ロウ・イエ&ジャ・ジャンクー最新作を特別招待「第25回東京フィルメックス」ラインアップ発表

2024年10月10日(木)19時0分 シネマカフェ

第25回 東京フィルメックス

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映画を通じて“世界”とつながる映画祭としての意義を発信し続けている「東京フィルメックス」。記念すべき第25回の開催を迎える今年のラインアップが発表された。

香港民主化デモをとらえたドキュメンタリー映画『時代革命』(第22回特別招待作品)の特別上映、いまや世界に名を知られた濱口竜介監督の初期作品『PASSION』(第9回コンペティション部門)や、気鋭の監督・奥山大史の『僕はイエス様が嫌い』(第19回特別招待作品)などをいち早く上映してきた「東京フィルメックス」。

オープニング作品は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映された『Caught by the Tides』(英題)に決定。ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであるチャオ・タオ演じる1人の女性の人生の約20年間を、彼女の元を去った1人の男性との関係を軸に描く。

また、今年の国際審査員を務める1人、ロウ・イエ監督の最新作『未完成の映画』も特別招待作品部門で上映。特別招待作品は11本を予定している。

◆コンペティション部門は、アジアの多様な10本の新しい風が吹く!
ジョージア、パレスチナ、インド、ベトナム、シンガポール、台湾、中国、韓国の8か国で制作された10作品がラインアップ。

タレンツ・トーキョー修了生監督のチャン・ウェイリャン監督『白衣蒼狗』やリン・ジェンジェ監督『家族の略歴』、ヨー・シュウホァ監督『黙視録』などが並び、10作品の内、6作品が長編監督デビュー作になっている。

◆メイド・イン・ジャパン部門、プレイベントとプログラムは目白押し
「メイド・イン・ジャパン部門」はタレンツ・トーキョー修了生監督による日本を含む3か国の共同制作を含む、4作品の国際共同制作を上映。いずれも才能が垣間見える長編デビュー作が集まった。

また、プレイベント「今だけ、スクリーンで!東京フィルメックス25年の軌跡」の開催も決定(期間:11月15日(金)〜11月21日(木))。2000年に「作家主義」を掲げて発足した東京フィルメックスにおいて、これまでに上映された500本の中から選りすぐりの作品を上映するとともに、本映画祭の四半世紀の軌跡をふり返る内容になっている。

映画祭メインビジュアルは、今年もIKKI KOBAYASHIが手掛けた。「映画の鑑賞中、わたしたちの表情は物語の進行とともに移ろいます。映画を観終わった後の表情も1人1人違うように、物語をわたしに投影しながら余韻に浸り、明日のことを考える人を描いています」という作者の思いと、開催から四半世紀を数え、ここまで<継続>してきた「東京フィルメックス」の意義を重ね合わせ、昨年から継続されたデザインに。

数々の才能が発掘されているプログラム「タレンツ・トーキョー」は今年で15回目を迎える。今年は11の国と地域から、17名が参加する。

◆メイン会場は「丸の内TOEI」へ!
今年のメイン会場は、例年使用していた「有楽町朝日ホール」から「丸の内TOEI」へと変更。長期的に映画祭体験を向上させるために必要なチャレンジとして、数年前から劇場での実施も模索してきた中で、今年は丸の内TOEIでの開催が実現。来場者にとってより良い<映画祭の体験>を生み出すための場づくり、今年の変化の相乗効果にも期待が寄せられている。

プログラム・ディレクターの神谷直希は、第25回を迎える今回について「全体的に、国境を超えて、越境しながら作っている作品が多いと言える。(物語だけでなく)国際共同制作が多いといったところからもそう感じている」とコメント。

東京フィルメックス・コンペティション部門のセレクションについては、「(ラインナップは)何処かで判断しないといけないため、その際にどこに基準を設定するかというのが出てくる。“この作品を招待するとコンペティションのレベルが上がる”というある種の基準になる作品が必ず出てくる。その作品を招待しても、それに匹敵する、コンペティションを競える作品が十分にあるか、と自問し、自分が納得できたところで、全体像を見ながらラインナップを決めた」とふり返っている。

オープニング作品
『Caught by the Tides』(英題) 中国
ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであるチャオ・タオ主演。物語は2001年に始まり、1度目は5年後、次には16年後に時代が移行し、2022年を舞台とする第3幕までを通して、主人公女性の感傷的な苦難と、時の経過と共に彼女の自立が深まっていく姿が捉えられている。

冒頭の場面は2001年頃に撮影され、映画の終盤に主人公たちが再び大同市に戻るごろには、この古い炭鉱都市が未来への可能性に開かれた完全に別の世界になっている。最初の2章は過去に様々なフォーマットで撮影された未使用の映像素材が多くの場面で使われており、サウンド版サイレント映画の形式が部分的に採用され、ポップ、ディスコ、伝統音楽等のサウンドトラックに支えられた流動的な編集がなされている。そうしたユニークなハイブリッド映像/音響が各時代の集合的記憶のようなものを想起していく。カンヌ映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映された。

クロージング作品
『スユチョン』 韓国
ソウルの女子美術大学を舞台にしたこの映画は、もうそれほど若くはない大学講師のジョンイムが、かつてはその分野で有名だった叔父のチュ・シオンに大学の演劇祭で学部の学生たちの寸劇を演出させようと大学に招へいするところから始まる。演劇祭への準備が始まり、その過程でシオンはジョンイムの上司で彼の大ファンである女性教授チョンと親しくなっていく。

本作は『A Traveler’s Needs』(英題)に続く今年2作目のホン・サンス監督作品。登場人物たちが食事をし、酒を酌み交わす場面で重要なことが示唆されることが多いホン作品だが、この作品もその例に漏れず、川沿いにある鰻料理店で多くの進展や転回が起こる(また、演劇祭の打ち上げの席で学生たちが独白する場面は不意に訪れる感動的なシーン)。

ジョンイムは織機で繊細なパターンの織物を作る新進の芸術家であることがこの作品の主題の1つである演劇の考察と共に、作品にもう1つのレイヤーを与えている。ロカルノ映画祭のコンペティション部門で上映され、主演のキム・ミニが最優秀演技賞を受賞した。

東京フィルメックス・コンペティション 10作品
★=長編監督デュー作

『四月』
フランス、イタリア、ジョージア

ジョージアでは、妊娠12週までの処置であれば堕胎手術は本来合法ではあるものの、社会的、あるいは政治的な圧力によって、それが実質的に違法状態になっているという。そんな保守的な社会において、ほかに選択肢を持たない女性たちを戸別訪問し、使命感のみに突き動かされながら、処置や手術を続ける1人の産婦人科医の姿を描く。

社会的にも精神的にも孤立し、内面を蝕まれ、次第に心身のバランスを失っていく彼女の姿が、超現実的な描写を交えつつ捉えられていくのだが、その描写の強度や厳密さは圧倒的。

パンデミックのために未開催に終わった2020年のカンヌ映画祭において入選の証である「カンヌ・レーベル」を与えられ、同年にサン・セバスチャン映画祭で最優秀作品賞を受賞した『BEGINING ビギニング』に続くデア・クルムベガスヴィリの長編第2作。本作はヴェネチア映画祭コンペティション部門で初上映され、特別審査員賞を受賞した。

『ハッピー・ホリデーズ』
パレスチナ、ドイツ、フランス、イタリア、カタール

イスラエルのハイファに住む、あるパレスチナ人家族の物語。作品は4つの章に分かれており、それぞれの章が家族内の別の人物を中心に展開し、それぞれが相互に絡み合う構成。

1つの家族(あるいは拡大家族)の置かれている状況や人間関係の考察を通じて、イスラエルにおけるパレスチナ人とイスラエル人の分断状況や、軍国主義、あるいは女性に対する家父長主義的な制約といった民族や国家やジェンダーをめぐる深い文化的・政治的な背景が露わにされていく。

2009年にイスラエル人監督ヤロン・シャニとの共同監督作品『Ajami』でカンヌ映画祭カメラドールのスペシャル・メンションを獲得したパレスチナ人監督スカンダル・コプティの2作目の長編作品(単独監督作としては1作目)。本作はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映され、同部門で最優秀脚本賞を受賞。

『サントーシュ』★
インド、イギリス、ドイツ、フランス

サントーシュが警察官として働き始めたのは、殉職した警察官の未亡人が職を継承できるという政府の制度のためだった。慣れない仕事に順応していく中で、彼女はすぐに昔ながらの警察のやり方を体験し、そこに否応もなく参加することになる。

性差別、汚職、権力闘争、そしてカースト制度や宗教による社会の分断。レイプされて殺害され、地元の井戸に捨てられた、いわゆる「不可触民」である少女の死の捜査を、ベテランでカリスマ性のある女性警察官、シャルマ警部の指揮の下で担当することになったサントーシュは、彼女を刺激的な指導者であり、フェミニスト的な連帯の拠り所と見なすようになるが…。

カンヌ映画祭のある視点部門で上映。第97回アカデミー賞国際長編映画賞部門のイギリス代表作品。

『女の子は女の子』★
インド、フランス、アメリカ、ノルウェー

模範的な生徒である16歳のミラは、ヒマラヤにあるエリート寄宿学校において、学校全体の行動と学習の基準を設定する責任者・監督生に女子生徒として初めて就任する。野心的で潔癖な性格にも関わらず、彼女は新入生のスリに対して初恋の痛みを覚え、最初の欲望に早々に屈してしまう。

彼女の初恋と性欲に対する探求は、母親の介入によって思わぬ方向へ。母親とスリの奇妙な親密さはミラの嫉妬と不安を引き起こし、母と娘の間にぎこちなく、重い溝を作っていく。

映画はインド社会の伝統的な価値観、とりわけ家父長制の陰が彼女たちの人生にいかに影響しているかを検証しつつ、母と娘の間の絶え間ない駆け引きや緊張関係に迫っていく。サンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドラマティック部門にて初上映され、主演のPreeti Panigrahiの演技に対して特別審査員賞が授与され、同時に観客賞も受賞した。

『ベトとナム』
ベトナム、フィルピン、シンガポール、フランス、オランダ、イタリア、ドイツ、アメリカ

ベトとナムは20代の炭鉱労働者の青年。彼らは粉塵まみれの画一的な職業生活を送りながら、地下何百mの暗闇の中で密かな愛を育んでいる。彼らは共に戦争で父を亡くしており、ナムと彼の母は父のベトコン時代の古い同志バと共に、まだ半分埋まった兵器が点在する森に覆われた中央高原へ父の遺骨を探す旅に出る。ベトは彼らに同行しつつ、ベトナムから密航し国外へ脱出することを計画しているナムの身を案じている…。

20年に及ぶ戦争による深い傷がまだ色濃く残る2001年のベトナムを舞台に、恋人同士である2人の炭鉱労働者の姿を通して、戦後のベトナムにおいて、若くクィアであること、そしてさらにはベトナムという国そのものが抱える困難と苦悩を描く。

催眠術のように優しく官能的に撮影されつつ、その表層の下に眠る深く暗い影の部分を炙り出そうとする象徴性に満ちた作品。デビュー作『樹上の家』で注目を集めた新鋭チューン・ミン・クイの2作目の長編である本作は、カンヌ映画祭ある視点部門で初上映された。

『黙視録』
シンガポール、台湾、フランス、アメリカ

家族でのピクニックのビデオ映像をじっくりと見ている若い父親。彼の幼い娘は行方不明になっている。このビデオは、若い両親が持っている娘の最新の映像のようだ。ほどなくして、行方不明の娘の映像が入ったDVDが家族の玄関先に届き始める。誰かがこの家族を長い間監視しており、おそらく娘を取り戻す鍵を握っていることが明らかになる。

ヨー・シュウホァの『幻土』に続く新作長編『黙視録』は、犯罪スリラーとして幕を開ける。シンガポール警察が所有する膨大な数のCCTV映像が駆使され、比較的あっけなく事件は解決するが、スリラーの枠組みをあっさりと超え、現代の孤立と監視文化についての、巧妙で、陰鬱で、瞑想的で、最終的には不可解さを含んだより多層的な物語へと変質を遂げる。

大量監視の時代に見る、見られるということはどういうことなのか。私たちの身近にあるこの大きな問いを考察することで、この作品は人間の孤独や脆さを見つめている。ヴェネチア映画祭コンペティション部門で上映。

『白衣蒼狗』★
台湾、シンガポール、フランス

タイからの不法移民の青年オームは台湾の山岳地帯の田舎町で老人や障害者たちの介護の仕事をしている。東南アジア各地からの不法移民たちを闇で働かせているボスの下、移民労働者たちの仲介役でもある彼は、ボスと移民たちとの間で板挟みになることも多い。そしてある日、彼が介護をしている老女から、重度の障害を持つ彼女の息子について、ある相談を持ち掛けられる。

移民労働者たちの絶望的に悲惨な状況や、彼らの直接のボスよりもさらに上の階層の闇社会の権力によって構築された搾取のシステムの在り方が、説明を極力排した厳密な筆致で描かれていく。フレーム内外で見事に制御された絵画的な構図や、長い沈黙を恐れない編集のリズムの調整も秀逸で、長編監督1作目にして見事な完成度に達している。

ホウ・シャオシェンとリャオ・チンソン(ホウ作品の長年の編集者)が製作者として参加。カンヌ映画祭の監督週間で初上映され、初長編作品を対象としたカメラドールのスペシャル・メンションを授与された。

『空室の女』★
中国、アメリカ、フランス、シンガポール

40代の主婦、ツァイは人生の目的を失い、大きな精神的崩壊の瀬戸際にいる。映画の冒頭で、彼女は不運な形で年配の女性に怪我を負わせてしまい、入院したその女性の家族から賠償を求められる。夫とは離婚手続き中で、反抗期の娘との間にも深い溝がある。同居中の義母はどうやら認知症を患っており、疎遠になって久しい実父は死期が近いようだ。彼女は、自分の上にのしかかる重荷や憂鬱から逃れようともがいている。

この作品は、こうしたツァイの「中年の危機」的状況、ひいては中国の中程度に裕福な家庭の機能不全を、4:3の息苦しいフレーミングと撮影監督のコンスタンツェ・シュミットによる美しく憂鬱なイメージによって極めて効果的に語る。映画初出演という主演のYu Aierは抑えた演技を見せる。

カンヌ映画祭の短編部門でパルムドールを受賞した『A Gentle Night』など、一連の短編作品で高い評価を得てきた新鋭チウ・ヤンの長編デビュー作。ベルリン映画祭エンカウンターズ部門で初上映された。

『家族の略歴』★
中国、フランス、デンマーク、カタール

高校の校庭での懸垂中に、内向的なシュオは、同級生のウェイが投げたバスケットボールが当たって落下し、足を負傷する。罪悪感を感じたウェイは、シュオを自宅でテレビゲームをしようと誘う。ウェイの両親と夕食を共にする中、シュオは母親が亡くなったことを明かし、アルコール中毒の父親から受けた虐待をほのめかす。

しかしこれは、ウェイの両親の共感を得るための、シュオにとって最初の巧妙なステップだった。徐々にシュオはウェイの裕福なアパートで過ごす時間を増やし、確実に彼の両親の信頼を勝ち取っていく。

本作が長編デビュー作となるリン・ジャンジェは、見事な語り口の正確さで、目立たない侵入者が潜り込んだ中流階級家庭内における、変化する力学を分析。完璧な彫刻作品のように、あらゆるフレームのあらゆる要素を徹底的なコントロール下に置きつつ、巧妙で不可解な曖昧さを保ち、スリラー作品のような緊張感を持続させるい。

サンダンス映画祭で初上映され、その後にベルリン映画祭でも上映された。

『ソクチョの冬』
フランス、韓国

スアは韓国北東部の海辺の町、束草(ソクチョ)にある小さなホテルで働いている。ソウルから数か月前に故郷に戻った彼女は、ソウルでモデルになりたいと思っているボーイフレンドのジュノと半同棲中。しかし、彼女の慎重に構築された日常は、ある程度名の知れたフランス人アーティスト、ヤン・ケランド(ロシュディ・ゼム)の到着によって乱されてしまう。生前にフランス人の父親に捨てられた経験を持つスアは、ケランドと出会い、長い間彼女の中に埋もれていた感情と疑問を再び芽生えさせる。

エリザ・スア・デュサパンによる同名小説の映画化作品である本作は、若い女性のアイデンティティの探求と受容の過程を繊細かつ親密に捉えた作品。冬のソクチョというロケーションの持つ魅力に加え、アニエス・パトロンによる抽象的なアニメーション・シークエンスの導入も大きな効果をあげている。日系フランス人監督、嘉村荒野の長編第1作で、トロント映画祭のプラットフォーム部門での初上映後、サン・セバスチャン映画祭の新人監督部門でも上映された。

「第25回東京フィルメックス」は11月23日(土)から12月1日(日)まで丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ有楽町にて開催。

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