ブレイディみかこ「オンライン保護者面談は、できればもうやめてほしい」〈転がる珠玉のように〉

10月8日(金)13時0分 婦人公論.jp

ブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「オンライン面談に気をつけろ」。ブレイディさんの息子さんの学校でも、保護者面談がオンラインになり……。(絵=平松麻)

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教科ごとに違う先生との5分間の面談


コロナ禍になってから、他者とパソコンやスマホのスクリーン越しに会うことが常態化した。息子の学校でも、年に一度の各教科担当教員との保護者面談をオンラインで行った。これはリアルで行われるときには大変忙しいイベントだ。教科ごとに違う先生との5分間の面談の予約をネットで入れる。例えば、午後4時に数学の先生の予約を入れて、4時5分に歴史の先生と会って……、というふうに手動で行うこともできるが、けっこう面倒なので、会いたい先生たちを選んでクリックすると、できるだけ短時間になるよう(つまり次の先生に移るときの待ち時間がないよう)ソフトウェアが自動予約してくれる。

リアルで行われるときは、会場は学校のホールといくつかの教室だ。そこにずらりと机を並べて先生たちが椅子に座っていて、保護者が先生の間を移動する。で、同じホールや教室内に次の先生がいると楽だが、そうでない場合にはぜえぜえ言って走りながら教室やホールの間を移動する。この苦労を体験すると、多くの保護者たちは切れ目なく予約を入れてしまうソフトウェア任せにせず、各先生の間に5分とか10分の余裕を持たせるように自分で予約するようになる。そうなると、5、6人の会いたい先生がいる場合、どうかすると1時間半から2時間かかったりする。さらに、面談というものは遅れがちなので、1人の保護者との面談が2分長引いたとして、10人目の保護者のときには20分もの遅れが生じていることもざらだ。

「ハロー」と言って国語の先生が現れた


しかし、今回の面談では、そのような不都合はいっさい生じなかった。オンラインなので、移動する必要がないからだ。さらに、5分たったら画面が強制的に切り替わるので面談が遅延することもない。だから、いつもより多めの先生たちと会うことにして、自動で予約を入れてもらった。

当日、1人目の先生との予約時間にパソコンの前に座ると、

「ハロー」

と言って国語の先生が現れた。

お。と思った。背景が先生の自宅だったからだ。てっきり学校からやるのかと思っていたが、考えてみれば、大勢の先生たちが一斉に学校で面談を始めたら、ネット接続も切れ切れになるだろう。

しかし、びっくりしたのは、ふだんの服装やヘアスタイルなどは非常にコンサバな印象の国語の先生が、コンクリート打ちっぱなしみたいな壁に英国ロックの名盤アルバムのポスターを貼り、革のソファーにヒョウ柄のクッションを置いたりして、やけにファンキーな部屋に座っていたことだ。

国語の先生だけではない。学校が使っているシステムは、Zoomのように背景選択ができないらしく、マッチョで厳しいことで知られている男性教員の背景にパステルピンクのひらひらのカーテンが揺れていたり、白髪の初老の女性教員の部屋がオレンジの水玉の壁紙で、カラフルな50年代風のアンティーク家具が置かれてやけにキュートだったり、知られざる先生たちの一面を見た気になった。

「僕のこと、先生たち、なんて言ってた?」


そうなると妙に親近感が湧いて、「そのボウイのアルバムのポスター、超レアなやつですよね」とか「オレンジの水玉の壁紙ってどこに行ったら買えるんですか?」とかつい言ってしまい、先生たちも乗ってきて雑談をしている間に時が過ぎ、スクリーンの真ん中にカウントダウンの数字が現れる。

「5、4、3、2、1、0」

点滅する数字の背後で手を振っている先生たちの姿が見え、

「お話しできてよかったです」

「それでは、またお会いしましょう」

という声とともにブツッと映像が切れ、次の先生の顔がスクリーンに現れる。

すべての面談が終わった時間に、息子がおずおずと部屋に入って来て尋ねた。

「僕のこと、先生たち、なんて言ってた?」

「え」

そう言えばそういう話にならなかった、あなたの話は全然してない。とは言えないので、

「いい子だって言ってたよ。問題ないって」

と無難に答えた。しかし、息子はなぜかがっくりと肩を落としている。

「なんか僕って、ほんとに特徴のない、面白くないやつだよね」

い、いや、そんなことはない、例えばあの先生が……、と言ってやりたい気持ちは山々なのだが、先生たちから聞いた話といえば、むかし好きだったバンドのことや手作りのクッションがかわいい店の情報で、息子を慰めたくとも、その材料が出てこないのだった。

オンライン保護者面談は、できればもうやめてほしい。

婦人公論.jp

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