる)短くもファンキーな旋律。そのリピートによるトラックに、これまたリズミカルなラップを乗せた正調派と言えるナンバーだ。

M13「VISION OF LOVE」/BRAIN DRIVE
 水田逸人と表野雅信によるロックユニットで、この翌年の1992年にメジャーデビューを果たしている。David Bowieの影響下にあるような低音のヴォーカルによる歌メロを、エレクトなサウンド、多彩なギター、硬質なビート、文字通りドライヴするベースラインなどで構築したサウンドが支える。ラップ調の箇所もあり、ユニットの潜在能力を伺わせるところ。サビに出てくる《完全驚異》という歌詞は、メジャーアルバムのタイトルでもある。

M14「nicht-titel」/SCHAFT
 本作中最注目だったと言っていい、BUCK-TICKの今井寿と当時SOFT BALLETの藤井麻輝によるユニット。エレクトロインダストリアルミュージックと呼ぶべきサウンドではあって、不協気味な旋律や妙な音色も聴こえてはくるものの、元来ポップな両名の本質が表れたのか、いわゆるノイズミュージックとは明らかに一線を画しているのがポイントだろう。こののちSCHAFTは、1994年に1stアルバム、2016年に2ndアルバムを発表している。

“日本初のシューゲイザーバンド”が 復活!

SCHAFTやHAMLET MACHINE辺りは参加メンバーが超有名だし、M-AGEやBRAIN DRIVEらも当時結構注目されていたので、その詳細をあまり調べる必要もなかったのだけれど、その他のバンド、ユニットに関してはWikipedia先生に頼るだけでは収録アーティストのプロフィールが簡単に判明せず、正直言って原稿作成には難儀した。よくよく調べてみると、活動休止を余儀なくされた人たちも結構いたようだし、その後の動きがよく分からないアーティストも少なくない。31年も前の作品である。それも止む無し…というか、当然とも言える。歳月をしみじみと噛みしめたところではある。そんな中にあって、2021年のM-AGEの再結成は明るい話題であったとは言えるだろう。M-AGEに関しては、彼らのデビューアルバム『MUSTARD』を2021年2月の当コーナーで取り上げており、そこでも少し『DANCE 2 NOISE 001』について触れているので、そちらもご参照いただければ幸いに思う。また、再結成後のインタビューも1990年代のシーンを偲ばせる内容でもあるので、こちらもぜひ。

吉報(?)をもうひとつ。本作参加のPaint in watercolourも1993年の2ndアルバム『VELOCITY』リリースを境に音沙汰がなく、傍目にも活動を休止していたと考えられていたと思うが、彼らもまた活動を再開したようだ。2019年に自身のYoutubeチャンネルを開設。かつてのライヴ映像などをアップし、今年2022年には同チャンネルで新曲を2曲発表している。今回、縁あって新潟市内某所においてメンバーのひとり、関口賢一(Gu)に話を訊くことができた。

再結成の経緯をストレートに尋ねると、“単純に面白いなと思って”との返答。“自分もそろそろ還暦。還暦のシューゲイザーって面白いでしょ?(笑) そういうことですよ”と笑う。関口、布川正人(Vo&Gu)のオリジナルの面子に、3人の新規メンバーを加えた布陣でのリスタートである。“(新メンバーは)3人とも、自分の息子みたいな年齢でね。時に親子喧嘩しながら作ってる(笑)”という。

音楽ファンの一部でPaint in watercolour が“日本初のシューゲイザーバンド”と評価されていることについて訊くと、“当時はシューゲイザーなんて言葉はなくて、My Bloody Valentineとかもほんの一部の間で流行ってただけで、そんなにメジャーではなかった。“ゴミみたいなロック”って言われることもあったと思うよ”と振り返りつつ、“オンタイムでそんなレコードを買ってすぐにそれを真似してたんだから、当然そうなる(=サウンドがシューゲイザーになる)よね”と自己分析する。音楽の取り込み方、その構造は“渋谷系”に近いものであったようだ。“輸入盤で知った当時のロックの旬をそのままやっていただけ。音楽に敏感な若者たちがやっていたのが渋谷系だとすると、その意味では同じだよね。自分たちも(Paint in watercolourを結成する)直前までは東京にいて、CISCO(※註:レコード店)とか頻繁に行ってたしね”と続けた。

My Bloody Valentineのヒットアルバムで“シューゲイザーの金字塔的作品”と言われる『Loveless』が日本でチャートインしたのが1992年5月。Paint in watercolourのメジャーデビューは同年6月である。彼らが“早すぎたバンド”と指摘されることも分からなくもない。下北沢辺りのライヴハウスを中心に日本のシューゲイザーシーンが形成されたのが1990年代半ば頃と見る向きもあるが、それよりも数年早いデビューであった。関口も“自分でも(日本でシューゲイザーをやったのは)だいぶ早かったと思うし、早すぎたとも思うよ。でも、そこを(もう少しあとから…と)調整するのは無理。とにかく早く早く…だから(笑)。人生に2度目があっても同じことをやっていると思う。元来、天邪鬼だからね(笑)”と振り返る。

また、こんな思い出話もしてくれた。“俺ら、M-AGEとBRAIN DRIVEと同じレーベルだったんで、一緒にイベントもやったよ。渋谷公会堂だったかな。でも、俺たちには違和感があったし、実際すごく浮いてたと思う。普段着でやってたしね。“何でここに入れられてんだろう?”みたいな感じだった。もしかすると、M-AGEみたいなルックスだったら、もうちょっと売れてたかもね(笑)”。その発言からも彼が天邪鬼マインドの持ち主であることが分かる。

『DANCE 2 NOISE 001』収録曲「heaven」についても、今聴いてもポップな印象であることを告げると、“うん、ポップですよね。でも、当時のポップさとも今のポップさとも違う”と語ってくれたのも印象的であった。実際に改めて音源を聴いてもらうと、“(「heaven」は)もうちょっといい音で録れてれば…とは思うよね。新潟で録ったやつを東京でマスタリングしたんだけど、東京で録れてれば…ね。そこがちょっと恥ずかしい。カッコ良いだけど、もう少しやりようがあった。今思うと、もったいなかったよね”と少し残念がっていたが、今回の再結成によって、“還暦のシューゲイザー”から1990年代以上に満足度の高い作品が創り出されることを、当コラムとしてもお祈りする。(ご多忙のところ、取材に応えていただき、ありがとうございました)

TEXT:帆苅智之

アルバム『DANCE 2 NOISE 001』/V.A.

1991年発表作品

<収録曲>
1. Jarring Voice
2. CALL ME
3. Think Of Making Love
4. Domingo Express
5.讃美歌
6. Planet!!
7. Flame Of Illusion
8.びっくり
9. Little Bit Cool
10. heaven
11. MACRO-MUTOS
12. VIOLATOR(MAZZ+PMX)
13. VISION OF LOVE
14. nicht-title

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