今秋注目“下克上”映画「侍タイ」「最後の乗客」自主製作→全国公開 2作出演俳優が語る両作の共通点

2024年10月1日(火)7時15分 スポーツニッポン

 【インタビュー】映画界では今秋“下克上”が話題だ。低予算、少人数で製作した自主映画2作品が評判に後押しされて全国公開となった。1館の上映から封切りわずか1カ月余りで全国140館近くにまで広がり「第二のカメ止め」と注目される「侍タイムスリッパ—」(監督安田淳一)、海外の映画祭で多数の賞を受け日本へ凱旋上映が11日から始まる「最後の乗客」(監督堀江貴)だ。両作品には、俳優・冨家ノリマサ(62)が重要な役どころで出演している。この快挙をどう受け止めているのか。(鈴木 美香)

 「共通しているのは“思い”です。脚本がものすごく良くて、これを作品に作り上げたいという“熱い思い”が現場にありました。人数も少ないからこそ、結束も固かった。そういった作品がこのように人の心に届くのはうれしいですね。あまりにもうれしいので、調子に乗らないように気をつけようと思うほどです(笑)」

 「侍タイムスリッパ—」は主演・山口馬木也演じる幕末の会津藩士が、宿敵の長州藩の武士と刀を合わせたところで雷鳴が響き、目を覚ますと、現代の時代劇の撮影所にタイムスリップ。21世紀にやってきた侍があまりの生活の違いに戸惑ってドタバタを起こしながらも、斬られ役の俳優として第二の人生に向き合う姿を描く。涙あり、笑いありの展開に、映画館では連日、爆笑と拍手が起きている。

 冨家は主人公とかかわる現代の大スターとして登場。自身は1983年にNHK連続テレビ小説「おしん」でデビューし、その後、NHK大河ドラマ「徳川慶喜」(98年)、「功名が辻」(06年)などに出演。殺陣にも定評があり、さまざまな時代劇で引っ張りだことなっているほか、ドラマ、映画、舞台で活躍。最近でもテレビ東京4月期「君が獣になる前に」、7月公開映画「愛のぬくもり」などに出演する、人気・実力ともに持ち合わせたベテランだ。

 「監督が車を売るというイマドキないような方法で製作費をねん出してまで作りたかった作品。脚本を読んでどうしても出演したいと思いました。東映京都撮影所の方々が“自主製作で時代劇なんて無謀だけれど、面白いからなんとかしてあげたい”と手弁当で協力してくださり、職人の心意気でものすごいクオリティーのものができました。演じる方としても、山口さんの朴訥(ぼくとつ)とした雰囲気が主人公にピッタリでこれはすごいものになると思った。手応えのある作品でした」

 自主映画の聖地・池袋シネマ・ロサ(東京都豊島区)1館で8月17日に上映が始まると、鑑賞後に多数の絶賛の感想がSNSに書き込まれ、公開が1カ月余りで全国140館に広がった。同じく池袋シネマ・ロサからスタートして社会現象を巻き起こした「カメラを止めるな!」の再来と言われ、今秋のヒット作となっており、冨家も「映画館に足を運んで笑って泣いていただいている。エンタメの一番素敵なところを感じる作品になっていますね」と勢いを感じている。

 公開を控える「最後の乗客」は仙台市出身の堀江貴監督が東日本大震災から10年の故郷への思いを収めようと自主映画のクラウドファンディングを募り製作された作品。仙台の1館で劇場公開が始まり、その後世界各国の映画祭に出品。米サンディエゴ芸術映画祭で最優秀インデペンデント映画賞、カンヌ世界映画祭の低予算部門で最優秀インディペンデント映画、米国で開催された「グローバル・ノンバイオレント映画祭」で最優秀賞含む5冠を受賞するなど、多数の海外の映画祭で受賞やノミネートされて評判を呼び、日本で全国凱旋上映が決まった。

 岩田華怜とのダブル主演。物語は、タクシードライバーの間で「深夜、人気のない歩道に立ちずさむ女」の噂話がささやかれる中、ハンドルを握っていた、冨家演じる運転手がある夜、噂の歩道で手を挙げた女性を乗せて走り出すことから始まる。すると、母娘が車の前に飛び出してきて、どうしても乗せて欲しいと言い、結局、乗客3人を乗せて走り出したタクシー。秘密を抱えた4人がたどり着いた目的地で予想外の結末を迎える。ミステリー要素も存分に漂わせつつ、涙あふれるヒューマンドラマとなっている。

 「家族を描いた普遍的なお話ですが、物語の途中で見えているものが一変する驚きがあります。デジタル化した現代社会だからこそ、人と人が接するぬくもりが世界共通であらためて感動を呼んだのではないかと思います。コロナ禍でいったん撮影が中止になって心配したのですが、こうしてたくさんの方に届いて万感の思いです」

 冨家は撮影に入る前、東北の被災地に足を運び、慰霊碑に刻まれた多数の名前に手を合わせた。「覚悟を決めてやらないといけないと思いましたし、いろいろなことを感じました」。振り返る目には熱いものが光る。「監督が最後はエールを送るようなものにしたいとおっしゃっていて、そのような光の見える作品になったと思います」

 2作の話題作への出演は俳優仲間にもうらやましがられている。「侍タイムスリッパーに“一生懸命頑張っていれば、誰かがどこかで見ていてくれる”というセリフがあるのですが、この2作はまさにその通りになった作品です。俳優としてとても幸せ。たくさんの方に見ていただき、さまざまなことを感じてもらえたら」。冨家の熱い思いもきっと届く。

スポーツニッポン

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