柳家喬太郎が披露 ほろ苦く懐かしい千葉雅子作『マイノリ』

10月2日(金)7時5分 NEWSポストセブン

甘酸っぱく、ほろ苦い『マイノリ』が心に沁みる(イラスト/三遊亭兼好)

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、初演から9年が経った今年8月にまたしても出会った千葉雅子原作の柳家喬太郎『マイノリ』についてお届けする。


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 柳家喬太郎は2011年7月8日、女優・脚本家・演出家として活躍する千葉雅子(劇団「猫のホテル」主宰)と初めての二人会「キョンちば」を紀伊國屋サザンシアターで行ない、千葉雅子が書き下ろした新作落語『マイノリ』を初演した。1980年代初頭にアルバイトの面接会場で出会った日大落研の青年と國學院演劇研の女子大生が“友達以上、恋人未満”として青春を共に過ごし、互いを意識しながら落語家と女優として別々の人生を歩んでいく物語だ。


 その後、喬太郎と千葉雅子の二人会は「きょんとちば」と名を変えて2015年6月24日に紀伊國屋ホールで行なわれ、喬太郎は千葉雅子作の『サソリのうた』を初演。

さらに2017年7月10日にも「きょんとちば」は紀伊國屋ホールで開催され、喬太郎は千葉雅子作『秘境温泉名優ストリップ』をネタおろししている。この2作も素晴らしかったが、1980年代に大学生活を過ごした僕にとって『マイノリ』は別格の存在だった。


 昨年11月、喬太郎は高座生活30年を記念して下北沢の「ザ・スズナリ」で全30公演の「ザ・きょんスズ30」を行なった。各公演で様々なゲストが登場した中、27日に招かれたのは千葉雅子。喬太郎のネタ出しは『マイノリ』だった。チケット争奪戦は熾烈を極め、他の日は全滅だったが、最も行きたかったこの日だけは確保。8年ぶりに聴く『マイノリ』は甘酸っぱく、ほろ苦く、切なさと懐かしさが入り混じる複雑な感傷をもたらしてくれた。


 そして今年、8月21日に紀伊國屋ホールで「きょんとちばVol.3—マイノリ、ふたたび—」が開催され、またしても『マイノリ』に出会うことができた。


 同じバーで別々の日に一人で飲み、交わることなくそれぞれ思い出をマスターに語る現在の二人。互いに失恋し、挫折を味わい、夢を捨てられず落語家と演劇人の道に進み、付かず離れず生きてきた二人の様々なエピソードが、時を超えて語られる。


 本当の気持ちをぶつければよかったと悔やむ二人。若い頃はいつも一緒に泥酔するまで飲み、私鉄の中で寝過ごしては終点で共に朝を迎えた。そのエピソードが形を変えて“今の二人のこと”として描かれるエンディングは秀逸だ。挿入歌のように歌われる伊藤咲子の『乙女のワルツ』が胸に沁みる。


 酔いが回った彼らがマスターに向かって「一杯のお客さんの前で思いっきりやりたいよ。あいつも同じだと思う」と異口同音に嘆くのは、去年までにはなかった台詞。この台詞が“令和2年バージョン”だけで終わることを祈らずにはいられない。


【プロフィール】

広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。


※週刊ポスト2020年10月9日号

NEWSポストセブン

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