加藤剛 「舞台は歩くに始まり、歩くに終わる」と教えられた

10月1日(日)7時0分 NEWSポストセブン

加藤剛が俳優座養成所で学んだ時代を振り返る

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、1970年から約30年もの長い間、『大岡越前』を演じた俳優・加藤剛が、演劇に惹かれ、俳優座養成所で学んだ芝居について語った言葉を紹介する。


 * * *

 加藤剛は1956年に早稲田大学に入学、役者としてのスタートはそこでの学生演劇だった。


「はじめから役者になろうとは思っていなかったんです。高校生の時に父の書棚にあったチェーホフの戯曲を読みましてね。読んでいるうちに白樺の林とか、ロシアの情景が自分の中でイメージできました。それで演劇の世界に惹かれていきました。


 芝居の仕事がしたいと思って早稲田の演劇科に進学して、自由舞台という学生劇団に入りました。最初は裏方をしていましたが、段々と役者をやるようになっていったんです。その時に先輩方から、舞台で役者がその人の人柄を生きるということを指導されたのですが、役の精神を生きるというか、心を生きるのは難しかったですね」


 その後、俳優座養成所に進み、本格的に役者への道に入る。


「俳優座養成所は先輩に勧められて入りました。役者になるということを決意や決心したということはなかったんですよね。ただ続けていたというだけで、結果的にそうなったんです。


 養成所では、先輩たちの稽古場を外からですが見られたのが勉強になりました。千田是也さんや三島雅夫さんといった大先輩に、仲代達矢さんや平幹二朗さん。ですから教えてもらうというより、先輩たちを実際に見て、どうやって表現していくかということを学びました。


 ただ、いちばんよく観て学んだのは、よそになりますが劇団民藝の滝沢修さんです。特に言い回しですね。せりふがお客様の心の中に非常に快く入っていくような、そういう喋り方や抑揚とか、魅かれましたね。影響を受けています」


 養成所を卒業してからは、俳優座に所属している。


「俳優座では初めての舞台から重要な役をいただきました。千田是也先生演出の作品が多かったですが、先生は厳しかった。


 芝居の流れの中でのリズムを大事にされていて、そこが違うと足で床を叩いて『違う!』とおっしゃる。それが怖かったですね。特に大事にされていたのは物言いのリズムで、セリフの語尾を伸ばさないでハッキリ分かるようにしないといけない。


 それから、三島雅夫先生には『舞台は歩くに始まり、歩くに終わる』と教えられました。舞台でずっと自然に歩けるようになることが、まず役者としての基本だということです。役柄によって歩き方が違ってくることがありますし、心の中の動き方が変わっていくのに従って歩き方も変わっていきますから。


 それから、その役柄がどういう生活をしてその場面に出ていくことになったのか。舞台に出てから始まるのではなく、その前の時点でその役柄がどんな動きをしてどんな生活をしていたのかを考えて表現するようにも教わりました。その場面に出る前にどんな生活をしていたのかも、舞台の上で体に出てくる必要がある。つまり、舞台の上でその役柄が生きるということは、出る前もその役として生きていなきゃいけないということなんですよね。そういった役としての奥行きも、役者は表現しないといけないと思っています」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。


■撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2017年10月6日号

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