クセがすごい『シャーロック』 画力の強さに目を奪われる、実況視聴向けドラマ?

10月13日(日)8時10分 オリコン

『シャーロック』(C)フジテレビ

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 10月7日からフジテレビ月9枠で放送開始されたディーン・フジオカ主演の『シャーロック』。同枠の前作・上野樹里主演の『監察医 朝顔』は、従来の月9のイメージを大きく覆すシリアスかつ重い内容で、視聴率および評価ともに高水準を維持し続けた。その後に続くのが、これまた従来の月9イメージとは大きくかけ離れた『シャーロック』だ。この2作だけ並べると、いまもっとも落差の大きな枠と言っても過言ではない。

■期待と不安の入り混じった視線が注がれた初回

『シャーロック』とはもちろんイギリスの推理作家、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』のこと。しかし、舞台は現代の東京に変更され、登場人物もホームズとワトソンではなく、現代の日本にマッチした形で「犯罪コンサルタント」と「精神科医」のコンビに変更されている。原作ファンにとっては、このアレンジが吉と出るか凶と出るかは、気になるところだろう。

 また、脚本は井上由美子氏と手堅いが、演出の西谷弘氏とシャーロック・ホームズにあたる本作の主人公・誉獅子雄役のディーン・フジオカといえば、『モンテ・クリスト伯—華麗なる復讐—』(フジテレビ系)以来のタッグである。

『モンクリ』を観ていた人であれば、「ああ、あの妙に中毒性のある摩訶不思議な味わいの壮大なエンタメがまた観られるのか」とワクワクするだろう。その一方で、このタッグは良くも悪くも、クセがすごい。『モンクリ』では、初回はいまひとつついていけず、回を重ねるごとにハマる人が増加していった流れがあっただけに、本作も初回は期待と不安の入り混じった視線が注がれていたように思う。

 結果からいうと、初回視聴率は12.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と上々で、初回ゲストの松本まりかの怪演も大いに話題となった。しかし、なんといっても一時も目を離せないのは、やはりディーン・フジオカだ。

 実は序盤は「話がまったく頭に入ってこない」という声が、SNSやネットの掲示板に相次いでいた。というのも、西谷氏の独特の映像がいやにスタイリッシュであることと、ディーン演じる誉獅子雄の身のこなしが無意味に華麗すぎるために、その「画力」の強さにばかり目を奪われ、なんだかよくわからないうちに話がどんどん進んでいってしまうためだ。

■珍妙ながら華麗な「コートプレイ」

 とある病院で屋上から謎の転落死を遂げた消化器内科医の赤羽栄光(中尾明慶)。その胃のなかにあったものが「バターとパセリだけ」という点に、誉は異様に食いつく。食いつくこと自体は良いのだが、おそらく視聴者が釘付けになったのはここから。「バターとパセリ」と呟きながらサンドバッグにパンチをし、さらに俊敏で鮮やかな動きでシャドーボクシングを繰り出しながら「バターとパセリ」「バターとパセリ」と繰り返すのだ。

 呆気にとられている間も、誉はマイペースで神出鬼没に動き続ける。独り言のように少し早口で、立て板に水のごとく一方的に喋る様子は、実に気ままで、変人じみている。

 また、誉の周りにはなぜか常に風が流れている、あるいは誉自身が風を起こしているかのように見えるのだが、そのひとつが、黒く長いコートの裾を、バサッと大きな音を立てて手ではらう「コートプレイ」だ。これは非常に珍妙ながら、それだけでお金がとれそうなほど華麗だ。振り返るとき、場所を移動するとき、コートの裾が大きく翻る。ときにはコートの裾を風呂敷代わりにして、他者の頭を覆って視界を遮ってしまう。

 また、畳にバンッと大きな音を立てて手をついて座ったかと思うと、すっくと立ちあがり、鴨居に手をかけて周りを眺めるなどの流れるような一連の仕草も、まるで何かのお点前を見ているような気分になる。

 挙げ句、尾行するために「変装」としてたくわえていた付け髭を外すときには、目の前でクロスさせた左右の手を大きく反対方向に引っ張るという怪人めいた仕草を見せる。これはネット上で「スタイリッシュ髭剥がし」と言われたり、付け髭を剥がしても本人の髭があることから「最初から髭はいらなかったとか言うな」というツッコミが出たりしていた。また、そうしたツッコミが盛り上がることから「実況向けのドラマ」とも言われていた。

■気づいたらすっかり不思議な世界観に取り込まれている

 この意味があるのかないのかわからない、大きな音を立てる大仰な動作を見ているうちに、もしかしたら「茶の湯」の作法なのではないかとすら思えてきた。例えば、茶室に入る最後の客人は、わざとピシッと音を立てて戸を閉めるのだが、これは「入り終えたこと」を伝えるため。また、茶室のなかはあえて音を立ててサッサッと畳をする摺り足をしたり、出された茶を飲むときには最後の吸いきりとして亭主の心づくしをいただく意味で、ズーッという音を立てて飲み干すことになっている。

 そう思うと、無国籍の不思議な雰囲気を持つディーン・フジオカ演じる誉の動きのどれもこれもが、和の世界の「機能美」ならぬ「様式美」に見えてくるのだ。それを体現できるのは、ディーンの持つ華麗で上品な変人っぽさ、身体能力の高さや特技としているダンスやボクシングなどの経験値の賜物だろう。

 ともかく、途中まで「話がまったく頭に入ってこない」と思っていたのに、その一挙手一投足を目で追ううちに、気づいたらすっかりこの不思議な世界観に取り込まれているのである。

 本作は、そんなディーン・フジオカの持てるさまざまな武器を総動員し、魅力的なトンチキ具合を利かせつつ、岩田剛典との「バディモノ」としての魅力も押さえ、ストーリーはがっちり演技派の脇役陣、ゲスト俳優で動かしていくという巧みな戦略のもとに作られている気がしてならない。
(文/田幸和歌子)

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