『万引き家族』是枝裕和監督、樹木希林を想い涙「この10年、役者と監督という関係を越えて…」アジア人初の快挙ドノスティア賞受賞

2018年9月24日(月)12時36分 映画ランドNEWS

スペイン・バスク地方で開催中の第66回サン・セバスチャン国際映画祭にて、映画『万引き家族』の是枝裕和監督に、アジア人初の快挙となるドノスティア賞が贈られた。


(C)Festival de San Sebastián. Photo Montse Castillo

俳優または監督に送られるもっとも名誉ある賞で、生涯功労賞にあたる<ドノスティア賞>。日本時間9月24日(月)に行われた授賞式に、是枝監督が登壇。先ずトロフィーを受け取ると、場内はスタンディングオベーションと割れんばかりの拍手に包まれた。


これまでの作品映像がダイジェストで流れ、是枝監督作品には欠かせない女優・樹木希林の姿を目にした監督は「2年前、『海よりもまだ深く』で希林さんとこの映画祭を訪れることができ、とても楽しい時間を過ごした。この10年、役者と監督という関係を越えてパートナーとして映画を作ってきた方」と思い出がよみがえり涙ぐむシーンも。


(C)Festival de San Sebastián. Photo Montse Castillo

また、監督自身が大切にしている映画祭での受賞には緊張しきりで、「自分がもらうには早すぎた」と言いつつ、「まだキャリア半分であと20年は作ろうと思っている。この20年はいい映画を作って皆さんに届けたい」と、決意を新たにした。その後、主演のリリー・フランキーも登壇、涙ぐんでいる監督へハンカチを差し出す場面もあり、会場からは再び温かい拍手がわき起こった。映画『万引き家族』は絶賛公開中。


是枝裕和監督 コメント




歴代の偉大な受賞者の映像を見ていたら、自分がもらうのは本当に早すぎたと、舞台袖で急に緊張してきて、ああどうしようと出ていくのに困っていました。その後に、僕の作品を色々編集していただいて(つなげてくださった映像をみていたら)、この20年、自分がやってきたことをこう振り返って、特に2年前に『海よりもまだ深く』という映画で樹木希林さんとこの映画祭を訪れることができて、とても楽しい時間を過ごして。この10年、役者と監督という関係を越えて、パートナーとして映画を作ってきた方なのですが、彼女がついこの間亡くなられてちょっとそのことが、どうしても、ついよみがえってくるので、(受賞は)嬉しいのですが、ちょっと悲しくなって泣いています、ごめんなさい。


最近は作るたびに、この映画祭に呼んでいただいて、すごくサポートしてくれるスタッフにも恵まれて毎年のように映画を作れてここを訪れることができて。本当に素晴らしい映画祭だからどんどん参加する方たちが増えてきて、今回も凄くたくさんのメンバーに支えられてここにきているのですが、僕が毎年映画を作れるのは、僕の映画が好きな以上に、毎年この映画祭に来たからなんじゃないかな、と思うくらい、毎年みんながこの映画祭に来たがっています。


この映画祭に参加してから20年たちまして、本当に映画祭と監督の関係というのは恵まれますと、本当に、映画祭と集まってくる観客の方たちに作り手たちは育てられていくんだなと、本当に身にしみて感じており、ここに並んでいるお2人に僕は本当にはげまされ育てられてきたなあと思っています。希林さんとはもう来ることができないですが、希林さんに教えられたことがたくさんあるので、また若いスタッフ・キャストと一緒にここにまた呼んでいただけるように。生涯功労賞は、僕はまだキャリア半分であと20年は作ろうと思っているのですが、生涯功労賞というのは生涯でたった一度だけなので2度目はないと思いますが、ちょっと早かったかもね、と言われるくらい、ここからの20年はいい映画を作って、皆さんの前に届けたいと思っております。有難うございました。


リリー・フランキー コメント




是枝さんを愛してくださって有難うございます。


また素晴らしい賞をもらったことを誇りに思います。


有難うございます。


【日本時間9月23日(日)22:00〜22:30<記者会見Q&A>】


──監督は、ホラー映画の長編を撮ろうと思ったことありますか?例えば、三池崇監督のように。


先ずは、この映画祭に来始めて20年、今回このような賞をもらえたことを嬉しく思っています。


ファミリードラマの作家だと認知されていることが多いのですが、自分としては、色々なジャンルにチャレンジしたいという気持ちがあり、その中には、ホラー映画とは違うかもしれないですが、人間ではないものの作品を撮りたい、という気持ちはあります。


人間じゃないものが、命を持って心を持つという話があり、結果的には人間を考えるというストーリーになると思いますが、実現するには、まだ少し、待っていてください。


──今回、『万引き家族』で映画祭での上映は10作目。それほど年召してない段階でこういう<生涯功労賞>を受賞することについて。また、次回作は、フランスで、フランスや世界で活躍する俳優とタッグ、どうしてそういう作品に取り組もうと思いましたか??


自分の監督としてのキャリアが、丁度半分くらいだと思っていたので、ここで生涯功労賞もらうと残り半分どうしよう、という気持ちもなくはないですが、それだけこの映画祭とはつながりが深いですし、20年という歴史もありますし、こういう評価をキャリアに対して、していただけたんだと思うと、ありがたいな、と思います。この街とこの映画祭が本当に好きで、呼ばれると必ず来ている。ここのところ毎年のように来ていて、スタッフもキャストも一度来ると「また、あそこに行きたい」と、みんな口々に言ってくれる。最近は、この映画祭に来るために映画撮っているというか、順番が逆になっているかも。映画を撮ると必ずここに呼んでいただいて、今回もスタッフとキャストと来ていますが、とてもいい、監督と映画祭の関係を築けていると。なかなかないですね、これだけ継続して関係を築けるのは。新作は、パリで今準備を始めており、来月からクランクインするので、今回も日本からではなく、パリからここへはやってきている。


スタートは、こういう映画祭での出会いや、こういうキャンペーンで訪れた先で出会ったジュリエット・ビノシュやカトリーヌ・ドヌーヴとか、そういう方達とのやりとりの中で、何か一緒に出来ないかというオファーをいただいて、ではチャレンジしてみようかな、という形のスタートなので、役者さんからオファー頂いた期待に応えられるようスタート。非常に毎日刺激的な日々を過ごしています。楽しいです。


──監督映画では、特に子どもの扱いが非常に上手い。子どもと仕事するには、どういうところを重視するのか?


(※リリー・フランキー、ここから参加・登壇)


なるべく子どもの、もちろんオーディションで選んだ子どもたちとの仕事になるので、毎回毎回初めてのことになるので、何か固まった方法論に子どもをはめ込んでいくという作業ではなくて、その子どもが持っている個性とか言葉とか集中力を維持する時間とか、そういうのをしっかりとらえて、その子に合ったやり方、その子に合った言葉を、演出の方法を探していくという作業を毎回行うので、だから根気よく待つことも大事ですし、忍耐力でしょうかね。


子どもの演出に関していえば、一番大切なのは、子どもと一緒に遊んでくれる・・・すごく子どもがリリーさんになつくので、そういうところをずるく、監督として使わせていただいて、半ば子どもの演出はリリーさんに任す、ということを今回の映画の中ではしています。


リリー:撮影中、冬で寒い時期だったので、子どもを抱きしめていると温かいので、だからいつも子どもを抱きしめていたら、自然と子どもがなついてきた(笑)


──脚本について。繊細なところがあるが、映画一つ一つの発送のヒントはどこから?


色々なヒントをもらいながら映画を作り上げていきますが、企画の最初にいくつかのアイデアがあって、その中の一つは、実際に、大阪の方だったかな、家族で万引きをしていて逮捕されて裁判が始まったというニュースがあって。なぜ逮捕されたかというと、その親子が釣り竿だけは売らずに家に残していて、そこから発覚するという事件だったのですが、そのニュースに触れたとき、盗んだ釣り竿で、親子が釣りをしているという画がまず浮かんで、そういうシーンを描いてみよう、と思ったのがスタート。そういう映画を作り始める前にある、いくつかのアイデアに加えて、撮りながら、役者さんをみながら、どんどん変化していく、新しいシーンが生まれていくプロセスがあった。役者からもらうヒント、アイデアというのが、一番映画を豊かにするな、と思っています。


──次回作は、海外の役者さんで撮ることについて、映画人として映画界で働くうえで、日本人であることのメリット・デメリットは何か考えることは?


もちろん、言葉や文化という違いを越えて、今共同作業を進めている。初めての経験ですが、日本人のメリット・デメリットのようなものを感じながら作っているわけではないですね。むしろ、言語や文化の違いを越えて、どういう映画を撮りたいかというその思いが共通できていれば、そのような障壁は越えて、一緒に映画が作れる。今は期待を持っています。使っている言語や背景にある文化が同じでも、作りたいと思っている映画が共有できない時には、決していい映画はできませんし、同じ価値観を共有していれば越えられるものだと思います。ただ、今回の『万引き家族』の中で、親子が“川の字で寝る”という描写があるのですが、「川の字で寝る」という、私たち(日本人)にとっては幸せの象徴ですが、そういう描写が今回(新作)の中にあった時、フランスの方から、「なぜこの子は一人で寝ないのか?」と(言われて)。必ずしも、「親子が川の字で寝ること」が幸せの象徴ではないというようなことに直面すると、面白いですね。じゃあどういう形で家族を寝かせるのか、というところから組立てなおさないといけないから、そういうところは一つ一つのシーンの中で、受け取られ方が全部違うんだなあということが、今、面白く経験しています。


──監督&リリーさん、4回目のタッグだが、お互いの関係はどういうふうに変わってきたか?


リリー:最初にお会いしたのは、是枝さんが最初の作品を撮った頃で、僕は是枝さんのファンだった。だから今でも会うと照れくさくて、今でももじもじしてしまう所は変わっていないですね。俺たちが、今ここでもじもじしている、変な関係だと思われるね(笑)


是枝:色々なものが(リリーさんとは)近い。年齢が近いということとは別で、何かこう、芝居に関してもですし、日々生きていて感じている何か、こういうことはしない、とか、こういうことは恥ずかしいなとか、そういう部分がかなり共有できているという印象を持っているので、その信頼感はあります。なぜ子どもとのシーンがこんなに上手いのか、というのは正直わからなのですが、僕がこのシーンでどういう表情を引き出したい、とか、リリーさんも100%分かった上で画面の中に存在してくれている。それは本当に安心感がありますね。


リリー:是枝さんが、この映画に呼んでくれた理由は、「せこい男をやらせたらリリーさんが一番うまいんだと(笑)」。


是枝:ちょっとニュアンスが違うんですが、リリーさんは極悪人も似合うんだけれど、すごく小さいせこく悪いことをやっているリリーさんが僕はとっても好き。


リリー:でも次回作のフランスの作品には、僕はキャスティングされていないので、来年の、サン・セバスチャンは、プライベートできます。


──監督の映画は国境なき映画といえる。どの国でも共通点がある。子どもや家族について、東洋も西洋もなく観れる。監督もそう思うか?


是枝:インターナショナルなテーマを求めて作っているわけではない。きっかけは、『歩いても歩いても』をここで上映したとき。観客と関係者が「画面に映っている母親は、自分の母親だ。何で自分の母親を知っているんだ」と何人にも言われた。僕は、「あれは、自分(監督)の母親なんだ」という話をしたが、自分にとって非常に切実でリアルな人物を掘り下げていけば、それがそのまま普遍性を持つという経験を、作品を通してした。万国共通のテーマを外に探すのでなく、今の時代を、時間を、きちっと生きて感じて、その強さを持ったモチーフを作品にしていけば、これはどこの国でも伝わるんだろうな、という実感を持ったので、それからは、広さより強さを意識して作っています。


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