加藤秀俊「65年間二人三脚で歩んだ妻の死。いい聞き手で話し手だった彼女に向けたラブレター」

9月30日(木)8時30分 婦人公論.jp


加藤秀俊さん(撮影:本社写真部)

社会学者の加藤秀俊さんが、亡き妻と過ごした65年間の思いを綴った一冊を刊行しました。もともと発表するつもりはなく、お世話になった方々に配ろうと書き始めた本だったそうですが——。(構成=本誌編集部 撮影=本社写真部)

* * * * * * *

私小説であると同時に世相史として


2019年9月のある朝、長らく患っていた心筋症の発作で妻を亡くしました。没後の区切りはすべて記念日でしてね。四十九日は文化の日。そして百か日はクリスマスでした。法要を終えたあと一区切りついたような思いになり、その日の晩からパソコンに向かって、原稿を書き始めました。

どこに発表するというあてもありません。自費出版して、お世話になった方にお配りしようか、と考えていたのです。思いがけず、長い付き合いの編集者が「本にしましょう」と言ってくれて、『九十歳のラブレター』という一冊にまとまりました。刊行後みなさまにお送りしたところ、お手紙をたくさんいただきまして。届くたびに、妻の仏前に積んでいます。

わたしと妻は幼なじみ。知り合ったのは、東京・青山にある小学校です。大学入学後に下北沢の駅で再会してからは恋人どうしになり、65年間、二人三脚で歩んできました。わたしたち夫婦の結婚生活は、戦後日本の家庭像がたどった変化と重なっているように思います。この本は、妻の思い出を綴る“私小説”であるとともに、昭和から平成に至る“世相史”としても読めるように書いたつもりです。


加藤秀俊『九十歳のラブレター』新潮社1650円

彼女の席の前には花を絶やさない


本を読んでくださった方から、「昔のことをなぜここまで詳細に覚えていらっしゃるのですか」と驚かれるのですが、社会学者という職業柄か、日記を書くまでもなく頭の中にすべて記憶しているのです。いい聞き手であり、話し手でもあった彼女の言葉は今でもすぐに思い出せます。

花鳥風月を愛していた妻は、なかでもベゴニアに熱を入れ、わが家の庭でさまざまな種類を育てていました。20年前にこの家を建てたときは、そのためのサンルームを作ったほど。今はわたしがその世話を引き継ぎました。手入れや品種についてずいぶんと詳しくなりましたよ。彼女がいつも座っていたダイニングテーブルの席の前には、花を絶やさないようにしています。

古希を迎えたころからは、体力がひどく低下した妻にかわってわたしが台所に立つようになりました。もともと料理はできなくはなかったし、レシピを調べてその通りに作るのは楽しくてね。「おいしい」と言われると、それは嬉しかった。

妻が亡くなってから、近くに住む子どもたちが毎日メールや電話をくれるようになり、全国各地にいる教え子たちとZoomを使っておしゃべりをしています。コロナ禍で外出の機会は減りましたが、悪いことばかりではないな、と思っています。



婦人公論.jp

「妻」をもっと詳しく

「妻」のニュース

「妻」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ