リーチマイケルが相手のロッカールームを訪ねて……なぜラグビー選手の行動は感動を呼ぶのか?

10月13日(日)5時30分 文春オンライン

 10月13日、ラグビー日本代表は、W杯史上初の決勝トーナメント進出をかけたスコットランド戦をむかえる。


感動を呼んだのは、プレーだけではない


 3連勝をかざった日本代表は、往年のファンだけでなく、ラグビーに馴染みがなかった人をも魅了した。感動を呼んだのは、ピッチ上でくり広げられたプレーだけではない。



リーチマイケル選手 ©JMPA


 ロシア戦後、日本代表主将のリーチマイケルが、相手チームのロッカールームを訪ねたという。ロシア選手の健闘をたたえ、模造刀をわたすためだった。



 また試合終了後に花道をつくり、日本代表を賞賛の拍手でグラウンドから送り出したアイルランド代表の姿は、世界中のファンの心を打った。


 サモア戦の前には、サモア代表が公の場ではタトゥーが目立たぬよう長袖のシャツを着用していると報じられた。サモアやトンガなどポリネシアの国々では、タトゥーは家系やルーツを表現する伝統文化である。一方、日本では入れ墨やタトゥーは、反社会組織と結びつけて考えられる。サモア代表は日本の慣習を尊重したのである。



「ラグビー憲章」に記されている5つの理念


 そう。話題になった一連のエピソードに共通するのが、他者や異文化へのリスペクトである。


「リスペクト」は、ラグビーを続けてきた人たちが、守り、育んできた価値観だ。世界のラグビーを統括するワールドラグビーが掲げる「ラグビー憲章」には、ラグビーが持つ大切な理念が記されている。


「情熱」「品位」「規律」「結束」。そしてリスペクト——「尊重」の5つである。



「相手チームをリスペクトしなさい」という教え


 ラグビーのU20日本代表監督の水間良武は、リスペクトについて次のように語る。


「ラグビー選手は若いころから『相手チームをリスペクトしなさい』と教えられます。今回のW杯では、ノーサイドのあと客席に向かって日本流のお辞儀をするチームが増えている。お辞儀も、日本文化へのリスペクトのあらわれといえるのではないでしょうか」



 スポーツは、相手がいてこそ成立する。それに加え、ラグビーは、球技としては最多の1チーム15人でプレーする。たくさんの人がかかわっているから、チームメイトや相手チーム、そして支えてくれるレフリーや指導者、ファンを「尊重」する文化が浸透したと考えられる。


 ラグビーは「情熱」によって肉体を極限まで鍛え上げた30人の選手たちが、ぶつかり合ってボールを争奪するスポーツだ。プレーには、野性的な闘争心が不可欠である。だが、だからこそ、剥き出しの闘争心をコントロールするための「品位」と、ルールを遵守する「規律」が必要になる。


「規律」は15人の「結束」に欠かせない


 さらに「規律」は、異なる体格や特徴を持つ15人が「結束」するうえでも欠かせない。水間は言う。


「15人それぞれが与えられた役割を果たすことで、チームが機能します。どんなに優れたプレーヤ—がいたとしても、仲間を思いやれなくてはチームの結束も規律も保てません。『I』ではなく『We』。ラグビーでは『私が』ではなく『我々が』という考え方が大切になってくる」



 規律を無視して自分勝手なプレーをくり返し、イエローカードやレッドカードが出ればどうなるか。チームは1人少ない14人で戦わなければならなくなる。


 ゲーム中、どんなに理不尽な出来事に直面したとしても、仲間のために、チームのために、応援してくれるファンのために、規律と品位を保ち、プレーを続けなければならない。



なぜ試合が終われば、互いにたたえ合って肩を組めるのか?


 もちろんすべての選手がラグビー憲章について教えられたわけではないだろう。しかし、と水間は続ける。


「たとえラグビー憲章を知らなかった選手でも、プレーを通して、5つの理念を体験的に理解していくんです」



 水間自身もラグビー憲章をきちんと学んだのは、現役を引退し、コーチになってからだった。だが、ラグビー選手としての自身の行動や発言を振り返ってみると、ラグビー憲章の理念に不思議と合致していたという。


「そもそもラグビー憲章に書かれた5つの理念は、子どものころ家庭や学校で教えられることでしょう。友だちを大切にして、ルールを守る……。ラグビーにとどまらず、人が生きていくうえで、とても重要な考え方だと思うんです」



 W杯には、20カ国が参加している。それぞれの国が、異なる歴史や文化を持つ。もちろん言語も人種も宗教も違う。さらに言えば、ラグビーの代表チームは国籍にこだわらない。同じ国の代表選手だからといって、同じ価値観を持っているとは限らない。



 しかしすべての選手が、ラグビー憲章に示された「重要な考え方」を共有する。だから試合が終われば、互いにたたえ合って肩を組めるのだ。死力を尽くしたゲームのあと、敵味方のサイドがなくなり、仲間になる。それが、ラグビーならではのノーサイド精神だ。


 ファンたちも、ラグビーが培ってきた「重要な考え方」に共感を覚えるからこそ、グラウンド外での選手の振る舞いや、ノーサイド後の風景に、心が動かされるのではないだろうか。




(山川 徹)

文春オンライン

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