俳優・加藤剛 ドラマ『人間の條件』が、人生を変えた

10月12日(木)7時0分 NEWSポストセブン

正義感の強い役を演じることが多い俳優・加藤剛

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、正義感の強い役を演じることが多い俳優・加藤剛が、役者としての本格デビューとなったドラマ『人間の條件』について、何度も作品に出演した木下惠介監督との思い出を語った言葉を紹介する。


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 加藤剛は1962年、TBSのドラマ『人間の條件』で役者として本格デビュー、戦時中に前線にいながらも自らの正義を貫く主人公・梶を演じた。


「その時のプロデューサーが養成所の稽古場で稽古しているのを見てくださり、中野誠也と私が応接室に呼ばれて、最終的に私が選ばれました。


 まさか、そういう大きな役をやれるとは思っていませんでした。この時は養成所の二年生で、撮影のためにほとんど授業に出られなかったので落第しました。


 初めてのカメラ前での演技でしたが、カメラを意識したことはありませんでした。演じるということは、その時の相手役と交流しながら本当にその時の役柄の気持ちになって生きることですから、それは舞台もカメラ前も変わりません。


 それだけに、毎日が大変でした。日常もその役の生活を意識しながら過ごすわけですから。兵隊として命令をきかないといけない中で、どう良心を生かすのか。そうした戦争の極限状況の中で人間としていかに生きるかを常に考えていましたから、辛くて苦しい日々でした。当時は姉の家に居候していましたが、『なんだか顔が変わってきた』と言われました。役者は、その役の中に入って生活すると自身の生活も同じになるから、顔も変わっていくんでしょう」


 その後の加藤の演じる役は梶と同じく、どんな困難な状況にあっても正義や良心を貫く硬骨漢であることが多い。


「たしかに多かったですね。正義感の強い役、正義のために自分の命を賭した役。それは、いつも最初にあの作品のことを思い出してやっていましたから。あの時の役を役者として超えられるかとか、役者としての行動の一つの基準になっていました。もし最初に違う役が来ていたら、その後の演じる役や人生自体も違っていたかもしれません。


 ですから、『人間としてこう生きなきゃならない』と思ってそういう役を演じてきたわけではなく、役を演じる間にだんだんそうなっていった。自分から『これをやりたい』『これは嫌』と言うことはなく、与えられた役をやってきました。悪役をやってこなかったのは、そういう役を振ってくれないだけなんです」


 映画デビューは1963年の木下惠介監督『死闘の伝説』。木下作品は『新・喜びも悲しみも幾歳月』まで六本出演している。


「映画も反戦をテーマにしている作品が多いですね。木下先生の映画の多くもそうでした。『死闘の伝説』は家族の疎開先に自分が復員したところ村から排除されるという内容でしたし、『新・喜びも〜』は最後に自分の息子が水産学校の生徒として船に乗っていくのを『これが戦争に行く船じゃなくてよかった』と見送る場面で終わります。


 最初は『人間の條件』を観て選んでくださったのですが、『先生、どういうふうにやったらいいですか』と聞いたところ、『君が思うようにやればいい。君を選んだ時、もうこの役は半分以上決まっているんだから』とおっしゃってくださったんです。信頼してくださったんですね。そういう、優しい先生でした」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小社刊)が発売中。


■撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2017年10月13・20日号

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