森喜朗氏がいまだにキングメーカーとして影響力を及ぼす理由

9月26日(火)7時0分 NEWSポストセブン

平成史について語り合う佐藤優氏(左)と片山杜秀氏

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 平成時代の総理大臣といえば、史上最低の支持率に苦しんだ森喜朗政権が国民に政治不信を植え付けたことが記憶に残る。「神の国発言」やえひめ丸の事故の際、ゴルフをしていたことなどが批判の対象となった。作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が当時を振り返った。


佐藤:森喜朗というとサメの脳みそ、ノミの心臓というイメージで語られますが、実際は非常に精緻な思考をする人で常に温厚、そしてとてもよく勉強している。


会談でも条約文や事実関係の日付、統計上の数字、固有名詞のカードを作る。基本的にはアドリブですが、大事な部分はカードで確認するから絶対に間違えない。実はロシアのプーチンもこのスタイルとまったく同じ。 我々外交官にとっては、森さんのやり方がベストでした。事実、森内閣では様々な交渉が動いた。


片山:なるほど。そう伺うと、森喜朗はやはり早稲田大学雄弁会出身の政治家という気がしますね。アドリブを重んじるが、細かいところはよく確かめる。学生弁論の基本ですから。事実関係を間違えると野次り倒されるので、慎重さが身につきます。


 しかし、サービス精神も旺盛ですので、舌禍事件も起こしやすい。それが学生弁士根性というやつです。私も雄弁会のライバルの慶應義塾大学弁論部なので、雄弁会の気質は多少知っております。


 すると、森さんの前の総理大臣たちは、外交の場では、森総理とはまた違ったやり方で、会談に臨んでいたわけですね。


佐藤:それぞれにスタイルが違っていた。小渕恵三さんはひたすら下を向いて紙を読む。だから会談録は完璧なんだけど、相手の心は掴めない。真逆なのが橋本龍太郎さん。すべてアドリブだから人間関係の構築はうまい反面、よく間違える。


片山:それは危なっかしい。森内閣は蜃気楼内閣と揶揄されましたが、いま振り返れば、大きな失点があったわけではないですね。しかし2001年2月に起きたえひめ丸沈没事故の対応や失言で支持率が一気に下がり、退陣に追い込まれてしまった。


佐藤:冷静に考えれば、えひめ丸は事故だから、危機管理の問題ではなかった。逆に言えば、決定的なミスを犯していないから潜在力を残して、いまだにキングメーカーとして影響力を及ぼしているわけです。


●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。


●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。


※SAPIO2017年10月号

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