大阪桐蔭、常総学院ほか名門吹奏楽部 熱い指導者たちの素顔

10月8日(月)16時0分 NEWSポストセブン

甲子園のスタンドにはいつも選手を支える吹奏楽部が(撮影:藤岡雅樹)

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 9月末から行われている福井国体では、甲子園で2度目の春夏連覇を果たした大阪桐蔭が勝利を重ね、公式戦無敗で今年のシーズンを終える快挙を達成した。その大阪桐蔭は、野球部はもちろん、アルプスで選手たちの背中を押す吹奏楽部の素晴らしさでも知られる。同校をはじめ、吹奏楽部の指導者は熱い先生たちばかりだという。ある吹奏楽部員の短い人生を描いた『20歳のソウル』著者で脚本家の中井由梨子氏が、吹奏楽作家として知られ、吹奏楽に関する数々の著書もあるオザワ部長に「吹奏楽部の先生たちの特徴」について聞いた。


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 茨城県の常総学院は言わずと知れた高校野球の名門校だ。その常総学院は、吹奏楽部でも全国的に有名になっている。オザワ部長によると、「もともと、野球部を甲子園に行かせたい、その応援のために吹奏楽部を作ったらしいのですが、指導する先生方は『吹奏楽部も、必ず野球部と肩を並べる全国レベルの部活にしてみせる!』と燃え、名門にまでなったのです」という。


 吹奏楽部の指導者って、みんな熱い人ばかりなのか?


 わたしは今夏、縁あって『20歳のソウル』という本を上梓させていただいた。市立船橋高校の吹奏楽部で同校の応援歌『市船soul』を作曲した浅野大義さんが題材だ。その浅野さんは、2017年1月、がんのため短い生涯を閉じた。享年20。彼の告別式には、市立船橋高校吹奏楽部OG・OB164人が集まり、この『市船soul』を演奏。たったひとりのために集まった、たった一度きりのブラスバンドだった。その小さな奇跡をきっかけに取材を重ねる中で、吹奏楽部の素晴らしさを知った。


 その取材でお世話になった市立船橋高校の高橋健一先生の熱さにも圧倒された記憶がある。オザワ部長の著書『一球入魂! 一音入魂!』を読んでも、とにかく吹奏楽部の指導者の方々の熱量がすごいのだ。


「確かに、吹奏楽部の顧問はみなさん熱いですね。例えば大阪桐蔭の吹奏楽部の指導者は、は梅田隆司先生。コンサートに行くと度肝を抜かれますよ。コンサートって、普通は曲目が決まってそれに沿ってやっていきますよね。ところが梅田先生は、当日に変えちゃったりする。それも急に『前にやったミュージカルをやろう』と言い出したり……踊りも歌もあるんですよ(笑)。観客に好きな曲を選ばせることもあります」(オザワ部長、以下同)


 50曲の中から好きなものを選んでもらうらしく、それはつまり50曲分のレパートリーを生徒がすべて頭に入れていなければいけないということだ。


「梅田先生は、『コンクールは演奏のクオリティを上げる手段であって、目的ではない』と常々話されています。部活というとコンクールで成績を収めることが目的の中心になりがちですが、梅田先生の考えでは、他校と競うことはあくまで演奏のクオリティを上げるための活動ということ。そこで培った技術をコンサートや野球応援で多くの人に披露することが、彼らにとって大切なことなのです」


 コンクールは通常55人しか出場できない。けれど、そのためには全員で練習し、全体のレベルが上がる。そして野球部の応援は全員でできるし、何万人もの観客に聴いてもらえる。応援をしながら音楽をする喜びを味わえる場という意味で、野球応援での演奏は特別の意味があるのだ。


「千葉県の名門・習志野高校の石津谷治法(いしづや・はるのり)先生もとても面白い先生です。ユーモア満点でエネルギッシュな語り口調が印象的な方。『東関東大会の前は緊張と悪夢で一週間眠れない』といったことを、言葉とは裏腹に嬉しそうに話されていました。名門校の先生には独特のプレッシャーがあるのだと思います」


 吹奏楽の経験がないのに名指導者となった人もいる。



「吹奏楽の顧問は音楽科と思われるかもしれませんが、ほかの教科を教えている先生がたくさんいます。市立船橋の高橋健一先生もそうですね。吹奏楽経験がないのに、吹奏楽に魅了されて指導者になられた。プロの指揮者に弟子入りまでして、顧問5年目には全国大会金賞にまで導きました」


 では、吹奏楽の魅力とはなんだろうか。オザワ部長は「管楽器が主体だからだと思います」と断言した。


「演奏者の吐く息がそのまま音になるのが管楽器です。人間にとって息は命と同じ。命がそのまま音になって届けられるのが吹奏楽。奏者の感情や心がより伝わる演奏形態だと思います。特に、高校生たちの演奏は若い命の力が音楽に乗って、聴く者の心を震わせるのです」


 楽しさ、面白さ、仲間との共感、葛藤も悔しさも、彼らの想いすべてが演奏の中に溶けだし、格別な感動があるという。それが高校生活における吹奏楽の醍醐味とも言えるだろう。


 オザワ部長は吹奏楽部への取材を通して、「部活動は教育の一環である」ことを日々肌で感じているという。


「全日本吹奏楽コンクールなどの目標はあるにせよ、全国レベルの学校では結果がすべてだと思っているところはほとんどありません。『その過程に価値がある』との考えは、どの学校も共通していること。たとえ結果がついてこなくても、全国大会に出場できなくても、肝心なのは生徒たちの学びと成長。部活動を通してそれを教えることが教育であると、多くの先生は考えていると思います」


【プロフィール】

なかい・ゆりこ/1977年兵庫県出身。8月に上梓した『20歳のソウル』が話題を呼ぶ。劇作家・演出家・演技指導講師。1996年、神戸で旗揚げされたガールズ劇団・TAKE IT EASY!に座付き作家として入団。2005年に活動拠点を関西から東京へと移す。2010年、劇団中井組の座付き作家・演出家に就任し、2013年まで活動。2018年2月にmosaiqueを結成。


おざわぶちょう/日本でただひとりの吹奏楽作家。1969年生まれ。神奈川県横須賀市出身。県立横須賀高校を経て、早稲田大学第一文学部文芸専修卒。在学中は芥川賞作家・三田誠広に師事。『一球入魂! 一音入魂! 甲子園に響け!熱援ブラバン・ダイアリー』(学研プラス)など著書多数。吹奏楽CDのプロデュース・ライナーノーツ執筆、司会、講演など幅広く活動している。Twitterアカウントは@SuisouAruaru

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