「らいおんず十万石まんじゅう」は「もみじ饅頭」に勝てるか?

9月25日(金)12時0分 文春オンライン

 正直言って、いちライオンズファン、そして、味噌汁からコーヒーゼリーまで、飲食について書き綴ることを職業とする者として、埼玉西武ライオンズのロゴやチームカラーがさりげなくあしらってあって、ちょっとした手土産として人に渡せるようなお菓子を、これまでにほとんど見かけないことに、不満はあった。


 たとえば、巨人なら、ナボナ。オリックスなら、マダムシンコ。そういう、球団と固い絆で結ばれた、地元のお菓子がなかった。


 たとえば、私の夫はカープファン。彼はそんなしょんぼりした気持ちになったことはないだろう。カープ坊やをあしらったパッケージに包まれた広島銘菓のもみじ饅頭はもちろん、「カープの鯉人」、「カープからす麦クッキー」、「広島東洋カープ野球カステラ」などなど、しょっぱいところでいうと「カープかつ」もあったりと、挙げていくときりがない、うらやましいかぎりである。


ライオンズとおまんじゅう、といえば…


 対するライオンズはというと、埼玉に本拠地を置くスーパーマーケット、ヤオコーで売られている「ライオンズバナナ」くらいしか思い浮かばず、果たしてバナナはおやつ、もとい、お菓子といえるのかという疑問は残る。


 埼玉を離れ、たっぷりした大きさ、ほわっとした皮のどらやきで有名な、浅草雷門前の和菓子屋『亀十』は、十亀剣投手が、結婚式の引き菓子を注文した店としてファンのあいだではつとに知られている。さりながら、それはどちらかというとライオンズというチーム全体ではなくて、十亀個人のファンのためのお菓子といったほうがふさわしい。


 さて、埼玉に戻って、この土地の銘菓といえば、草加煎餅、「彩果の宝石」、そして「うまい、うますぎる」というキャッチコピーで知られる「十万石まんじゅう」。


 余談だが、このキャッチコピーは、版画家・棟方志功が十万石まんじゅうを食しての感想をそのまま使っている。1979年からテレビCMがはじまり、このフレーズが埼玉県内に染み渡ることとなったという。


「十万石」のロゴの入った定番のほかに、浦和レッズ、地元である行田を舞台としたテレビドラマ『陸王』などの焼印を押されたものも発売されている。なので、売り場の前を通りがかる度に、あれ、ライオンズは? と、もどかしい思いを抱いていたことは否めない。


 今夏、ついに「L」「I」「O」「N」「S」の五文字が入った「らいおんず十万石まんじゅう」が売り出された。



らいおんず十万石まんじゅう ©木村衣有子


 ライオンズとおまんじゅう、といえば、2015年のファンクラブ会報に掲載された、おかわり君こと中村剛也選手の「俺のまんじゅう知らん?」事件をまず思い出すファンも少なくないはずだ。その後、同じく会報上で、実際はおまんじゅうではなく「ごま大福」だったことが判明した。おかわり君にとっては、あんこが皮で包まれている常温の丸いお菓子はみんなおまんじゅうなのかもしれない、と思う。


もみじ饅頭vs十万石まんじゅう


 十万石まんじゅうは、おまんじゅうはおまんじゅうでも、薯蕷(じょうよ)まんじゅうだ。


 他のおまんじゅうと一味違うところは、こしあんを包む皮の生地には、すりおろした山芋が使われている。そのおかげで、皮がしっとりと仕上がっており、なめらかで香りのよいこしあんとよく調和している。とても和菓子らしい、静かな味。


 ご参考までに、薯蕷まんじゅうそのものは、埼玉独自のお菓子というわけではなくて、日本全国津々浦々、つくっているお店は数多ある。たとえば、東京は新宿の『花園万頭』の店名どおりの名物も、輪郭も十万石まんじゅうに近い、小判、あるいは繭の形の薯蕷まんじゅう。あらたまった席にもふさわしいとされている、比較的、よそゆきの顔をしたおまんじゅうである。和菓子製造技能士1級の実技試験ではこれをうまくつくれるかどうかが問われるそうだ。


 とはいえ、十万石まんじゅうのお値段はそんなに張らない。つまり、手土産としてはユーティリティープレイヤー。どこに持っていったとしても、胸を張って先方に手渡すことのできるお菓子である。そう、どこに移籍しても成績を残せる選手のような。そういう意味でいうと、銀仁朗は薯蕷まんじゅうっぽい選手だったなあ、などと、これ以上想像を広げるのは、ライオンズファンとしては寂しい気持ちになるからやめておくとしたい。


「らいおんず十万石まんじゅう」を小皿に載せて夫にすすめると、「もみじ饅頭に比べると、地味、玄人好みだね。そういう意味ではライオンズっぽいんじゃない?」と感想を述べてにやにやしている。そして「もみじ饅頭のほうが大きいよ」と言う。そんなことはない、少なくとも、あんこはこっちのほうが多く入っているはず。


 味わってみた夫は、こちらの主張を認めた。


「あんこは多いね。あんこ食わせる菓子だ。森(友哉)君みたいだね、小さくてもぎゅっと詰まっている感じ。今年は打撃不調みたいだけどね」


 一言多い。まあ、仕方ない、今年のカープファンはやさぐれているのだから。


狭山茶に感じるライオンズブルー


 お菓子の傍らにあってほしい飲み物、日本茶の話もひとつ。


 メットライフドームにて、茶摘み娘を模した衣装を身にまとった狭山茶の売り子さんから緑茶を買ったこと、ありますか? 少なくとも、見かけたことはあるでしょう。


 そう、埼玉は関東随一の茶所。その、狭山茶の産地は、西武線に沿って広がっている。狭山茶の栽培地域とライオンズファンの分布図はぴったり重なるといっても過言ではない。


 それに、実は日本茶はライオンズに寄り添ってくれる飲みものなのだ。


 「いいお茶のことを、お茶農家は『青い』って言うんです」


 !


 私の友人Iさんが、 狭山茶について書いた記事 の中に見つけた、驚くべき一文である。


 Iさんは、入間市にて茶の木を育て、葉を収穫し、蒸して揉んで乾かしてお茶として売るところまでを取材をしに行った。お茶農家の四代目となる青年の言葉には「優れたお茶って、茶葉や水色(すいしょく)の緑色の中に、ほんのり青みがあるんですよね」とも、ある。これから緑茶を淹れるとき飲むときはぜひとも、その中にレジェンドブルー、ライオンズブルーを見付けるべく、目を凝らしてほしい。


 ちなみに、狭山茶というのは品種の名ではない。あくまでも、栽培されている地域を指す。個性のひとつとしては、葉が厚めに育つこと。茶産地としては比較的気温が低いゆえ、そういう風に育つとのこと、寒夜に人が分厚い布団にくるまりたくなるのと同じだそうだと、Iさんは教えてくれた。そんな季節に入る前に、山賊打線が爆発する夜を幾度迎えられるだろうか。


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(木村 衣有子)

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