負け続けた“天才”…ジャルジャルが「キングオブコント制覇」に13年もかかった理由

9月28日(月)12時10分 文春オンライン

 第7世代芸人の活躍、ネタ番組の増加、YouTubeで活躍する芸人の急増など、近年のお笑い界はなかなかの盛り上がりを見せている。


 9月26日にTBSで放送された『お笑いの日2020』は、そんなお笑いブームの過熱ぶりを象徴するような特番だった。8時間の生放送で大型のネタ番組企画が立て続けに行われた。その中でも目玉企画となっていたのが、今年で13回目を迎えるコント日本一を決める大会『キングオブコント』だった。


 だが、今年の大会はいつになく厳しい状況の中で行われることになった。その原因は世界中の人々を悩ませている新型コロナウイルス感染症の脅威である。


逆境の中でのコンテスト


 コロナの影響で毎日当たり前のように行われていたお笑いライブは軒並み中止になり、なかなか公演は再開しなかった。ようやく再開するようになってからも、公演数が少なかったり、客席数が減らされたりしていた。

今年は、芸人が人前でまともにネタを演じられる機会が極端に少なかったということになる。


 例年であれば『キングオブコント』に向けて芸人たちはネタを磨いている。何回もライブでネタをかけて、観客の反応を見ながらネタを調整していくという過程がある。



優勝したジャルジャル ©AFLO


 だが、今年はどの芸人もそのプロセスを踏むことができなかった。そのため、全参加者が例年ほどは磨き上がっていないネタで勝負せざるを得ない状況に追い込まれた。


やむなく予選を辞退するコンビも


 さらに、直接ウイルスに感染したり、感染の疑いがあったりするために、予選に出場できなくなる芸人も出てきていた。例えば、今年7月の『ABCお笑いグランプリ』で優勝を果たし、『キングオブコント』でも活躍が期待されていたコウテイは、感染者との濃厚接触が疑われたために予選を辞退していた。


 そんな踏んだり蹴ったりの状況の中で、何とか開催にこぎつけた、というのが今年の『キングオブコント』の実態だった。正直なところ、一お笑いファンとしては「開催されるだけでありがたい」という心境だった。


“天才コント芸人”がつかみ損ねていたタイトル


 もちろん、例年ほどコンテスト仕様にネタが磨き上げられていないとはいえ、厳しい予選をくぐり抜けたファイナリストのコントが面白くないはずはない。決勝はいつも通りの盛り上がりを見せていた。


 そんなコロナ禍の中で行われた波乱の大会を制したのは、コントの達人として名高いジャルジャルだった。彼らは『キングオブコント』が始まった2008年から毎年出場していたが、一度も優勝できていなかった。13回目の挑戦でようやく栄冠を手にした。


 ジャルジャルは若手の頃から天才的なコント芸人として業界内では有名だった。黒のTシャツにベージュのパンツという揃いの衣装を身にまとい、ほかでは見られないような独自の切り口のネタを演じていた。


 その才能が評価され、大阪のお笑いコンテストを一通り制覇した後は、『爆笑レッドシアター』『めちゃ×2イケてるッ!』などの全国ネットの人気番組にもレギュラー出演して、日本中にその名をとどろかせた。これまで芸人として数々の栄光を手にしてきた彼らが、唯一つかみ損ねていたものが『キングオブコント』のタイトルだった。


1日1本ネタを作る「コントマシーン」


 ジャルジャルという芸人の特徴は「コントマシーン」の一語に尽きる。彼らのネタ作りと演技は機械のように精密である。年に2回の単独ライブのために年間300本はネタを作っているという。およそ1日1本という驚異的なペースだ。


 単独ライブでは、その中からよりすぐりのネタだけを披露していたのだが、2年前からはそこで見せていなかったボツネタを「ネタのタネ」と名付けて、YouTubeチャンネルで毎日公開するようになった。これによってチャンネル登録者数も順調に伸びていき、彼らは人気YouTuberの仲間入りを果たした。


 そんな彼らが今年の決勝で披露した1本目のコントは「野次ワクチン」。競艇場での初めての営業を控えて、後藤淳平が演じる新人歌手が楽屋で緊張している。そんな彼のための練習として、福徳秀介が演じる事務所の社長が、歌っている彼に次々に心ない野次を浴びせていく。社長は歌手のために野次を飛ばすことを「野次ワクチンを射つ」と表現する。


 歌手が歌い始めると、すかさず社長が野次を入れる。野次の内容があまりにも真に迫っているので、歌手が思わず歌を止めて社長に話しかけると、練習なんだから何があっても歌を止めるなと怒られる。そのやり取りが延々繰り返される。


「完全に今回は獲りに来てますね」


 1つのネタの中で同じ流れを何度も繰り返すのは、ジャルジャルが得意とするパターンだ。このネタでは、同じ流れの中で事態がどんどん発展していく。そのため、雪原で雪玉を転がして大きくしていくように、ネタが進むにつれてどんどん笑いが大きくなっていく。


 社長が何度も歌を止めるなと怒るところが笑いのポイントなのだが、見ているうちにそれ以外の部分でもずっと笑いがこみ上げてくるような感覚に陥る。歌が効果的に用いられているため、見る人がネタの世界観に自然に引き込まれていく。


 この1本目のネタを評して、審査員の1人である松本人志は「ジャルジャルは完全に今回は獲りに来てますね。マニアックすぎるネタをちょっと落としてきて。割と今回わかりやすくて面白いのをちゃんと持ってきたね」とコメントした。


 これまでのジャルジャルのネタの中には、同じ流れを繰り返すだけで終わるようなものもあった。2010年の『キングオブコント』決勝で披露した「おばはん」とひたすら連呼するネタなどが代表例だ。その手のネタは、あえて1つのフレーズで押し切っているところが玄人ウケする要素ではあるのだが、大衆ウケという意味ではやや物足りないところがあった。


“ありえないけどリアル”だった2本目


 今回のジャルジャルはその弱点を自ら克服するようなネタを演じた。後半に進むにつれて右肩上がりに盛り上がっていく仕掛けを作ったのだ。それによって高得点を獲得して、決勝ファーストステージを1位で通過した。


 彼らが2本目に披露したのは「空き巣タンバリン」。先輩・後輩の2人組の空き巣がオフィスに忍び込んで金庫を開けようとするのだが、後輩の方がなぜかタンバリンを持ってきている。絶対に物音を立ててはいけない状況で、その後輩は何度もタンバリンを鳴らしてしまう。


「静かにしなければいけない状況で大きな音を出してしまう」という笑いの取り方自体は、一昔前のコントでもありそうなほどオーソドックスなものだ。だが、ジャルジャルは「ありえないほど何度も鳴らす」という方向に極端に振り切ることで、自分たちの持ち味を出した。


 そのありえない状況にリアリティを与えているのが、頼りない後輩を演じる福徳の演技の上手さだ。この後輩はふざけて大きい音を出しているわけではなく、あくまでもうっかり音を出してしまっている。だから、音が出て先輩に注意されたときに申し訳なさそうな引きつった顔を浮かべる。そのキャラクターを表情ひとつで見事に表現していた。


 さらに、このネタはオチもきれいに決まっていた。コントにおいてオチは必ずしも重要なものではなく、かつてのジャルジャルのコントでははっきりしたオチがないものも多かった。だが、このネタでは明確なオチが用意されていた。


 大きな音を出しまくる後輩にあきれて、先輩は一度はその場を立ち去る。だが、すぐに戻ってきて「お前を置いて逃げるわけないやろ。こんなにかわいらしいやつ」と言って、2人で一緒に部屋を出ていく。何とも心温まるオチだった。


ジャルジャルに1つだけ足りなかった“パーツ”


 ジャルジャルは、そのネタと演技が機械のように正確無比であることから「人間味がない」と批判されることも多いコンビだった。


 コントの天才であるはずのジャルジャルが『キングオブコント』でどうしても勝ち切れなかったのは、そこにも原因があったのではないか。機械的な展開や投げやりなオチのせいで、人間味がなくて物足りないというふうに思われていたかもしれないのだ。


 私は、2本目のコントのオチを見て、あのジャルジャルがついに「人間味のなさ」という欠点を克服した、と感じた。短いネタの中で、空き巣の2人の普段の関係性や、お互いをどう思っているのかということが自然に伝わってきた。


 コントを演じるために必要なすべての部品を揃えていたはずの「コントマシーン」ジャルジャルには、1つだけ足りない「人間味」というパーツがあった。そのパーツを補ったことで完全無欠のコントマシーンとなった彼らは、悲願の優勝を果たしたのだ。


(ラリー遠田)

文春オンライン

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